リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

“性的暴行の妊娠中絶 加害者の同意不要” 医師に徹底を要望

“性的暴行の妊娠中絶 加害者の同意不要” 医師に徹底を要望 | NHKニュース

“性的暴行の妊娠中絶 加害者の同意不要” 医師に徹底を要望

性的暴行を受けて妊娠し中絶手術を希望したものの、医療機関が必要のない加害者の同意を求めるケースが相次いでいるとして、弁護士で作る団体が日本医師会に適切な対応と実態調査を求める要望書を提出しました。

要望書を提出したのは、弁護士で作る「犯罪被害者支援弁護士フォーラム」です。

この団体は、性的暴行を受けて妊娠した場合、母体保護法で「本人の同意」があれば中絶手術を受けられると規定されているにもかかわらず、各地で医療機関が「加害者の同意」を求めるケースが相次いでいると指摘しています。

さらに、加害者の同意が得られないことを理由に、複数の病院をたらい回しにされたケースや、中絶可能なぎりぎりの時期まで手術を受けられなかったケースなどが確認されたということです。

このため、加害者の同意は必要ないことを医師に周知徹底することや、加害者の同意を求める病院の実態調査を行うことなどを求めています。

要望書を受け取った日本医師会の横倉義武会長は「要望をしっかり受け止め対応したい」と述べました。

要望書を提出した上谷さくら弁護士は「絶対あってはならない事態で、被害者の心身の負担は計り知れない。犯罪被害の場合は加害者の同意はいらないということを周知するべきだ」と話していました。

NIPTのよりよいあり方を考える有志呼びかけ人 齋藤有紀子(北里大学)、柘植あづみ(明治学院大学)

新型出生前診断 不透明な指針改定の過程

どうしてこの国は当事者の立場や意見を無視して結果的に当事者を「誘導」するようなことばかりするのだろう。業界の利益のために動いているように見えてならない。

niptpgd.blogspot.com

提言の内容を貼り付けておきます。

NIPT のよりよいあり方に関する提言



1 NIPT をはじめとする出生前検査・診断の施策や指針の策定には当事者参画を求めます。

施策や指針の策定にあたっては、検査の対象となる女性の声や、妊婦と家族の心の揺れに精通する人、病気や障害のある子どもの出産・子育ての情報と経験を有する人、出生前検査陽性の後に確定診断を受け、妊娠を継続した人やしなかった人、病気や障害のある人、さらには、出生前検査・診断の実施拡大に懸念をもつ人の声を議論に反映することが不可欠です。

行政の審議会や学会の検討会議など、意思決定にかかわる会議や公聴会・シンポジウムでは、当事者の委員任用あるいは発言の機会を確保し、透明性の高い策定プロセス※1を踏むことを求めます。


※1 たとえば、NIPT が日本で臨床検査として開始される際に、日本産科婦人科学会倫理委員会は「母体血を用いた出生前遺伝学的検査に関する検討委員会」を立ち上げ、すべての議事録を公開し、委員以外にも有識者を招いてヒアリングを し、学会主催の公開シンポジウムを開催し、パブリックコメントの募集をしました。このように、透明性の高い指針の策定プロセスを踏まれましたこと、そのご尽力に敬意と感謝を表します。これからも、このような議論のプロセスを踏んでいただくように要望します。



2 医療者は、NIPT の情報提供の際に、医療者自身の価値観を反映させないように留意し、女性の意思決定を尊重してください。

NIPT は、妊婦が必ず受けなければならない検査ではありません。女性の中にも、検査を受けたい人、受けたくない人、受けたいのに情報や医療にアクセスできない人、受けたくないのに受けなくてはいけない気持ちに誘導されたと感じて悩む人など、さまざまな立場があります。検査についての説明を聞くか聞かないか、検査を受けるか受けないか、受けた後どうするかは、妊婦がそれぞれの場面で考えた上での選択です。

さまざまな女性が主体的に決められる情報提供のあり方は、医師の説明に依存します。

たとえば、医師が NIPT について説明する方針の場合には、医師は検査を勧めているわけではないこと、検査に関心があれば遺伝カウンセリングを受けてから、検査を受けるか受けないかを決めればよいこと、検査結果が出たあとも適切な情報提供とカウンセリングが受けられること、検査の前後を通して妊婦はいつでも自分が相談したい人と相談できること、さらに検査を受けても受けなくても、医師の診療に変わりはないことを伝えて欲し いと思います。

