リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

合計特殊出生率(TFR)1未満! 少子化が急激に進行する韓国の状況

独立行政法人労働政策研究・研修機構ホーム > 調査研究成果 > 海外労働情報 > フォーカス > 2022 > 7月:韓国

かなりショッキングな内容。

世界最下位を記録した韓国の出生率、その現状と政府の対応

日本も参考になる?

3.少子化問題に対する政策
 韓国の場合、少子化に対する問題認識が他国に比べて遅く始まった。韓国の出生率は1950年代の朝鮮戦争以後、急激に高まり、歴代政府は積極的な産児制限政策を基調としてきた。1970年代には保健所で中絶手術を支援するなど、現在では想像もできない人口抑制政策が展開された。その影響によって韓国の出生率は人口置換水準(2.13)を下回り、1983年に2.06まで低下し、翌1984年には1.74まで下落した。このように出生率が人口置換水準を下回った後も韓国の産児制限政策は続き、1996年になってようやく産児制限政策を廃止し、産児自律政策に切り替えた。しかし、その後も少子化問題を解決するための努力は行われなかった。少子化問題が社会に大きな影響を及ぼすと認識されたのは1998年で、2003年になってようやくこの問題を解決するために政府は「少子高齢社会委員会」を発足し、「少子高齢社会基本計画」を5年ごとに発表するようになった。しかし、こうした委員会が発足したにもかかわらず、韓国の少子化対策は十分な成果を上げることに失敗した。韓国も他国と同様に、少子化対策として、はじめの数年間は出産した人にサービスを提供することに集中し、出産奨励策、育児支援策などを展開した。しかし、先に説明したように出生率はさらに下落し始めた。特に、育児休業支援などの多様な政策支援の拡大にもかかわらず、男性の育児休業の取得が実質難しい文化、不十分な社会のセーフティネットなどが問題となり、いくら出産時に提供されるサービスが増えても育児しにくい文化自体が改善されない以上は、出生率を上げにくいという共感が形成され始めた。

 このため、委員会を含む政府でも、人口政策を展開するにあたって、単純に出産時のサービスの拡充に力を入れるよりは、出産と育児の両立が望ましいという認識を強化する社会的構造の改善を目的として、出生率向上策を進めるとともに、出生率が回復しない場合にも焦点を当てた政策を計画し始めた。その一環として、政府は2018年に出産奨励中心の政策から全世帯の生活の質を高める政策へのパラダイム転換を宣言し、2020年に発表された「第4次少子高齢社会基本計画(注13)」では、①児童・20~40代・引退世代の生活の質の向上、②平等な職場・家庭の男女平等実現、③人口変化への備え、を主な政策方針として決定し、出生率向上だけでなく生活の質の向上、男女平等の実現、人口変化に備えるための政策領域を拡張した。

 この基本計画は約200ページにわたって多様な課題が提示されており、全て紹介することは難しいため、その中でも特に注目に値する個別政策を紹介しようと思う。1つは、以前から出生率向上のための政策として実施されてきた乳児手当の支給である。政府は2022年度に生まれた子どもたちからは、妊娠時100万ウォン(約11万円)、出産時200万ウォン(約22万円)を支給することを決めた。さらに、生まれた最初の月から24ヶ月間毎月現金を支給する乳児手当ての創設を決めた(2022年には月30万ウォン、2025年まで漸進的に拡大し月50万ウォンまで増額)。

 そして現在は、文化的に女性および大企業労働者以外は取得しづらい育児休業を、男性と中小企業労働者も使えるようにするために両親がそれぞれ育児休業を3ヶ月以上使う場合、最大月300万ウォン(約33万円)を支給するようにした。

 併せて、多子世帯の基準を、子どもが3人以上の場合から、子どもが2人以上の場合に変更し、公共賃貸住宅移住などの支援対象を広げることにした。そして、3人以上の子ども世帯の場合には既存の制度をより一層拡大し、3人目の子どもからは大学費用全額を支援することにした。そして、高齢社会の加速により発生しうる生産年齢人口の減少の影響を最小限に食い止めるため、高齢者雇用に対する奨励金支援も継続拡大することを決めた。


4.まとめ
 統計庁が2020年に発表した将来人口推計によると、中位推計の場合、合計特殊出生率は2020年の0.84人から2024年0.70人まで下落する見通しだが、2010年以降の出生率が将来人口推計より低い水準を記録したことを勘案すれば、0.70より低い出生率を記録する可能性もある。

 2020年に発表された「少子高齢社会基本計画」では、様々な事業を創設したため、2025年時点で年間約83.4兆ウォン(約8.7兆円)がかかると予想されるが、この予算が果たして少子化問題を解決するのに適しており、これにより少子化問題を解決することが可能なのかを含めて、今後の人口問題解決のために必要な予算を割り当て、使用できるよう、政策担当者の継続的な努力が必要だと思われる。

 同時に、政府の予算支援だけでは昨今の韓国社会が直面した問題を解決できないという明らかな事実も周知し、政府だけでなく民間分野でも、今までの働き方を変える努力を展開しなければならない。

 日本の場合、最近話題に上るSDGsなどを皮切りに、持続可能な成長のための努力を民間企業が自発的に始めた。しかし、韓国はまだ数値で現れる経済成長率、営業利益、売上などを向上させることが最重要課題として認識されている。このような過程で発生する多様な葛藤と社会的問題が究極的には韓国の成長動力を低下させ、市場自体を縮小させ、企業にもブーメランになって戻ってくるという点を常に周知し、持続可能な成長のための努力を展開していかなければならないと考える。