リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

土屋 敦さんの論考2つ

忘備録

胎児を可視化する少子化社会 : 「生長の家」による胎児の生命尊重運動(プロ=ライフ運動)の軌跡(一九六〇年代 - 一九七〇年代)から
土屋 敦
死生学研究 6 88-110 2005年10月25日


日本社会における「胎児をめぐる生命主義」の源流--1960年代優生保護法論争をめぐって
土屋 敦
ソシオロゴス (28) 96-114 2004年

日本会議国会議員懇談会1997年5月29日設立総会――日本会議の正式な設立前日に

抜き書き

以下、山崎雅弘著『日本会議 戦前回帰への情念』より(集英社新書2016年)


自民党を中心とする超党派の国会議員204人
会長:自民党の島村議員、発起人:自民党の小渕議員、新進党の小沢議員
日本会議の掲げる政治目標を、国政の場で実現していく「実働部隊」のような役割が期待されている


設立趣意書の冒頭:
「戦後わが国は、戦禍にまみれた国土の復興と経済の立て直しに営々として努力した結果、世界に冠たる経済的繁栄を手にしました。しかしその一方で、国の基本である家庭や社会の荒廃が叫ばれ、国民の中には行き過ぎた個人主義が蔓延し、国への誇りや責任感が薄れつつあります。また、激しい国際社会にあってわが国は、世界の大国としての応分の国際貢献を強く求められています」


海外の主要メディアは、2012年12月の第二次安倍政権発足時から、日本会議と安倍政権の緊密な関係に着目して、分析記事を書いていた:
イギリスの高級週刊誌「エコノミスト」――安倍内閣の閣僚19人の顔ぶれ――14人は「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」の会員、13人は「謝罪外交」を拒絶する日本会議を支援(*性格には日本会議国会議員懇談会メンバー)、9人は軍国主義時代の日本を美化した歴史を学校で教えるよう求める「日本の前都と歴史教育を考える議員の会」に所属……彼らは、日本が戦争中に犯した残虐行為のほとんどを否認する。…〈この新政権を「保守的」と評したのでは、本当の性質を捉えることは難しくなる。これは、過激な国家主義者の政権である〉


日本会議の設立1997年5月30日 当時の首相は橋本龍太郎
――その前3年間は自民党は下野していた:日本新党細川政権1993年8月~、新政党羽田孜政権1994年4月~社会党村山富市政権1994年6月~1996年1月


日本を守る会(1974)」と「日本を守る国民会議(1981)」の合体⇒日本会議(1997)
日本を守る会:危機感を共有する新旧の宗教団体が結成~勢力を増す共産党への危機感、無神論、国の伝統や固有文化の破壊
創設者:臨済宗円覚寺派の朝比奈宗源、神社本庁事務総長篠田康雄、成長の家早朝谷口雅春など主な伝統宗教新宗教が一堂に会する(ただし1950年代から仏教の国教化をめざしていた創価学会は加わっていない)。


日本を守る国民会議:保守派(右派)の政治思想を共有する財界人と文化人が主なメンバー。創設時の運営委員長:作曲家の黛敏郎、事務総長:明治神宮権宮司の副島広之、呼びかけ人:井深大ソニー名誉会長)、日本医師会会長武見太郎など。


生長の家 創設者で初代総裁:谷口雅春1930年に創設
戦前は天皇中心の世界観と宇宙や霊魂についての独自の考えを融合した思想を流布、戦争が始まると政府の戦争遂行方針に協力したため、戦後は一時公職追放処分に。1949年に生長の家を復活させて総裁に戻り、天皇崇敬と反共(共産主義思想の否定)を思想上の二本柱として、敗戦に打ちひしがれる日本国民を鼓舞・激励し、宗教と政治が融合した大衆運動の規模を拡大していった。
1951年、サンフランシスコ講和条約が調印されると、生長の家は「日本国憲法」の破棄と明治憲法大日本帝国憲法)への回帰を声高に主張するように。
1964年、持論を国政へ反映させるために「成長の家政治連合」を設立。
1969年には「自主憲法制定国民会議」を組織し、会長は安倍首相の母方の祖父である岸信介元首相が就任。後に「日本を守る会」に合流。
 谷口に心酔した学生たちが右派学生の運動団体を作り、これが1970年社会人団体としての「日本青年協議会」を設立、この組織が日本会議の事務局となっていく。