逆に、医師がNIPT について紹介や説明をしない方針の場合には、その方針を伝え、検査について関心がある人には、詳細な説明や遺伝カウンセリングが受けられる医師や施設を紹介し、さらに、検査を受けても受けなくても、医師の診療に変わりはないことを伝えるよう要望します。

説明を受けたくない妊婦、検査について詳しく知りたくない妊婦については、その気持ちを尊重し、説明やカウンセリングに誘導しないでください。

いずれの場合も、医療者自身の価値観を反映した情報提供を行ってはならないのはもちろん、意図しなくても医療者自身の価値観が妊婦の行動に影響を与えることが多々あるのを認識してください。



3 関連団体は、遺伝カウンセリングや妊娠・出産に関わる相談体制の質を確保するために医療者の研修を充実してください。

「母体血による無侵襲的胎児遺伝学的検査(NIPT)に関する指針」の改定案では、検査後は、結果が陽性の場合のみに遺伝カウンセリングが予定されていました。しかし、陽性・陰性にかかわらず、遺伝カウンセリングや妊娠・出産に関わる相談のニーズは存在します。妊娠前も含め、女性が相談したいときに、遺伝カウンセリングや妊娠・出産に関わる相談※2 ができる環境が必要です。

環境整備の一環として、検査に関わる産科医などの医療者に対し、妊婦の心理や意思決定支援について理解を深め、検査についての知識と技術を深めるプログラムの研修を用意してください。また、流産、子宮内胎児死亡(IUFD)、中絶などで胎児を失った経験を受けとめるグリーフケアの研修も必要です。さらに、検査の対象となる疾患や障害がある人や家族、支援者を講師とし、その人たちの生活を理解できるプログラムも大切だと思います。

相談の手段としても、オンラインや、電話の活用など、妊婦の負担に配慮した方法を模索する必要があります。COVID-19 予防が必要な現在においては、なおそのように考えます。


※2 ここでの妊娠・出産に関わる相談には、避妊、妊娠、流産、死産、中絶、出産、育児に関する相談を含みます。



4 行政機関は、母子保健、障害者福祉、教育、子育て支援、女性の健康支援等に関わる情報を、医療者や妊婦が利用・閲覧しやすいよう、まとめてください。

NIPT に関する意思決定は、女性が自身の妊娠・出産・子育てについてイメージし、自分と家族と子どもの将来について考えた上でなされるものです。しかし現在、まとまった情報を得るのが難しく、疾患や障害のある子どもが生まれたときに利用可能な、医療や福祉、教育、社会資源や療育環境、生活の様子について、妊婦と家族が短い期間で情報を得ることは困難です。継続的な相談・支援環境がわからなければ、妊婦は、子どもを産み 育てるための手がかりを得られないままに、意思決定しなければなりません。

行政と医療が協力して情報を入手しやすくする環境の整備を求めます。



医療機関は、確定診断で陽性となり、意思決定支援が必要な女性へのケアを充実してください。

陽性の結果を受けたとき、女性は短期間での決断を迫られます。最近、NIPT 陽性判定後、検査結果を郵送やメールで通知するだけであったり、検査施設に問い合わせても十分に対応されない事例が報じられています。このような現状があるとすれば、早急に解消されなければなりません。

NIPT 陽性後の確定診断が陽性となり、できるなら産みたいと思っている女性には、産み育てるための情報を持つ当事者や支援者にメールや電話で相談できることや、医療者や福祉にかかわる専門家を紹介できることを医師が伝えてください。

どうしたらよいか迷い、時間内に決められない人には、決断を急かすことなく、難しい選択であることを理解し、見守り、寄り添ってください。

産まない・産めないと考える女性には、同じように考えた経験をもつ当事者や支援者を紹介したり、より安全な中期中絶手術ができるよう、施設の情報を提供してください。

また、流産や子宮内胎児死亡が生じることもあります。この場合も、体験者同士のピアサポートにつなぐことも視野に入れつつ、迅速に安全な施術ができるようにしてください。

そして、流産や子宮内胎児死亡、中絶などで胎児を失った経験を受けとめるグリーフケアの充実も、不可欠です。グリーフケアをその医療施設で行えない場合には、適切なカウンセラーなどを紹介できるように、関連機関・職種と連携してください。



