リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

「恐怖と恥じらいといった心理的な抵抗感覚を最後の砦にする」という発想

水子供養というカルトと政治の結びつき

第101回国会 参議院 社会労働委員会 第11号 昭和59年6月26日

プロライフ派の村上正邦議員は、経腟中絶薬プレグランディンの発売に反対して、以下のような発言をしている。

村上正邦君 厚生省はこの五月の三十日に小野薬品工業から申請の出ておりました人工妊娠中絶剤を正式に承認したわけですが、私はこの承認に対しましては厚生省に慎重にしていただきたいということを申し入れてまいりました。それはこの薬が承認されることによって安易な中絶がふえるのではないかと心配したからであります。この薬剤を使えばより楽に中絶することができるという考えが広まって、中絶に対する最後の歯どめとも言える、中絶手術を受けるときのあの恐怖心、そして女としての、女性としての恥じらい、こういった心理的な抵抗感覚が完全に麻痺してしまう。厚生大臣、果たせるかな、いろいろ最近の週刊誌を見ますと、「人工流産剤認可で女性がもっと翔び始める」とか、それから「薬を入れるだけで妊娠中絶」とか、それからまた「手術よりも安くて安全で簡単」とか、こういう報道が最近なされて、この薬剤は夢の薬だとか福音だとか言われておるわけであります。また、驚くなかれ投資家までが、この薬剤は多量に売れてもうかる、そうした商品だということで、この承認のうわさが流れた途端に製造元の小野薬品の株価は史上最高値の一万三千八百二十円を記録しております。胎内で安らかに成長している胎児を無残にも窒息さして中絶する薬が夢の薬として成長商品などと言われるとは、何とも私は恐ろしいことではないか、私には福音ではなくして悪魔のささやきが聞こえると申し上げておきたいと思います。
 そうした一方で、体外受精までやって子供を産もうとする。これは産むということでなくしてつくるといった言葉の方が私は適切かと思うのでありますが、大臣、こうした勝手につくって勝手に殺す、こういったまことに生命に対する倫理感というものが全然変わってくる、これは人間の思い上がりにほかならないと思わざるを得ません。

まさにこれは欧米のプロライフ派と通じる考え方だ。ただし、一神教ではない日本人には「神」の対比として「悪魔」を持ち出しても、なかなか罪悪感や恐怖心を起こさせることはできない。そこで持ち出したのが現世的な不都合をもたらす「祟り」であり、特に1960年代から具象化されていった「胎児」を持ち出して、「胎児の祟り」という観念を利用したのが日本のプロライフの独創的なところではあった。何しろ、海外では「胎児」とは無垢な被害者として描かれているのに対し、日本の胎児は「怒り狂い、中絶を行った親を罰する」加害者に仕立てられているのである。しかもそれが神秘主義やスピリチュアルブームも利用して、具体的な「病」の形で持ち出されるのだから、なかなか回復しない病気で心が弱っている人々を吸い寄せ、「地蔵」を買わせる。何やらアヤシイ宗教と全く同様のことをやっているのだ。


日本で初めて水子供養専用寺として作られた紫雲山地蔵寺のサイトで宣伝されている本の紹介文を示す。

水子地蔵寺霊験(増補改訂版)

この世の中には多くの人達の知らない生命界がありまた世の政治家たちの、無関心ではいられない重大な政治上の課題があります。
★肉体のない水子がものを言う驚くべき事実
★ノイローゼの男女の治病の実例
★股関節脱臼全快
★子供の弱視
★子供の夜尿症
★子供のテンカン、肩、首、腕の故障
★乳ガン
★腰痛
★心臓病等の奇跡的全快の話
★その他、水子関係の霊験記事満載。

この寺の沿革には落慶式の時の写真が掲げられ、参列者として、当時の総理を含み以下の名が連ねられている。

紫雲山地蔵寺落慶
(昭和46年9月18日)
写真右より
荒船清十郎 衆議院副議長(当時)
佐藤栄作 総理大臣(当時)
橋本徹馬 初代住職
栗原 埼玉県知事(当時)
山中 埼玉県副知事(当時)

さすがに住職は代替わりしたようだ……が、名前が見当たらないのはどういうことか? 名前も一緒に継いだというのだろうか?

初代住職はかっては政治評論家として活動しておりました。また、人間は本来無病健康であるという観点から今の科学的医学がふれていない心の問題を重視し 、病気を治すにあたっては治療を受けるとともに、心の持ち方を改めれば病気は急速に治ると、長年にわたって説いてきました。その間 ありとあらゆる相談に応じてきましたが、その相談の半数以上が胎児中絶の後遺症に悩む人であることを知って、驚きました。

そして近年の異常な犯罪、社会問題の多くが胎児中絶、人命軽視に関係があることを思い、埼玉県秩父の山中に、水子供養のための「紫雲山地蔵寺」を建立しました。
当時の佐藤栄作総理大臣が多大の関心をよせられ、昭和46年9月18日の落慶式には政務多忙にもかかわらず秩父地蔵寺までお見えになり、祭文を読んで、水子の諸霊を供養されるとともに、水子のために写経をも納められました。

初代住職の遺志を受け継いで、生命の尊さを世に知らしめるとともに、道徳の危機を食い止めるよう、活動を続けております。

以下の案内の筆者は橋本泰雄になっており、これが恐らく現住職の名なのだろう。

日々の生活に役立つ基礎知識
 
「認知症の発生を防ぐ供養の効果」
驚愕する認知症患者数の増加


「亡くなっている人の訴えを知る基礎知識」
 医療費・介護費用の削減が可能に

さらに「供養は、お位牌と墓石で致します」として、位牌代わりの地蔵を買うよう勧めておきながら、「紫雲山地蔵寺は、単立の宗教法人です」とわざわざ結んでいるところなど、ますますカルト臭い。

地蔵寺からのお知らせ
よくあるお問合せについてお答えします。
「お地蔵様で水子供養をするのは?」
地蔵寺では、ご先祖からの宗旨を大切にすることが、ご先祖の加護を強くいただくことが出来る栄えやすい方法と考えております。
それ故、水子の供養は各ご家庭の宗旨に沿って行うことが良いです。お観音様やお地蔵様はどの宗旨でも尊ばれており、お地蔵様は昔から子供を救う役割を特に担っておられますので、水子のためにはお地蔵様をお祀りしてご供養されることが望ましいと考えております。
亡くなっている方のご供養は、お位牌と墓石で致します。それ故、水子の供養はご自宅の仏壇にお位牌代わりのお地蔵様を祀り、供養に適した地に墓石を立ててご供養するとご供養がよく届きます。これが水子供養の一般的なやり方です。

紫雲山地蔵寺は、単立の宗教法人です