リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

少子化関連記事

讀賣新聞オンライン

「縛られる日本人」著者が説く日本の少子化対策と子育て支援…ベテラン記者が考察 : 読売新聞

少子化はなぜ進む…日本を愛するハーバード大教授が米国、スウェーデンと比べたら
2023/07/27 15:00


日本でこんなに少子化が進むのはなぜなのか――。多くの人が抱える疑問の一つだろう。この問題を考えるにあたって、様々な示唆を与えてくれる本を今回はご紹介したい。

日本より出生率の高い両国
メアリー・C・ブリントン著『縛られる日本人 人口減少をもたらす「規範」を打ち破れるか』(中公新書
 タイトルは『縛られる日本人』(2022年、中公新書)。著者は米国の社会学者で、ハーバード大学教授のメアリー・C・ブリントン氏。アメリカ人の研究者が日本の切実な社会問題である少子化や人口減少を論じることについて、「確かに私は日本社会の部外者だが、50年近く日本を見つめ続けてきた」「日本語を話し、読むことができる」「日本を愛している」とつづる。そんな著者が、日本、アメリカ、スウェーデンの子育て世代へのインタビュー調査(日本では2012年に20代半ばから30代前半までの男女80人以上にインタビューし、2019年~2020年に追跡調査も実施)と、各種統計調査をもとに、日本の低い出生率の背景にあるものを読み解いたのがこの本だ。


[PR]
 興味深いのは、政府による子育て支援策がなくても日本よりも高い出生率を維持しているアメリカと、日本と同様、公的な子育て支援策がある一方、日本よりも高い出生率を維持しているスウェーデンの状況分析だ(本書では、合計特殊出生率=1人の女性が生涯に産む子どもの平均数の推計値=とは別の指標を用いているが、人口統計資料集<2023>改訂版によると、2020年の合計特殊出生率は、日本は1.33、アメリカは1.64、スウェーデンは1.67となっている)。

 著者によると、アメリカには、連邦レベルでの有給の育児休業制度がなく、質の高い公的保育サービスも存在しない。州レベルでは、八つの州とコロンビア特別区(ワシントンDC)で有給の育休制度を定めた法律が成立したが、本書執筆時点でまだ発効していないという。有給の育休制度がある企業で働く人はすべての働き手の2割に満たないため、働き手の多くは、育児で仕事を休んだり、子どもを預けたりする算段を自分で考えなければならない。それでもアメリカの出生率が日本より高いのはなぜなのか。

「家族」の定義は広く、ジェンダー本質主義の発想少なく
アメリカの若い世代は「家族」の定義を広くとらえているという(写真はイメージ)
 理由は三つあるという。一つは、アメリカの若い世代は「家族」の定義を広くとらえており、友人や近所の人も含めて考えているため、いざ困った時に助けを求められる幅広い支援ネットワークが築けている点。日本の若者に「家族とは何か」を尋ねた調査では、ほぼ例外なく「男女のカップルと少なくとも1人の子ども」と回答したのとは対照的だ。


 二つ目は、アメリカでは「ジェンダー本質主義」的な発想、つまり、「男性は主に稼ぎ手であり、女性は主にケアの担い手である」という役割分担意識が日本よりも希薄な点。男女双方が育児にかかわるため、日本のように母親だけが育児負担を背負う「ワンオペ育児」に陥りにくいといえる。

 三つ目は、アメリカの労働市場が柔軟で、流動性が高い点。終身雇用型の日本では、雇用が守られやすい半面、職務内容や人事異動、転勤に関して働き手は会社の決定に異議を唱えにくい。反対に、転職社会のアメリカでは、出産・育児で会社を辞めても、別の会社で同等あるいはよい条件の職を見つけられるチャンスがある。教育レベルの高い一部の層にとっては、家庭生活とのバランスの取れた働き方をするために、雇用主と交渉することも可能だ。

 スウェーデンはどうか。

「共働き・共育て」モデルを構築したスウェーデン、日本では…
スウェーデンが日本と異なるのは、「共働き・共育て」モデルを構築してきた点にある(写真はイメージ)
 日本もスウェーデンも公的な子育て支援サービスを持つが、日本との決定的な違いは、スウェーデンでは政府が女性の労働市場参入を促進し、かつ、夫婦が望む数の子どもを持てるよう、「共働き・共育て」モデルを構築してきた点にあるとする。日本の「両立支援策」が、男性稼ぎ手モデルは残したまま、女性に仕事と家庭の両立を求めてきたのに対し、スウェーデンでは育休制度や公的保育施設整備に積極的に投資をし、女性が「仕事か家庭か」を選ばなくてもよいような政策を1970年代から進めてきた。さらに、1990年代には男性が取得しなければ権利が失われる男性専用の育休期間を導入し、男性の育休取得率を向上させた。こうした政策が結果的に日本よりも高い出生率維持につながっていると見る。