6 検査を取り巻く社会的問題は妊婦とパートナーに負わせず、平等な社会を築くかたちで解決すべきです。

NIPTをはじめとする出生前検査の存在は、病気や障害があること、それをもつ子どもを産むことに対して、否定的な眼差しを強めるおそれがあることは否めません。これを差別につなげないためには、病気や障害をもつ人と共にある暮らしに肯定的な社会風土の醸成と、平等な社会の構築が必要です。

しかし、近年の検査の急速な広がりに社会の歩みが追いつかず、妊婦やそのパートナーの葛藤は増大しているようにみえます。たとえば現在、「この検査によって安易な中絶が増える」、「検査陽性者の 9 割以上が中絶」などの言葉にみられるように、検査を提供する側ではなく、検査を受ける側の行動が評価の対象になっています。検査は選択肢として提示されているにもかかわらず、受けるかどうか検討したり、産まない選択をした妊婦とパートナーが、道義的責任を負わされるのは理不尽です。

社会的に未解決の問題は、その責任を個人に負わせるのではなく、社会として解決に取り組まなければなりません。障害のある人への偏見・差別の解消と支援の拡充は、この社会の基盤づくりとして、国・行政・民間団体の力を合わせ継続的に実施すべきです。



7 国・行政・関連団体は、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの実現を重視してください。

女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツは、1990 年代から国連北京世界女性会議や国連カイロ国際人口開発会議で確認されているように、妊娠・出産に関することだけではなく、生涯にわたる女性の健康支援が基にあって達成されるものです。出生前検査については、妊娠継続・中絶のどちらについても、女性の健康支援の問題として、国や行政、関連団体で、取り組むことが必要です。

しかし日本には、明治以来の家父長制度の価値観に基づく刑法堕胎罪※3があり、中絶をした女性に対する懲罰感情がいまでも存在します。そのため、検査を受けた女性が、その先の選択肢について、自身の迷いを相談できなかったり、必要以上に葛藤を抱え続けることがあります。この状況は、改善される必要があります。

また、出生前検査後に中絶を行うには、母体保護法※4にいわゆる「胎児条項」を加える必要があるという意見 もあります。しかし、私たちは胎児条項を加えることには反対です。なぜなら、「胎児条項」を加えれば、堕胎罪で中絶を禁じながら、胎児に疾患や障害があるとわかった場合には中絶しても良いと国が法律で認めることになり、それは差別に他ならないからです。


※3 刑法 第2編 第29 章 堕胎の罪(部分)

(堕胎)

第212 条 妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により、堕胎したときは、一年以下の懸役に処する。

(同意堕胎及び同致死傷)


第213 条 女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させた者は、二年以下の懲役に処する。よって女子を死傷させた者は、三月以上五年以下の懲役に処する。

(業務上堕胎及び同致死傷)

第214 条 医師、助産婦、薬剤師又は医薬品販売業者が女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させたときは、三月以上五年以下の懲役に処する。よって女子を死傷させたときは、六月以上七年以下の懲役に処する。


※4 母体保護法(部分)

(医師の認定による人工妊娠中絶)

第14 条 都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する医師(以下「指定医師」という。)は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。

一 妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの二 暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの


以上

流産と中絶:どちらが精神的問題を引き起こす?

「妊娠中絶は母体に長期間の悪影響」というexciteニュースについて

妊娠中絶は母体に長期間の悪影響 (2020年6月20日) - エキサイトニュース

なぜ今になって15年も前の調査結果がニュースになったのかは分かりませんが、このニュースの元は、次の調査です。

bmcmedicine.biomedcentral.com

結果について、もう少しきちんと吟味する必要があると思うので、とりあえず忘備録を貼り付けておきます。

June Medical Services v. Russo 

ルイジアナ州の中絶規制法に近々最高裁判決が下される

「女性の健康」を表向きの理由にして、30マイル以内に州が認可した病院への入院枠をもつ中絶クリニックしか中絶を行えないように制限する州法の違憲性が現在アメリカの最高裁で争われており、現在、数週間以内に判決が下される見込みです。

2016年には、同様の内容のテキサス州法に違憲判決が下っているのですが、最高裁判事の入れ替えの際に、トランプ政権によって保守系最高裁判事2名が送り込まれたため、現在、アメリカの最高裁は保守派がマジョリティになっています。合憲の判決が出てしまうと、1973年に女性のプライバシー権を理由に中絶を認めたロウ判決が覆されてしまうと、プロチョイス側は戦々恐々としています。

www.nytimes.com

この州法については以下の記事も役立ちます。
Opinion | Trump’s High Court Hears Its First Abortion Case - The New York Times
June Medical Services, LLC v. Russo - Wikipedia

JSOG:COVID-19感染拡大がわが国のリプロダクティブ・ヘルス領域に及ぼした影響について

データがない!