神道は宗教、信仰だが、「国家神道」は時の政治権力者にとって都合のいい特定の政治思想を国民に植え付け、その政治体制に従わせる宗教的政治システム。


2000年5月15日神道政治連盟国会議員懇談会の創設メンバーで、日本会議国会議員懇談会設立時の発起人の一人でもある森喜朗の「日本は神の国」発言


森元首相と同じ自民党内の「清和会」に所属していた安倍晋三は、2か月後の2000年7月に第二次森内閣官房副長官


日本の復興:1968年に西ドイツを抜いて国民総生産(GNP)で世界第二位に⇒翌年神道政治連盟 2010年に中国に(国内総生産GDPで)抜かれるまで42年間「世界第二位の経済大国」


2012年第二次安倍政権「日本を取り戻す」をキャッチフレーズに~敗戦後の日本は「本来の輝きを失った」として「昭和初期の日本、戦前・戦中の日本」を「取り戻したい」――安倍首相と日本会議は、1945年の敗戦で停止した「国家神道体制下での時計の針」を再び動くようにしたいのではないか


戦前・戦中の「国体」とは、崇高な天皇を中心とする万邦無比の国家体制や、国柄、国の特質などを表す言葉、あるべき国の姿、「美しい国」「誇るべき優れた国」


明治時代に作り出された「国家神道」をベースとする政治思想の到達点~社会構造のピラミッドの頂点に天皇とその祖先を「絶対的に神聖な存在」として位置付け、天皇を際限なく賛美することによって、そこにつながる日本人全体が「優れた民族」であるかのように理解する考え方


1930年代後半の国体明徴運動:一人ひとりの人間が個人として価値を持つという普遍的な人権尊重の考え方を「西洋式の発想で日本には馴染まない」と全否定し、国民は「天皇天皇を戴く国のためにどれほど貢献できるか」によって存在価値が評価されるという人権軽視または無視する考え方へと流れて行った


1998年日本会議第一回総会「教育運動に関する特別声明」
日本の教育の深刻な病の要因
一.学歴主義による偏差値市場教育
二.行き過ぎた人権教育
三.形骸化された「道徳」教育
四.わが国の歴史を断罪する自虐的歴史教育
五.学校現場に反日イデオロギーを持ち込んだ日教組教育


義務教育の無償化や男女平等を謳った日本国憲法を押し付けられたために、教育基本法を制定せざるをえなかった~戦後の教育基本法は「愛国心の涵養」「伝統の尊重」「宗教的情操の涵養」という趣旨が失われた


日本会議の家族観の柱:戦前・戦中の日本で理想とされた家族観の肯定と、戦後の日本が行った家族に関する法改正などの否定
『国体の本義』あるべき理想としての家族観:現代の家の生活は、過去と未来とをつなぐものであって、祖先の志を継承発展させると同時に、これを子孫に伝える」
「我が国は一大家族国家であって、臣民は皇室を崇敬し、天皇は臣民を赤子として愛おしむ」pp.153-4
『臣民の道』国や天皇と家族との正しい関係:「我が国の家は、祖孫一帯の連携と家長中心の結合とよりなる。すなわち親子の関係を主とし、家長を中心とするものであって、欧米諸国におけるがごとき夫婦中心の集合体とはその本質を異にする。従って我が国の家においては、家長と家族、親と子、夫と妻、兄弟姉妹、各々その分があり、性然たる秩序が存すると共に、亡き祖先もいますがごとくに祭られ、生まれ出づる子孫も将来の家族として家の永遠性の中に想念され、ここに祖孫一帯の実が挙げられる。さらに我が国の家は、国に繋がるのをその本質とする。」p.154
⇒国民が個人として、それぞれ独立した考え方や行動様式を持つような家庭は、西洋式の個人主義だとして厳しく否定された。


夫婦別姓は家族の解体を意味します。家族の解体が最終目標であって、家族から解放されなければ人間として自由になれないという、作用的かつ共産主義のドグマ(教義)。これは日教組が教育現場で実行していることです」(安倍晋三

日本国民が「全員同じように思考し行動する」ことを当然と考える人々にとって、それに従わず「自分の好きなようにやりたい」と主張する人間は、自分が理想とする社会の実現を「邪魔する人間」、そして自分が守ろうとする「正しい国の在り方」または「伝統」を破壊する「反日的な人間」でしかありません。それゆえ……異を唱える人間に対しても、相手の主張内容には耳を貸さず、「家族の解体」や「国の解体」を目論む「反日政策」と一方的に決めつけて全否定する態度をとります。