[PR]
 翻って日本では「ほかのどの中・高所得国よりも充実した有給の育休制度を男性にも認めている」にもかかわらず、男性の育休取得率が低く、「共働き・共育て」社会になっていない。その理由として、著者が指摘するのが、「硬直化された社会規範」の存在だ。

 たとえば「一生懸命働いて家族のためにお金を稼ぐのが男性の役割で、育児は女性の役割」「家族は男女のカップルと子どもで構成されるべきもの」「男性は育休を取るべきではない」などが挙げられる。共働きやシングルマザーの世帯が珍しくなくなり、「自分も育児をしたい」と考える若い男性が増えているにもかかわらず、高度経済成長期に確立された社会規範が今なお若い世代の手足を縛り、結果的に低い婚姻率や出生率を招いている。だから今こそ古い規範を打ち破る時だ――というのが著者の主張だ。

 「社会規範」と聞いて、思い出したことが二つある。


 一つは、米国の人類学者、ルース・ベネディクトが1946年に著した『菊と刀』の中で論じた「恥の文化」という概念だ。ルース・ベネディクトは、罪を行動規範とする欧米の「罪の文化」と異なり、日本は「恥の文化」を持ち、日本人は他人の目や世間を強く意識するとつづった。

 もう一つは、家族社会学者の山田昌弘さんが「少子化の主要因は未婚化で、未婚化の背景には『世間体意識』がある」と話していたことだ。日本人は世間体意識が強く、世間並みの生活から脱落しそうな結婚は選ばれない。非正規雇用が増えた今、だから未婚者が増え、少子化も進むという話は妙に説得力があった。

「未婚の影に『世間体意識』がある」と論じた家族社会学者・山田昌弘さんの記事(2022年6月26日読売新聞朝刊)

[PR]
「多元的無知」という問題、悪しき規範の再生産招く恐れも
 社会規範の強い社会では「ファーストペンギン」(群れの中で最初に危険な海に飛び込む1羽目のペンギン。転じて、リスクを恐れず初めてのことに挑戦する開拓精神の持ち主のこと)が必要だが、「多元的無知」という状況が、より強い社会規範を引き起こしてしまうリスクも著者は指摘する。「多元的無知」とは、ほとんどの人がある考え方を持っているにもかかわらず、自分たちが少数派だと思い込んでいる状況を指すという。男性育休に引き寄せて言えば、「男性は育休を取るべきではないという考え方はおかしい」「男性が育休を取るのは好ましいことだ」と多くの人が考えているにもかかわらず、そうした自分の考え方は少数派であると思い込み、自分の考えに従って行動することができず、結果的にそうした意見が少数派であるというイメージを強めてしまう。そうすると、本当はほとんどの人が支持していないのに、悪しき社会規範が長期間にわたり再生産されかねないというのだ。

 多元的無知を解消するために、どれだけの男性社員が本音で育休取得を望んでいるかを調査し、社内で周知することを著者は提案する。また、現実的な政策として、男性育休取得の義務化も提案する。何よりも本書から強く感じられるのは、少子化の責任は個人ではなく政策や根強い社会規範にあり、若い世代の声を聞き、その意見がより尊重される社会になることが大切だというメッセージだ。

 本書の帯には「愛するがゆえの警鐘」とある。物事を考える際は、「制度」だけではなく「風土」との両方を見ることが大切だとよくいわれる。制度、風土を含め、いろいろなことを考えさせるタネが詰まった本といえる。


プロフィル
猪熊 律子( いのくま・りつこ )
 読売新聞東京本社編集委員少子高齢化や、年金、医療、介護、子育て、雇用分野での取材が長く、2014~17年、社会保障部長。社会保障に関心を持つ若者が増えてほしいと、建設的に楽しく議論をする「社会保障の哲学カフェ」の開催を提案している。著書に「#社会保障、はじめました。」(SCICUS、2018年)、「ボクはやっと認知症のことがわかった」(共著、KADOKAWA、2019年)、「塀の中のおばあさん 女性刑務所、刑罰とケアの狭間で」(KADOKAWA、2023年)など。

フランス、スウェーデンの出生率低下から、日本の少子化を考える…子供を持つ女性が介護も仕事も担う?読売編集委員が考察 : 読売新聞

子どもが「のびのび」育つ社会を築くには…「こども家庭庁はここ1、2年が勝負」 : 読売新聞

既婚者の8割が感じる「2人目の壁」、もうひとり産みたかった母親がいま願うことは : 読売新聞

少子化の現代で9人の子育て、37歳の女性はなぜ子だくさんママになったのか : 読売新聞