COVID-19感染拡大がわが国のリプロダクティブ・ヘルス領域に及ぼした影響について|公益社団法人 日本産科婦人科学会

何某かいいこと言っているようで、データの裏付けもなく、具体的な対策の道筋も示されていない。
納得できない。

更新日時:2020年6月22日
2020年6月20日

COVID-19感染拡大がわが国のリプロダクティブ・ヘルス領域に及ぼした影響について

公益社団法人日本産科婦人科学会
リプロダクティブ・ヘルス普及推進委員会

 わが国のCOVID-19感染拡大は、一応の収束が認められ、政府の緊急事態宣言は、2020年5月25日に全面解除されました。
 今回の感染拡大は、わが国の社会全体にきわめて大きな影響を与え続けており、特に社会的経済的弱者への影響は、きわめて大きくなっていると考えられます。
 本委員会は、わが国におけるリプロダクティブ・ヘルスの向上のため、その概念と諸課題に対する理解の普及を推進することを目的とし、日本産科婦人科学会の理事会内委員会として2019年度より活動を行っています。その活動の一つとして、今回の感染拡大が、わが国のリプロダクティブ・ヘルス領域に及ぼした影響について検討を行いました。その結果、迅速に対応を検討すべき多くの課題が抽出されましたので、産婦人科医及び社会の皆様との共有を図るため、お示しいたします。

 今後、わが国の産婦人科医療提供体制は、当初の応急的、救急医療的な体制から、通常医療体制の中でCOVID-19に関連した診療を無理なく行うことができる体制へと移行を図っていく必要があります。産婦人科の先生方には、諸課題について、十分な配慮してご対応いただくようにお願いいたします。また、ここでお示しする諸課題は、産婦人科医療の範囲で解決可能な問題ではなく、社会全体で認識を共有し、関係諸機関が連携協力して解決の道を見いだしていく必要があると考えられますので、ご高配をお願い申し上げます。

COVID-19はわが国の社会になにをもたらしたのでしょうか?
 社会は最大限の防御反応を示しました。
 都道府県間の移動制限
 社会・経済活動の抑制・停止
 Mass Gatheringの抑制(集会等の中止)
 Social distancing(マスク着用・対面会話の回避・肉体的接触の回避)


このような対応は、社会の中の人間関係の分断をもたらしました。
 休校・休業・自粛は、あらゆる人々の生活を変えました。
 若年層・低所得層の生活基盤を根底から揺るがしています。
 また、家庭内の人間関係にも大きなストレスをもたらしています。


在宅ワーク
外遊びの差し控え
 社会・家庭内で潜在していたリプロダクティブ・ヘルス上の問題が顕在化しました。


DVの増加・凶悪化
 特別定額給付金(10万円)手続きが世帯単位を基準としたことによるDV被害者の権利侵害
 面前DVや虐待等による、家庭に居場所がない子どもたちへの大きな影響


予期せぬ妊娠の増加
 COVID-19感染拡大は産婦人科医療に大きな影響をもたらしました。
 医療提供・受診行動の抑制がおこりました。
 「不要不急」の診療の差し控えが医療機関側・患者側の双方でおきました。
 結果として、必要な診療が行われない、急いだ方がいい受診が差し控えられた可能性があります。
 医療機関側では、院内感染を防止し、安全に医療及び分娩を提供できる環境を確保するため様々な対応が行われました。


不妊治療の差し控え
婦人科悪性腫瘍診療制限の発生
婦人科良性疾患手術の延期
◆「with コロナ」の段階での診療のあり方を検討する必要があります。


立会分娩の中止
面会の中止(病院全体・産科病棟・NICU
◆結果として、妊産婦さんに大きな心理的ストレスが加わりました。
◆立会分娩の中止、産科病棟の面会中止は妊産婦さんに孤立感をもたらした可能性があります。また、NICUの面会中止は、母子分離による愛着形成を阻害する結果になった可能性があります。


