リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

政府の人権対策に「大きな穴」…ジャニーズ問題で注目、国連作業部会の声明が突きつけた課題

東京新聞 2023年8月12日 18時00分

日本は過去数十年、人権対策を明らかに怠ってきた。地道に広げていこう!
政府の人権対策に「大きな穴」…ジャニーズ問題で注目、国連作業部会の声明が突きつけた課題:東京新聞 TOKYO Web


「政府の取り組みに、大きな穴が開いている」
 国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会は、8月4日に公表した声明で、ジャニーズ事務所を巡る性加害問題など日本の人権課題について、日本政府に改善を迫った。

 ボールを投げられた政府。声明への見解を問われた松野博一官房長官は「法的拘束力を有するものではない」とかわした。
国連作業部会の指摘は、それほど取るに足らないものなのだろうか。私たちは声明をどう受け止めたらいいのだろうか。国連作業部会の調査に協力した弁護士らと声明の意義について考えた。(デジタル編集部・福岡範行)


◆政府へ「実効的な救済を確保すべき」
 12日間の訪日調査をへて、国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会が4日に公表した暫定的な声明では、ジャニーズ問題だけにとどまらず、女性や性的少数者(LGBTQI+)、障害者、労働者など、幅広い分野で「明らかな課題」が残っていると注文を付けた。


 日本政府に対しては、「あらゆる業界で、ビジネス関連の人権侵害の被害者に、透明な調査と実効的な救済を確保すべきだ」として、被害者救済や人権意識向上の要となる国家人権機関の設置を強く促した。ジャニーズ問題に関しても、主体的に被害者を救済するよう政府の積極的な関与を求めた。
 国連作業部会が東京都内で会見を開いた3日後。松野官房長官は8月7日の記者会見で、声明について「作業部会の見解は、国連や国連人権理事会としての見解ではなく、わが国に対して法的拘束力を有するものではない」と発言。ジャニーズ問題への対応の質問が続くと、「一般論として、個別の事業者における事案は、当該事業者において適切に対応されるべきものと考えている」と語った。


 外務省人権人道課の担当者は、松野官房長官の「法的拘束力を有しない」という発言について、「あくまで事実関係として述べただけで、見解を重視しないというわけではない」と解説する。声明については「出たことは承知しているし、しっかり読んでいます」とは述べたものの、政府として今後、どう対応するかは「まだ予断を持って答えられる状況にない」と繰り返した。


◆「法的拘束力がないとか言っている場合じゃない」
 20年来、ビジネスを巡る人権問題に関わり、今回の国連作業部会の聞き取りにも一部、同席した斉藤誠弁護士(77)は、松野発言に「法的拘束力がないとか言っている場合じゃない」と反論。ジャニーズ問題に関する「事業者で対応すべきだ」との発言には、「全く勘違いしている。国の責任を放棄している」とまで言い切った。
 国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ」事務局長の小川隆太郎弁護士(38)は「現場に足を運んで、かなり包括的に日本の人権問題を調べてくれて、網羅的なレポートになった」と専門家たちの仕事ぶりを評価。声明の指摘を重視し、日本政府や企業に「真摯に受け止め、課題に直ちに取り組む必要がある」と求める文書も公表した。
 日本政府にとって、国連人権理事会が任命した専門家から指摘を受けるのは、今回に限ったことではない。過去には、国連作業部会同様、国連人権理事会が任命した専門家による「特別報告者」からも何度か勧告を受け、そのたびに反発してきた。


 今年6月に改正された入管難民法のときもそうだ。国会で審議中だった4月、改正案について、国連人権理事会の特別報告者らが「国際人権基準を満たしていない」として、抜本的な見直しを求める共同書簡を日本政府に送った。
これに対する斎藤健法相の見解は、奇しくも松野発言と同じだった。「国連や人権理事会としての見解ではない。わが国への法的拘束力もない」。その上で、斎藤法相は「一方的な公表に抗議する」と訴えた。
 2017年には、特別報告者が共謀罪に関し、懸念を表明。特定秘密保護法放送法の解釈変更を巡っても「知る権利を狭めている」などとして、改善を求める勧告をした。このときも日本政府は「一方的に意見を公表した」「不正確な内容だ」と抗議の構えを見せた。


◆国連の「指導原則」に賛同するのに
 日本は長年、国連人権理事会の理事国を務めてきた。国連人権理事会が2011年に決議した「ビジネスと人権に関する指導原則」にも賛同している。指導原則では、国家には人権を保護する義務があるとされ、政府が被害者救済など人権対策の中核を担うよう位置付けている。


 この指導原則に基づき、日本政府は2020年10月に「『ビジネスと人権』に関する行動計画」を、22年9月には「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定している。
 にもかかわらず、耳の痛い指摘を受けると、プイッと横を向く日本政府。
 そんな政府の姿勢に、斉藤弁護士が懸念するのは、日本の企業活動への影響だ。


◆重要度増す「ビジネスと人権」
 近年、ビジネス界において人権への意識は、国際的に高まっている。被害者救済という観点はもちろん、人権侵害の解消に取り組むことが企業の国際競争力の向上につながると位置付けられるようになってきたからだ。
「ビジネスと人権に関する指導原則」でも、企業に取り引き先の人権侵害にも対処するように求めており、今やビジネスにおける人権対応への目は厳しくなっている。

 2021年には、カジュアル衣料品店ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが、「強制労働によって生産された中国・新疆ウイグル自治区の綿を使用しているのではないか」と疑われ、米国の税関でシャツの輸入を差し止められた。
 「日本という国として人権を守っていないと、国際社会から立ち遅れた国と見られてしまう」。斉藤弁護士は、国を挙げて人権の対策強化に取り組まなければ、日本の企業活動の足を引っ張る恐れがあると警鐘を鳴らす。
 斉藤弁護士は、日本政府や企業が人権問題の解決に積極的に取り組むことのメリットを説く。「労働事故もなく、男女や正規非正規の給料差別もないところなら、頑張って働こうと思える。企業の活力を高め、プラスになる」
 ヒューマンライツ・ナウの小川弁護士も、国連作業部会の声明で触れられたアニメ業界の長時間労働を例に挙げ、問題解決に消極的だった場合、「日本のアニメが人権侵害の上でつくられているとなると、海外で扱ってもらえなくなるかもしれない」と心配する。
 小川弁護士は、今回の国連作業部会の調査が、日本の現状を変える転機になってほしいと期待する。「声明を読むと、ジェンダー差別など国内のさまざまな問題が『ビジネスと人権』に位置付けられるんだと気づける」と紹介し、「企業側にも労働組合にも、ぜひ読んでほしい」と呼びかけた。