日本会議歴史認識:「大東亜戦争の賛美」「侵略戦争の否認」「東京裁判の否定」
批判的に観る歴史観に対しては、「自虐史観」「東京裁判史観」とレッテルを貼り弾劾


櫻井よしこなどの日本会議の論客は、憲法に「国民の権利」を保障する条項があるから、国民はみな「使わなければ損だ」とばかりに、自分勝手にそれを最大限に行使して、他人を押し退けて自分の権利ばかり主張する醜い社会になっているかのように論じます。
〈たとえば、第三章「国民の権利及び義務」は、日本国憲法の中で一番大きい章ですが、そこに書かれているのは、総じていれば、あなたにはこういう権利があるから要求しなさい、あなたにはこういう自由があるから楽しみなさい、というようなことです。
 私は、権利と自由ばかりを主張する嫌な人間には断じてなりたくないと思っています。私の家族や友人にもそんな人間であってほしくはありません。皆さんもそうだろうと思います。であるならば、この第三章はおかしいと思わなければならない〉pp.192-3

そもそも、憲法で保障される自由や権利は、それを「権力が犯してはならないという権力者に対する制約であって、国民が好き勝手にできるという意味ではありません。「権利を要求しなさい」「自由を楽しみなさい」ではなく、「権力者はこれらの権利や自由を侵害してはなりません」という、国民の自由や権利を権力者の横暴から守るのが主旨です。p.193

(いいかげん書き写すのも疲れてきた……どうしてこんな変な考え方を持っているのだろう?)


その後は、どのような憲法改正を目論んでいるのかの説明があり、「国民主権、平和主義、基本的人権の尊重」を「虚妄」と断じる日本会議の主張が示されます。

国連人権高等弁務官事務所の新しいチラシを見つけた

https://www.ohchr.org/Documents/Issues/Women/WRGS/SexualHealth/INFO_Abortion_WEB.pdf:Information series of sexual and reproductive health and rights, updated 2020: ABORTION

中絶を含み女性のみが必要とする医療サービスへのアクセスを拒否することは、差別につながり、ジェンダーに基づく暴力、拷問、および/または、残酷で非人道的で品位を傷つける扱いを構成する可能性があります。

イスラム教における中絶

忘備録

Abortion law in Muslim-majority countries: an overview of the Islamic discourse with policy implications
Gilla K Shapiro
Health Policy and Planning, Volume 29, Issue 4, July 2014, Pages 483–494, https://doi.org/10.1093/heapol/czt040
Published: 08 June 2013
(仮訳)

 宗教は、中絶を行うかどうかという患者の生命倫理上の決定や、国の中絶政策において重要な役割を果たします。それにもかかわらず、イスラム教の立場の全体的な理解はまだ研究されていない。本研究ではまず、最も権威のある聖書のテキスト(すなわちコーランとスンナ)と、その他の有益な要素(すなわち現代のファトワイスラム神秘主義と広範なイスラム原理、利益団体、多国籍イスラム組織)を検証することで、中絶に対するイスラムの立場を詳細かつ体系的に分析した。イスラム法学は中絶を奨励していませんが、聖書では直接禁止されていません。中絶に関する見解は非常に多様で、多くの宗教学者は妊娠中の特定の段階における特定の状況下での中絶を認めています。妊婦の生命が脅かされ、120日が経過していない場合が、最も非難されるべきでない中絶であることは一般的に同意されていますが、その他の状況(身体的・精神的健康の維持、胎児の障害、レイプ、社会的・経済的理由など)や、胎児の妊娠期間後半の発育に関しては、顕著な異質性が見られます。

 この研究では、次に、イスラム教徒の多い国での中絶の権利について、国をまたいで調査しました。その結果、47カ国中18カ国が、妊婦の命を救う以外のいかなる状況でも中絶を認めていないという、保守的なアプローチが多く見られました。しかし、国によって大きな違いがあり、10カ国は「要求があれば」中絶を認めていました。

 イスラム教徒の多い国での政策展開を可能にする言説的要素と、中絶の権利に関する研究を強化するための今後の研究について議論した。特に、より寛大な中絶法を実現するためには、最も権威のあるテキストが明確に中絶に反対しているという誤解を個人に解かせること、特定のイスラム法派に存在するより寛大な解釈を強調すること、中絶を支持する重要なアクターを強調すること、そしてイスラム教徒が多い国では受け入れられない政策フレームに留意することが必要である。<<