里帰り分娩の差し控えをめぐって
 感染者が少ない地域の分娩施設では、感染地域から里帰りの受入を回避する傾向がありました。里帰りの妊婦さんに2週間の自己隔離が要請された場合もありました。
◆「with コロナ」の段階での里帰り分娩のあり方を検討する必要があります。


PCR等によるスクリーニング検査について
 COVID-19感染は、その自然経過に未解明の部分が多く残されています。診断のための検査法も開発途上と言った方がいいかもしれません。妊婦さんのための最善の検査のあり方は、まだ検討段階にあります。


陽性妊婦さん・疑い妊婦さんへの対応の問題
 各地域で、受入体制の整備が行われました。幸いなことにこれまでは陽性妊婦さんの数は限られており、なんとか対応できています。


分娩様式:現状では分娩施設の設備が十分とは言えないことから、施設によっては原則帝王切開とすることもやむをえない状況です。
◆現状では、感染予防のための対応のため、患者さん・妊産婦さんに大きな負担をかける結果になっています。
◆今後、感染が拡大した場合にも陽性あるいは疑い妊婦の方々に適切に対応できる体制となっているか、検証が必要です。
◆今後は、妊産婦さんにとって負担のかからない分娩様式を選択できるように施設整備を進めていく必要があります。


COVID-19感染拡大がわが国のリプロダクティブ・ヘルス領域に及ぼした影響に関する日本産科婦人科学会リプロダクティブ・ヘルス普及推進委員会)の意見
 産婦人科医は、COVID-19がわが国のリプロダクティブヘルス・ライツに重大な影響を及ぼしていることを認識する必要がある。
 特に、潜在的に存在していたdomestic violence、児童虐待の顕在化、凶悪化が起きていること、今後予期しなかった妊娠の増加が予測されることを認識し、適切に対応する必要がある。日本産科婦人科学会として、これまでこれらの課題の存在を適切に認識できず、十分な対策を講じることができなかったという事実を確認し、今後の対応に生かしていく必要がある。
 地域医療現場の産婦人科医がCOVID-19対応に手を取られた結果、緊急に支援が必要な性暴力被害者やDV被害者に適切に対応する機能を十分発揮することができなかった可能性があることを認識する必要がある。今後は支援が必要な女性たちが、気軽に相談できる産婦人科窓口を地域に確保していく必要がある。
 COVID-19があぶり出した、女性の貧困や暴力の被害、リプロダクティブヘルス・ライツの侵害を分析し、女性の社会的健康の向上を目指して、専門家集団として社会にコミットしていく必要がある。
 COVID-19は妊産婦にとって、心理的、身体的、社会的、経済的な意味で大きな負担となっている。産婦人科医は、適切な情報提供に努めるとともに、負担軽減に向けた対応を、妊産婦の立場に寄り添って進めるべきである。
 COVID-19感染を恐れて医療機関への受診抑制が認められているが、受診の必要がある妊産婦、患者が適切に受診できる体制の整備と社会啓発活動を強化する必要がある。
 今後、COVID-19感染者、感染者発生施設が差別的対応を受ける等の社会的な不利益をこうむる可能性があり、それを回避するための施策を進める必要がある。

COVID-19感染拡大がわが国のリプロダクティブ・ヘルス領域に及ぼした影響について

日本産科婦人科学会リプロダクティブ・ヘルス普及推進委員会の発表

COVID-19感染拡大は産婦人科医療に大きな影響をもたらしました。
医療提供・受診行動の抑制がおこりました。

  • 「不要不急」の診療の差し控えが医療機関側・患者側の双方でおきました。

結果として、必要な診療が行われない、急いだ方がいい受診が差し控えられた可能性があります。

  • 医療機関側では、院内感染を防止し、安全に医療及び分娩を提供できる環境を確保するため様々な対応が行われました。
  • 不妊治療の差し控え
  • 婦人科悪性腫瘍診療制限の発生
  • 婦人科良性疾患手術の延期

◆「with コロナ」の段階での診療のあり方を検討する必要があります。

  • 立会分娩の中止
  • 面会の中止(病院全体・産科病棟・NICU

◆結果として、妊産婦さんに大きな心理的ストレスが加わりました。
◆立会分娩の中止、産科病棟の面会中止は妊産婦さんに孤立感をもたらした可能性があります。また、NICUの面会中止は、母子分離による愛着形成を阻害する結果になった可能性があります。

