リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

日本に限らず世界同時多発的少子化の中で「国の富は産まれても子が産まれない」少子化の潮流

*Yahoo Japan NEWS, 3/26(火) 9:05

日本に限らず世界同時多発的少子化の中で「国の富は産まれても子が産まれない」少子化の潮流(荒川和久) - エキスパート - Yahoo!ニュース

ご紹介します。日本はもはや国の富を生むのも難しくなりつつありますが……。

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター


世界的な出生減
 前回の記事(「出生インセンティブ政策では出生率はあがらなかった」シンガポール出生率0.97)で、日本に限らず東アジア諸国が軒並み低出生化しており、その中でもむしろ日本は健闘している方であるという話を書いたが、低出生化は、東アジアだけではなく欧州でも北米でも同様である。

 わかる範囲で最新の各国の合計特殊出生率(2023年速報値を含むので後日数字が修正される可能性がある)を列挙すれば、フィンランドは1.26、ノルウェーは1.40、スウェーデンも1.45、ドイツは1.35、イタリアは1.21、スペインは1.14、ポーランドも1.18である。よく「見習え」といわれるフランスもいつのまにか1.67にまで下がっているし、アメリカも1.62である。

 これらの国々は国連及び世界銀行の定義で「高所得国」とされているが、それら高所得国といわれる国はことごとく低出生化が加速している。それで「経済発展すればするほど少子化が進む」とも言われたりするのだが、これは厳密には正しくはない。

 「経済発展→少子化」という因果ではなく、「経済発展によってもたらされる医療の発達や公衆衛生の改善」によって「乳幼児などを含む子どもの死亡率が下がる」から「出生数が減る」のである。言い換えれば、「生まれてきた子どもたちが子どものうちに死なずに元気なままで育つから、多産する必要がなくなる」ということである。

 日本でも戦前から戦後まもなくまで出生率が高かったのは、この子どもの死亡率が高かったためである(参照→なぜ昔の日本人は、4人も5人も出産したのか?出生数を見るだけではわからない自然の摂理)。

 逆にいえば、アフリカなどの低所得国の出生率が高いのは、それだけ生まれてきた子が大人になる前に死んでしまうからこそ多く産むという出産メカニズムによる。


幼児死亡率と出生率の相関
 今回は、日本だけではなく、世界の5歳未満の幼児の出生千対死亡率と出生率との相関をみていただきたい。大陸間の分布をわかりやすくするために色分けしている。数値は2021年のもので統一した。

 まず、青色の「欧州・北米」はほとんどが幼児死亡率10以下に収まっている。同時に、出生率も2.0以下だ。アジアにおいても、日本や韓国などの高所得国に位置づけられるところは同じ分布である。

 一方でアフリカなどの低所得国は、幼児死亡率が100を超えるところも多く、だからこそ出生率も6を超えている。図表内に線で示した通り、「死亡率が10を下回れば、出生率も2を下回る」というのが明らかである(中東など一部例外もあるが)。

 このように子どもの死亡率と出生率とは強い正の相関があり、日本や欧州諸国の少子化は、視点を変えれば「生まれてきた子は死ななくなった」ということであり、決して悪いことでもない。


20世紀の人口爆発
 20世紀に入って、世界は人口爆発といっていいほどの人口増加になった。日本の人口も明治時代の約4100万人から3倍強の1.2億人となったが、世界の人口はもっと膨らんでおり、1900年時点の約16億人から80億人へと5倍増である。


 これは子どもがこの期間だけ異常に多く生まれたわけではなく、この間に乳幼児死亡率が先進国をはじめとして全世界的に下がったことによる「子どもが死ななくなったがゆえの人口増」なのである。加えて、同時に高齢者の長寿化もあわせて、全年齢帯の死亡率が下がるという「多産少死」時代でもあった。死ななくなったことでの人口増加なのであり、決して出生だけに人口増減は依存するのではない。

 そして、冒頭に述べた通り、現代は「子の早逝のリスクのために多産する必要性がなくなった」がゆえの少子化なのである。決して、各国の政策だけの問題ではなく、こうして人間の出産のメカニズムが大きく影響している点は留意しておくべきだろう。


増えるのは子ではなくなる
 とはいえ、実は現代の問題は、このような自然の摂理を超えた部分での少子化が見られている点が問題でもある。前掲したグラフにおいて、幼児死亡率が10以上であるにもかかわらず、出生率が2を切る国が増えているのである。

 具体的に言えば、中南米では、ブラジル、メキシコ、コロンビア、ジャマイカ、アジアでは北朝鮮ベトナム、インド(2021年時点ではインドは出生率2を超えているがもはやこの領域に突入している)、中東ではイランなど。

 これらの国はまだ高所得国に分類されておらず、中進国、中所得国に該当し、幼児死亡率もまだ低いとはいえないのにもかかわらず少子化が進行している。これは国としての中間層が子を持てなくなっているということでもある。

 そう考えると、「高所得国だから、先進国だから少子化になる」ということではなく、どこの国においても「一部の富裕層は子を持てるが中間層が子を持てなくなっている」ということではないか。

 国全体が数字の上では豊かになっても、人口ボリュームの多い中間層が子を持てなくなればそれは、出産メカニズムの範囲を超えた少子化となっていくのだろう。

 お金だけが産まれても子どもが産まれなくなる。