以下は、細谷幸子「イランの 「治療的人工妊娠中絶法」 をめぐる議論」より

2)イスラーム法から見た人工妊娠中絶
 人工妊娠中絶に関して、イスラーム法学の第一の法源であるコーランには明示的な表現がないとされる。そのため、イスラームの諸学派は異なる見解をもっている。だが、生命の神聖性が優先される点と、親が子を殺すべきではないとする点がコーランに示されているとの解釈から、各学派とも共通して人工妊娠中絶を禁止行為としている。イランのアーヤトッラーたちも、これに対して異議をもたない。
 イスラーム法の文脈において、人工妊娠中絶は、妊娠している女性の権利と胎児の権利が対立する議論としては理解されない。胎児は全能の神の創造物で、出生前にも生きる権利をもち、その命を奪うことは刑罰の対象となる。一方で、イスラームの位置づけにおいて、人間の身体は神からの預かりものとされ、女性が自らの身体に関する決定を完全に自由にできるとは考えられていない。

J Family Community Med. 2001 Sep-Dec; 8(3): 25–35.
PMCID: PMC3439741
PMID: 23008648
INDUCED ABORTION FROM AN ISLAMIC PERSPECTIVE: IS IT CRIMINAL OR JUST ELECTIVE?
Mohammed A. Albar, DM, FRCP (London)

社会的な理由による人工妊娠中絶は、世界中で広がっています。世界では年間5,000万人の胎児が殺されていると推定され、その結果、20万人の妊婦が死亡し、数百万人が苦しんでいます。違法な中絶による合併症は非常に深刻です。中絶は今でも多くの国で家族計画の手段として用いられています。中絶の医学的な理由は限られており、中絶全体のごく一部を占めています。この論文では、中絶に対するさまざまな見解、その歴史、時代の変遷、そして現在の法的状況について論じています。イスラム諸国の状況と、中絶に関するイスラム教のファトワの影響に重点を置いています。
ーー中略ーー
中世ヨーロッパの教会や現在のカトリック教会の姿勢に比べて、妊娠を継続することで妊婦の健康や命が危険にさらされる場合には中絶の必要性を認めていることは、より現実的で人道的だと思います。

自由な中絶法を持つ多くの国で行われている要求に応じた中絶は、シャリア(イスラム法)では決して容認されません。残念なことに、チュニジアでは1965年7月1日付で65/24法が可決され、根拠の乏しい理由での中絶が認められました。1973年11月19日付の法律第73-75号が施行されると、状況はさらに悪化しました。1973年11月19日付の法律No.73-75が施行されると、状況はさらに悪化しました。

チュニジアは、すべてのイスラム法学者や、イスラムの会議や法学者の会合で認められているすべてのファトワに反した法律を持つ唯一のイスラム教国です。25 チュニジアは、すべてのイスラム法学者およびイスラム会議や法学者会議で認められたすべてのファトワを無視する法律を持つ唯一のイスラム国家です。残りのイスラム諸国は、健康や生命を危険にさらす可能性のある妊娠中の深刻な問題から妊婦を守るために中絶を認めています。多くの国では、深刻な奇形の胚や胎児がいる場合に中絶を認めています。このような中絶を行うための期限は、受精から計算して120日であり、これはLMPから134日に相当します25,41。


以下は、2014年にインドネシアの中絶合法化に関する記事。

中絶合法化に賛否 女性保護か教義順守か | じゃかるた新聞
2014/10/20

インタビューに答えるナザル医師
 イスラムで禁じられている人工中絶を合法化した大統領令に今年8月、ユドヨノ大統領が署名した。違法中絶で女性が死亡するケースがある一方で、堕胎は教義に反すると批判が相次ぐ。女性の保護か教義の順守か―。中絶合法化で各界が揺れている。

