リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

1948年指定医師制度の根拠、1952年優生保護法改正の理由

指定医師制度を設けた根拠

第2回国会 衆議院 厚生委員会 第14号 昭和23年6月24日

福田昌子(日本社会党
本法案が旧來の國民優生法と異なる点を列挙いたしますれば…(中略)…
五、現在妊娠中絶手術の結果しばしば母体の生命を失うものがありますために、これを救済するために医師の技術並びに設備等を斟酌して指定医師制度を設けましたこと。
……優生保護法案の大要を説明させていただきたい……
 第三章母性保護の章は、人工妊娠中絶に関する規定であります。現在人工妊娠中絶は、医学上の立場から母体の生命を救うため必要であると認めて行う場合にのみ合法性を認められ、一般的には刑法上堕胎の罪として禁止されているのでありますが、この法案で母性保護の見地から必要な限度においては、さらに廣く合法的な妊娠中絶を認めようとするのであります。すなわち客観的にもその妥当性が明らかな場合は、本人及び配偶者の同意だけで行い得ることとし、その他の場合には、同意のほかにさらに地区優生保護委員会の判定を必要としました。またこの場合には專門的な技術がないといろいろの弊害を伴いますので、さきに申し上げましたように、指定医師制をとつて惡い影響を母体に残さないようにいたしました。

闇手術が多発し多額の無駄が発生している、母体の健康に対する障がいが甚だしい⇒手続きを簡素化する

「闇中絶があとを絶たない」ことと、優生保護法に従って行う中絶の費用は「全部合せて千円」で済むが、闇手術は「三千円から五千円」取られるとして何十億円もの無駄が発生していること*1、熟練した専門家以外が行う闇堕胎では「母体の健康に対する傷害が甚だしい」ことの2つを理由に、闇中絶から合法的中絶への転換が必要としている。もう一つは、健康上の理由による場合には指定医師だけの認定に「手続きを簡素化」する。
第13回国会 参議院 厚生委員会 第10号 昭和27年2月28日

