リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

堕胎とは/中絶とは

 日本の刑法は、「堕胎」を禁じています。堕胎とは、「胎児を、自然の分娩期に先立って人工的に母体外に分離・排出させ、または母体内で死亡させることをいう(大判明44・12・8刑録17・2183)」が通説とされています。胎児とは出生により人となる前の生命体(生成中の生命体)で人とは区別されています。堕胎罪の客体としての胎児は、母体内において受精卵が子宮に着床した後、出生に至るまでの生命体です。
 堕胎は(1)行為主体、(2)当人の同意の有無、(3)行為者の身分(医師等の業務者)によって区別されます。妊娠している当人が自分の妊娠について行う場合は「自己堕胎罪」となります。「第三者堕胎」の場合は、当人の同意がある「同意堕胎」(医師等の業務者以外による「単純同意堕胎罪」と医師等が行う「業務上堕胎罪」の2つがある)と、「不同意堕胎罪」に分かれます。さらに不同意堕胎の結果、対象となった女性を死なせたり負傷させたりした場合には「不同意堕胎致死傷罪」に問われることになります。
 一方、刑法の堕胎罪の違法性を阻却する法律として母体保護法があります。母体保護法の第二条第2項には、「人工妊娠中絶とは、胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその附属物を母体外に排出することをいう」と定義されています。この母体外で生命を保続できないとされる時期は、平成2年(1990年)の厚生事務次官通知により妊娠22週未満とされています。さらに、人工妊娠中絶(以下、中絶と略す)を行えるのは「指定医師」のみであることが第十四条に定められています。この条項には中絶を行うことができる2つの条件も示されています。

第十四条  都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する医師(以下「指定医師」という。)は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。
一  妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの
二  暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの

 日本ではこの条文の一項がしばしば「経済条項」と呼ばれて拡大解釈されて用いられることが多く、「経済的理由による中絶」という言い回しも広く使われています。ところが、実際にはこの法律は「母性の生命健康を保護することを目的」としたもので、条文にも「経済的理由」のみならず、その結果として「母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」と限定されているのです。
 元々、母体の健康を著しく害するほどの経済的な理由というのは、生活保護を必要とするほどの貧困であることとされていました。つまり、現在、日本で行われている中絶のほとんどが厳密には母体保護法で違法性阻却されることはなく、実際には違法行為である堕胎に該当することになります。