 中部ジャワ州警は2日、トゥマングン市で祈祷(きとう)師(ドゥクン)を名乗る男(69)と2人の関係者を、女性を死亡させた疑いで逮捕した。容疑者らは先月5日、32歳の女性に中絶行為を施し、誤って出血多量で死なせた疑い。被害者が病院に搬送されて事件が発覚した。容疑者らは妊娠3〜4カ月の20〜30代の女性を中心に施術し、1回で100万〜500万ルピアを稼いでいたという。
 国家家族計画庁(BKKBN)の調査によると、国内の中絶行為は年間250万件以上といわれている。中絶を希望する妊産婦は中絶が禁止行為のために医療機関に行けず、不正に取引される薬物を摂取して堕胎したり、ドゥクンに依頼したりする。ドゥクンは女性の腹部を乗る蹴るなどして、胎児を流産させる中絶方法をとる。しかしドゥクンの中絶は失敗することも多く、依頼した女性の10〜30%が死亡していることも明らかになっている。
 ユドヨノ氏は近年、国内で性的暴行被害が増加し、レイプによって妊娠し出産した場合、心的外傷後ストレス(PTSD)を発症したり、子どもの虐待や育児放棄につながる可能性があると懸念を示した。「女性と子どもを含め国民を保護することは当然だ」と合法化を進めた。
 さらに暴行被害者の3割を10代が占めていることなどから、心身の健康保護を規定した健康法の効力が保たれないことが問題視されていた。これらを受けて、イスラムで禁じられている中絶行為合法化に踏み切った経緯がある。ユドヨノ氏は署名の際に「自分が署名する最後の大統領令だ」と言葉を残した。
 西ジャワ州バンドンの国立パジャジャラン大学犯罪学イェスミ・アンワル氏は「犯罪から女性を保護し、健康法の適用が強化される」と評価する。合法化で警察と医療機関の連携を強化し、犯罪抑止にもつながる可能性があるという。

■暴行被害で妊娠し中絶
 国際家族計画連盟(IPPF)は中絶者の3割が10〜20代の若年層であると指摘。大半がレイプなどの暴行被害で妊娠しているという。
 女性が中絶したことが発覚した場合、家族や親族から縁を切られることもある。病院での治療費の相場は70万〜80万ルピア。工面できずに出産した子どもを捨てる事件も発生している。
 西ジャワ州ボゴール県内の大学に通う女子学生ブンガさん(24)=仮名=は、インターネットで購入した薬物で中絶した。ブンガさんは約3カ月前、交際していた男性との間に妊娠。友人に勧められて通販サイトで薬物を購入した。ブンガさんは「錠剤を飲み続けて流産するのを待った」と振り返った。服用して3日後から兆候が出始め、約1週間かけて中絶したという。
 ブンガさんの中絶行為に対して、同県イスラム学者会議(MUI)は「教義に反する」として、遺憾を表明。ユドヨノ大統領に大統領令の改正を求めている。

■子ども保護求める声も
 国家子ども保護委員会(KPAI)も合法化に反対する姿勢を表明。ギウォ・ルビアント・ウィヨゴ元委員長は「中絶は子どもの命を奪う行為。生きる権利を剥奪することは許されない」として、同令を児童保護法違反にあたると指摘している。KPAIは子宮にいる胎児を「子ども」と説明。中絶で女性が守られるとは限らないと話している。
 ナフシア・ムボイ保健相は9月初旬から同令に関してインドネシア医師会(IDI)と協議している。医療従事者のために人工中絶の研修制度を確立することで合意した。IDIのザエナル・アビディン会長は、中絶は医療倫理に反するとした上で、流産した場合のみ中絶行為を適用すべきだという。(西村百合恵、アリョ・テジョ、写真も)

 中絶合法化を定めた大統領令 8月中旬にユドヨノ大統領が署名した。夫を含めた相手から受ける性的暴行をレイプと定め、暴行の被害者と、出産で母体・胎児に命の危険がある場合に限り中絶を認めている。夫からの暴行で希望しない妊娠をした場合も証明書類があれば中絶ができる。

明確なプロセス必要 合法化に反対 医師会

 インドネシア医師会(IDI)で法規則や医師指導に携わるナザル医師(65)は、中絶合法化に医師会としても個人的にも反対の姿勢を示している。「医師になったのは人命を救うため。中絶は医師の誓いに反する」と語った。
 ナザル氏は中絶合法化の大統領令を「未完成」と断定する。レイプ被害者の線引きなど中絶対象者の選別を誰が行い、また被害の証明方法をどうするのかなど詳細が決まっていないからだ。具体的な施行方法については現在保健省が協議しているという。
 ただし、ナザル氏は中絶に反対する一方で、保健省の決定次第ですぐに治療ができる技術と体制があると話す。「レイプ被害を証明するのは警察の仕事。施術するのは医者の仕事だ。役割を明確にして仕組みや体制を作るべき」と指摘する。医師会は医療行為に専念し、被害者の中絶を許可する権利はないと強調した。「明確なプロセスと問題を検討することが必要。段階を踏んで施行してほしい」と訴えている。