○法制局参事(中原武夫君) 優生保護法は合法的な人口妊娠中絶の可能範囲を拡大しまして、止むを得ざる事情にある人が刑法の堕胎罪にひつかからないような措置を講じてあります。ところがそういう措置を講じたにもかかわらず、優生保護法の規定によらない人口妊娠中絶、いわゆる闇の人口妊娠中絶がなおあとを絶たないと言われております。その数は的確には推定できませんが、公衆衛生院の古屋傳士は十二万と言われ、谷口先生は五十万近い数があるのではないかというように推定されております。資料によりますと、昭和二十五年度におきまして妊娠可能の配偶者を持つておる女子の数は三百六十万人であります。これは二十五年における総女子人口四千二百五十万人の大体八分五厘くらいに当ります。この三百六十万という数は若し外部的な抑制がなければ出産者として現わるべきものであつたのであります。ところが昭和二十五年の出生数は現実には二百三十万であります。そうしますとそこに百三十万人の差が出て参ります。この百三十万人は恐らく出生を抑制された数であるということができるのであります。一方二十五年度における優生保護法に則つて中絶をやつた数は約五十万であります。そうしますと八十万人というものが優生保護法の線に乗らずして何らかの形で抑制されたということになるのであります。その途は一つは受胎調節の方法を講じたことによつて妊娠に至らずして抑制されたものでございます。人口問題研究所が調査いたしました二十五年度における受胎調節の普及率を見ますと二〇%弱になつております。又その受胎調節の方法の成功率は八〇%弱になつております。この計数に三百六十万を掛けまして割出して参りますと五十四万人、約五十万人という者が受胎調節の方法によつて抑制されておるということができます。すると優生保護法によるもの五十万人と只今の受胎調節によるもの五十万人を合せますと百万人、残りの三十万人は闇によつて人口妊娠中絶が行われたものだということになるわけであります。三十万人の人々が人口妊振中絶の途を闇に求めたということは、二つの面において大きな弊害を伴つております。一つは経済的な面であります。優生保護法の線に乗つかつて人口妊娠中絶をやりますと、費用は全部合せて千円で済みます。闇でやりますと三千円から五千円取られると言われております。少いところを押えましてその差二千円を三十万に掛けますと大体六億円、その六億という金が浪費されたということになるわけであります。それから優生保護法は指定医という制度を設けて、熟練した專門家によつて人口妊娠中絶をやるということにしております。その線から外れた人口妊娠中絶は拙劣な技術によつて手術が行われたということになるのでありますから、母体の健康に対する傷害が甚だしいと言うことができるのであります。この二つの面から闇による人口妊娠中絶はどうしても合法的な線へ乗せて行く措置を講じてやらなければならないということになるのであります。人口妊娠中絶というものは最善の方法ではございません。若し子供を持ちたくないならば、子供を持つことがどうしてもできないならば、それは受胎調節の方法によることがよりよい方法であります。受胎調節につきましては先ほど厚生省からお話がありましたように、行政措置によつて二十七年度から積極的に運動を展開されるということになつております。受胎調節は法律の面では自由放任行為であります。法律上禁止されてはおりません。若し受胎調節のことに関して法律がタッチするとするならば、そういう厚生省の行政措置による奨励策に便乗して金儲けのためにいい加減な受胎調節業をやる者、そういう者が出て来ることを阻止するというだけを一応考えておけばいいということになるのであります。堕胎罪という網がかぶさつておるために初めから終りまで一応法律によつて措置を講じてやらなければならない人工妊娠中絶の場合とは趣を異にしておるのであります。優生保護法があるにもかかわらず闇の人口妊娠中絶が行われております理由は、そのうちの或る部分は優生保護法が認めておる範囲に外れておる、そういう場合が考えられます。それから又優生保護法があるということを知らずに、優生保護法で当然許さるべき事由があるにもかかわらず、この法の適用を受けなかつたという者もあります。それから更に進んで優生保護法の存在を知つておる、そうして指定医の所へ行つたけれども、手続が誠に面倒くさいので、優生保護法の手続をやめて以外の方法によつた者もあります。そこでこの闇の堕胎を合法的な人口妊娠中絶の措置へ乗せる方法としては、もつと優生保護法の認める範囲を拡大し、実質的に堕胎罪というものを廃止してしまえという議論がございますが、こんは先ほどお話がありましたようにとるわけには参りません。そこで優生保護法で要求しておる手続、その手続を簡素化することによつて手続の煩瑣を嫌つて闇に走つた人を合法的な線に乗せて行こうという途を今度の改正案はとつでわけであります。現在は身体的な健康上の理由による場合でも、精神病とか将来健康を害する慮れがあるという見通しの下にやる場合には、指定医師の認定だけでなく、ほかの医師の意見書と審査会の審査と二つの手続を要求しておるのであります。このことが非常に優生保護法を利用する者にとつては煩瑣な手続になつておるのであります。それで改正案では健康上の理由による場合には、指定医師だけの認定だけでやつてよろしいというように措置をいたしました。今申上げました二つのことが今回の改正案の主眼点でございます。

闇手術は拙劣な技術で母体の健康を害する

第13回国会 参議院 厚生委員会 第12号 昭和27年3月25日

02 谷口弥三郎
闇の手術は、拙劣な技術によりますところの中絶手術の結果母体の健康を害します。他面におきましては合法的な手術費用に比較いたしまして多額の経費を取られますために、これによる経済的の浪費を伴うのでございます。これらのいわゆる闇の人工妊娠中絶が行われざるを得ないという理由は、今日の経済と人口とのアンバランスが根本的な原因でありましようが、優生保護法の要求する手続が余りにも煩雑に過ぎるということもその大きな理由の一つになつているのでございます。優生保護法の目的の一つである母体保護の見地からの適正化を図ることによりまして闇による人工妊娠中絶を合法的な線に乗せて行くことが必要であります。このために健康上の理由とか、姦淫されて妊娠した場合の人工妊娠中絶については、従来のように他の医師又は民生委員の意見書の添附、審査会の審査を要せずに指定医師の認定だけで行い得ることといたしたのであります。

*1:ちなみに1952年の国家公務員の初任給は7,650円 https://www.jinji.go.jp/kyuuyo/kou/starting_salary.pdf