里帰り分娩の差し控えをめぐって

  • 感染者が少ない地域の分娩施設では、感染地域から里帰りの受入を回避する傾向がありました。里帰りの妊婦さんに2週間の自己隔離が要請された場合もありました。

◆「with コロナ」の段階での里帰り分娩のあり方を検討する必要があります。

COVID-19感染拡大がわが国のリプロダクティブ・ヘルス領域に及ぼした影響について|公益社団法人 日本産科婦人科学会

性暴力に関する海外の定義や対応

忘備録です。

フランスはsexual violenceだけでなく sexist violenceも取り締まっているらしい。15歳未満に対する性暴力に対しては特に厳しい。
www.gouvernement.fr

WHOのsexual violenceに対する定義と対応。
https://www.who.int/violence_injury_prevention/violence/global_campaign/en/chap6.pdf?ua=1

OHCHRの文書。
https://www.ohchr.org/Documents/Issues/Women/WRGS/OnePagers/Sexual_and_gender-based_violence.pdf

Wikipediaには性暴力と、性暴力を防止するイニシアチブの2種がありました。
en.wikipedia.org

en.wikipedia.org

ターンアウェイ調査

中絶を拒否された女性の事後を調べた長期調査:望まない出産をした女性に悪影響

最近、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のターンアウェイ調査が話題です。

Turnaway Study | ANSIRH

2008年から2010年に中絶可能週数を過ぎてしまったために中絶を拒否された女性たちと、ぎりぎりの週数で中絶できた女性たちについて、何年間も詳細にわたって追跡した大規模調査で、望まない妊娠が女性たち自身、子どもたち、家族に与える影響を明らかにしました。

主な調査結果は以下のとおり:

中絶は女性たちに悪影響を及ぼさない

  • 中絶を受けた女性たちの希死念慮PTSD、鬱、不安、自尊心低下、人生への満足度の低下の可能性が増すことはない。
  • 中絶を受けたことでアルコールやたばこ、麻薬の使用率が増えることはない。

中絶を受けた女性たちは自分の決断に満足している

  • 95%の女性が中絶は自分にとって正しい判断だったと答えた。
  • 自分の望んだ中絶を受けられた女性たちは未来について明るい展望を抱いており、1年以内に達成する人生計画をもっていた。

女性たちが中絶を求める理由は様々である

  • ほとんどの女性が中絶を求めるのに複数の理由を挙げていた。
  • 経済、タイミング、パートナーの問題、他の子どもたちに手がかかることなど。
  • 中絶を拒否された女性たちは、予測していた通りの悪い状況に陥っていた。
  • 妊娠20週を超えて中絶を求めた女性たちのほとんどは、妊娠に気づいていなかった。
  • いったん中絶が遅れてしまうと、金銭的な問題や支援が欠けているために対応がさらに遅れてしまっていた。

中絶を拒絶されることで、女性たちやその子供たちの経済状態は不安定になり悪化した

  • 中絶を拒否された女性たちは、連邦政府の定める貧困レベル未満の所得収入になる可能性が4倍高まり、失職する可能性が3倍高かった。
  • 中絶を拒否された女性たちは、食や住宅、交通費など基本的な家族の生活費を払えない可能性も高まった。
  • 望まない妊娠の継続を強制された女性たちは、暴力的なパートナーと暮し続ける可能性が高まり、中絶を受けられていた場合に比べて女性たちとその子どもたちが暴力を受けるリスクは高まった。
  • 望まない妊娠を継続し出産することは、中絶を受けた場合よりも深刻な健康被害にみまわれていた。

女性たちが妊娠のタイミングをコントロールできる場合、子どもたちの福利は向上する

  • すでに子どものいる女性たちが中絶を拒否された場合、連邦政府の定める貧困レベル未満で生活しなければならなくなる可能性が3倍以上高まり、中絶を受けられた女性たちがすでに育てている子どもたちに比べて発達の諸段階を達成できる可能性が低かった。

この調査を指揮したDiana Greene Fosterによれば、この調査が行われたのは、いわゆる「中絶後症候群」を否定する客観的な証拠が積み重ねられてきたにも関わらず、アメリカの一部の州は「中絶は女性自身の精神的健康に悪い」ことを理由に中絶を規制しているため、後者の考え方を否定する科学的な証拠を得るためだった。

詳しくは以下を参照してください。
The Turnaway Study
What Happens to Women Who Are Denied Abortions? - The New York Times