以下はWHOの『安全な中絶:医療システムのための技術的及び政策的ガイダンス』Safe abortion:Technical & policy guidance for health systemsより、一部仮訳。

IV. 安全な中絶ケアに対する規制政策とアクセスの障害をなくすこと
 法的根拠とその解釈の範囲は、女性の安全な中絶へのアクセスに影響を与える法的・政策的環境の一側面に過ぎません。医療制度やサービス提供の障壁もまた、法律、規制、政策、慣行の中に成文化されている場合があります。中絶に関する情報やサービスへのアクセスを制限する法律、政策、慣行は、女性がケアを求めることを妨げ、冷ややかな効果(報復や罰則を恐れて行動を抑制すること)をもたらします。
 障壁の例は以下の通りです。

  • 合法的な中絶サービスに関する情報へのアクセスを禁止したり、中絶の法的地位に関する公開情報を提供しなかったりすること。
  • 1人以上の医療従事者や病院の委員会、裁判所や警察、親や後見人、女性のパートナーや配偶者からの第三者承認を必要とすること。
  • 必須医薬品の承認が得られないなどの理由で、外科的・医学的な中絶方法を含む利用可能な方法を制限すること。
  • 高度な機器を備えた入院施設の医師など、安全にサービスを提供できる医療従事者や施設の範囲を制限すること。

中絶の配偶者同意問題を巡る厚労省の態度について

2021年9月14日付の質問項目に対して

私の関わる国際セーフ・アボーション・デーJapanプロジェクトで、中絶の配偶者同意について厚労省に質問しました。先日、ようやく回答が返ってきたのですが、がっかりさせられるような内容でした。


女性の命や人生について夫が決定権を握っているのは不平等ではないか、北京宣言との整合性や女性差別撤廃委員会からの是正勧告、人権としてのリプロに照らした観点等幅広い質問に対して返ってきたのは…

「胎児の生命尊重や女性の自己決定権に関する様々な御意見が国民の間で存在しており、また、個々人の倫理観、道徳観とも深く関係する難しい問題であると認識している」として、「母体保護法の規定の在り方については国民各層における議論が深まることが重要であると考えている」とのこと。


さらに厚労省としては、「関係省庁や関係学会と連携して……適切な運用に努めてまいりたい」とおっしゃるのですが、世界より何十年も遅れている性教育・避妊・妊娠・中絶等々のリプロの対応を振り返れば、省庁や学会だけには全く任せていられないので、国民の側で大いに議論を深めて行きましょう!


母体保護法の規定が直接的に影響するのは妊娠する当事者です。法的には不要な同意書を医師に求められたあげく、中絶ができなくなって孤立出産に追いやられた女性たちが法に触れ、逮捕されてしまった事件がいくつも起きています。彼女たちは日本の社会と制度の被害者であり、法と医療の見直しが必須では?


そもそも、人権規約にも書き込まれた「安全な中絶への権利」に対して、「倫理観」「道徳観」を持ち出してにべもなく否定するのは、当事者の健康を軽視する姿勢であり、中絶に対するスティグマを増強する結果にもなってしまうばかりではないでしょうか。厚労省の反省を求めたいと思います。

中絶法と中絶の安全性

Guttmacher Instituteの推定

Abortion Worldwide 2017

以下、一部仮訳で紹介します。

中絶法
 中絶法には、中絶を全面的に禁止するものから、理由を問わず中絶を認めるものまで、さまざまな種類がある。2017年現在、妊娠可能な年齢の女性の42%が、中絶が高度に制限されている(完全に禁止されている、または女性の命を救うか健康を守るためにのみ許可されている)125カ国に住んでいる。
 このような規制の強い法律を持つ国の大部分(93%)は発展途上地域にある。
 一方、ヨーロッパや北アメリカのほぼすべての国やアジアのいくつかの国では、おおむね自由な法律が制定されている。
 2000年以降、28カ国が法改正を行ったが、その中には米国や旧ソ連圏の国々も含まれている。そのうち1カ国を除いて、女性の健康を守るため、社会経済的理由のため、または理由の制限なしに中絶を認める法的根拠を拡大した。さらに24カ国は、レイプや近親相姦の場合、胎児に重大な異常があると診断された場合の3つの理由のうち、少なくとも1つを追加した。
 拡大された法的根拠の下でのアクセスを実現するには何年もかかるが、政治的な意志があれば、より迅速に変化を実現することができる。


中絶の安全性
 臨床ガイドラインや基準の策定と適用は、安全な中絶の提供を促進してきた。さらに、多くの国で訓練を受けた中級レベルの医療従事者が中絶を行えるようになったことで、安全なサービスの提供範囲が広がっている。
 制限の厳しい状況では、危険で侵襲的な方法による中絶が少なくなったため、秘密の中絶がより安全になっている。女性たちは、薬による中絶方法をますます利用するようになっているが、主にミソプロストールという薬を単独で使用している。
 ミフェプリストンとミソプロストールを組み合わせた方法よりも、このような状況では一般的に入手しやすいためである。
 保健医療へのアクセスが改善され、各国政府が世界保健機関(WHO)のガイドラインの実施を優先するようになると、質の高い中絶後のケアへのアクセスも改善される。このような傾向と、より安全な処置が相まって、安全でない中絶で死亡する女性が減少している。
 全中絶のうち、安全な中絶は約55%(推奨された方法で、適切な訓練を受けた提供者によって行われたもの)、安全性が低い中絶は31%(方法または提供者のいずれかの基準を満たしている)、安全性が低い中絶は14%(どちらの基準も満たしていない)と推定される。
 法規制の厳しい国ほど、安全性の低い中絶の割合が高くなり、制限の少ない国では1%未満、制限の多い国では31%となっている。
 安全でない人工妊娠中絶は、人工妊娠中絶を厳しく制限している国が集中している発展途上地域で圧倒的に多く発生しています。しかし、中絶が広く合法的に行われている地域でも、手頃な価格のサービスが十分に提供されていないと、安全なサービスへのアクセスが制限されてしまう。さらに、根強いスティグマは、中絶を提供する事業者の意欲に影響を与え、女性が安全よりも秘密を優先させることにつながる。
 安全でない中絶が蔓延している14の開発途上国では、中絶を行った女性の40%が医療を必要とする合併症を発症している。すべての開発途上地域(東アジアを除く)を合わせると、年間推定690万人の女性がこのような合併症の治療を受けていますが、治療を必要とする多くの女性がタイムリーな治療を受けていない。

世界の中絶トレンドのより新しいデータはUnintended Pregnancy and Abortion Worldwide2020年ファクトシートにある。

RBG一周忌を経て映画「ビリーブ(On the basis of sex)」を観なおした

1970年初めにアメリカの女性は自分名義のクレジットカードを作れなかった

このエピソードから、ではいったいいつから女性名義のクレジットカードを作れるようになったのかと疑問に思い、こんな記事を見つけました。1974年の「信用機会均等法」のおかげで、「信用取引における人種、肌の色、宗教、国籍、性別、婚姻状況、年齢による差別」が禁止されたそうです。女性だけではなく、あらゆる「差別」が禁止されたのですね。

How Ruth Bader Ginsburg Paved the Way for Women to Get Credit Cards
(ルース・バーダー・ギンズバーグはいかにして女性のクレジットカード取得に道を開いたのか)
Samantha Rosen, November 13, 2020

 9月18日(金)に死去したルース・バーダー・ギンズバーグ最高裁判事は、女性の権利と男女平等の道を切り開いた先駆者として、多くの人々に追悼されています。もしあなたがクレジットカードを持っている女性なら、ルース・ベーダー・ギンズバーグの努力に負うところが大きいのではないでしょうか。


女性がクレジットカードを持てるようになったのはいつですか?
 1970年代半ばまで、米国では結婚している女性が自分名義のクレジットカードやローンを組むことは、銀行などの金融機関から拒否されていましたし、独身女性がクレジットを取得することも困難でした。

 1974年に制定された「Equal Credit Opportunity Act(信用機会均等法)」では、「信用取引における人種、肌の色、宗教、国籍、性別、婚姻状況、年齢による差別を禁止する」とされています。

 つまり、クレジットカードやローンを申し込む際には、信用度に直接関係する要素に基づいてのみ審査を受けることができるのです。今日では当たり前のことですが、50年前はそうではありませんでした。ギンスバーグが弁護士だった頃に取り組んだ、平等な権利に有利な法律が1970年代初頭に蓄積され、平等な権利を求める戦いに拍車をかけていました。

 1974年10月28日にジェラルド・フォード大統領が署名したクレジットカード法は、ある意味でその集大成であった。この法律がなければ、女性は経済的自立のための基本的な手段の1つを利用することができなかっただろう。

 ギンズバーグは1993年に連邦最高裁判事に任命されましたが、1980年に連邦判事に就任する前から、女性の権利を守るための法廷闘争の中心人物として活躍していました。その頃、彼女はすでに裁判所の前で平等性を主張し、大きな成功を収めていた。

ルース・バーダー・ギンズバーグ男女雇用機会均等法への影響
 2018年に公開された映画『On the Basis of Sex』で取り上げられた1971年の画期的な事件であるリード対リードで、ギンズバーグは、遺産の管理者を任命する際に男性が女性よりも優先されるというアイダホ州法の規定が憲法に違反していると主張する準備書面を共同執筆しました。法廷はこれに同意し、男女間の「性差に基づく」異質な扱いは違憲であると全会一致で判断しました。

 全米女性法律センターが指摘するように、この判決は「裁判所が修正14条の平等保護条項を適用して、女性を差別する法律を打ち破った歴史上初めての出来事である」。この判決がなければ、1974年に制定された法律は実現しなかったかもしれません。

 リード事件の後、ギンズバーグはACLUの「女性の権利プロジェクト」を指揮するようになったとNPRは指摘する。このプロジェクトは、1969年から1980年の間に最高裁で判決が下された男女差別訴訟の大半に参加した。

 1996年の「United States v. Virginia」では、男性しか入学できないバージニアミリタリーインスティテュートの入学規定を無効にしましたが、これは彼女の多数意見です。彼女の多数意見は、資格のある女性の入学を拒否することはできないというものでした。

 これらの最高裁判例は、彼女の最も記憶に残るものになるかもしれません。しかし、多くのアメリカ人は、ギンズバーグ判事が残した遺産を、質素なクレジットカードという形で財布に入れています。50年前、ブルックリン出身の女性弁護士が、人生のあらゆる分野に平等が及んでいることを権力者に説得することに成功しなければ、手に入れることができなかったクレジットカードです。

自民が神道を奉じるのはダテではない

そこには根深いミソジニーと抑圧がある

自民党のほとんどの議員が議連として入っているという神道政治連盟のパンレットをの中身を読んでみて、これまでの自民党の政策の本質が見えてきたような気がしている。


驚いたのが、明治憲法を称揚していること。本気で今の憲法は押し付けられたものだとして抵抗し、「わが国独自の国柄」に戻そうとしている。つまり、天皇の統治を認め、その目的は国家の隆昌と国民の幸福の実現とし、それに君民一体で国を築くことを理想としている。


ひとことで言えば、民主主義を放棄し、天皇をてっぺんに置いての全体主義(そして、天皇を傀儡にして政府が専制主義を行える政体)を求めているらしい。


男尊女卑的な「伝統家族」への回帰を望む強い願望にとらわれているようにも見える。政府が女性の権利主張に対し、「胎児の生命尊重」を掲げて反論したがる裏に、「個人の尊厳と両性の本質的平等」に基づく現代の家族観を否定し、「産む産まないは女が決める」は「我がまま女の一方的な主張」として封殺し、家父長制的な「伝統的家族」に回帰したいという願望が透けて見える。


そこから女は「産む機械」に徹しておればいい、男をたて、男に従っておけばいいという抑圧的な発想が出てくる。だから「わきまえない」女は嫌いだし、民主主義やジェンダー平等を推し進めようとする勢力は徹底的にバッシングするわけだ。


一方、自民党の綱領を見て、さらに驚いた。今の自民党と正反対、本当に「自由主義」と「民主主義」を希求して最初は始まった政党だったらしい。どこでどう間違って今のようなことになってしまったのか……おそらく、1960年代、70年代のリベラルな思想が広まった頃に、それを制圧するために天皇制と天皇一家の宗教である神道とを対抗軸として採用したのではないだろうか。


少なくとも、神道政治連盟ができたのは1969年だった。そこに至った経緯は今後学んでいきたいが、神道系の生長の家優生保護法に反対を唱え始めたことや、自民党絡みで右翼が水子供養寺を建立したこととも時期を一にしているのは指摘しておきたい。