リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

第1回女子差別撤廃委員会最終見解への対応に関するワーキング・グループ 議事概要

女子差別撤廃委員会「日本の第7回及び第8回合同定期報告に関する最終見解」における指摘事項への対応状況等について

議事録

1.日 時:平成31年1月9日(水)10:00~12:00
2.議事
女子差別撤廃委員会「日本の第7回及び第8回合同定期報告に関する最終見解」における指摘事項への対応状況等について
・各府省庁ヒアリング
・意見交換
3.閉会
4.出席者:
小山内世喜子委員、佐藤博樹委員(座長代理)、種部恭子委員、辻村みよ子委員、白河桃子委員(重点方針専門調査会委員)

以下、堕胎罪に関する議論

法務省 杉原大臣官房国際課付)堕胎罪について結論から申し上げると、廃止について検討している状況ではない。堕胎罪については、一般的に、胎児の生命、身体の安全を主たる保護法益とするものと解されている。今日においても、これを存置してきた事情が大きく変化するに至ったとは考えていない。また、母体保護法においては、一定の要件を満たした場合には適法に人工妊娠中絶を行うことができるとされており、このような場合には堕胎罪は成立しないとされている。
 以上の理由から堕胎罪の廃止については検討していないが、フォローアップについてコメントをいただいたので、どのような形でフォローアップできるのか、あるいはフォローアップとしての言及がそもそも難しいのかといった点も含めて検討させていただきたい。
(種部委員)母体保護法は、人工妊娠中絶の際に配偶者同意を求めているが、事実上配偶者同意を得ることが不可能な場合はこの限りでないとしている。これがどのようなときに認められるのか、明確にされていない。現場で問題になっているのは、DVの場合である。身体的暴力で保護命令が発令されれば、物理的に配偶者同意を得ることは困難であり違法性阻却事由に該当すると理解される可能性が高いが、保護命令が発令されない精神的暴力や性的暴力で妊娠してシェルターに避難した場合に、物理的に配偶者の同意を得ることは可能、と解されかねない。配偶者から逃げたあとで同意を取りにいくことは、生命にかかわるほど危険なことである。
 保護命令発令がなくてもシェルター等の公的な機関であれば、配偶者の同意を得ることは事実上できないと判断される可能性が高いが、知人宅などに避難した場合には、配偶者同意を得ることができない状況かどうか医師に判断が委ねられることになり、違法性阻却事由に該当しないと判断されかねない。命がけで配偶者同意を得なければならないようなことは、あってはいけないと思う。
(種部委員)暴行脅迫により妊娠した場合であっても、人工妊娠中絶を行うためには配偶者の同意が必要である。配偶者同意を得るためには被害に遭ったことを配偶者に伝えなくてはならないが、配偶者に告げることで家庭を失うのではないかと恐れ、配偶者にだけは言えないという人が多い。配偶者も、知りたくないのに姦淫の事実を知らなくてはならず、心的外傷のリスクがあると考える。
 また、このようなケースを産婦人科医が忌避しており、女性が人工妊娠中絶にアクセスすることを大きく制約している。女性の意思のみで中絶が可能であるとすべきである。配偶者の同意を得ることに非常に大きな困難を伴うケースにも配偶者同意を求めているという現状をフォローアップに書いていただきたい。
厚生労働省 平子課長)配偶者が知れないときや、その意思を表示することができないときなどを除き、配偶者の同意を得て行うことができると、母体保護法にて定められている。
 一律に例外的な取り扱いをできるかについては、他の法令との関係などさまざまな観点で多くの課題があるのではないかと考えているが、御指摘について引き続き検討していきたい。
(辻村委員)資料1のパラ39の取組状況の2番目の○について、「胎児の親として配偶者が有する権利」という言葉が出てくるが、これは比較法的にみて非常に奇異な説明である。欧米の判例理論などを見ても普通はまず女性の権利・自由が出てきて、そして胎児の生命の保障との関係が出てくる。その後ではじめて配偶者の同意権や通知を受ける利益があるかどうかを議論する。ところが、ここでは、権利という言葉がこの配偶者の同意権の箇所だけで出てきて、女性については、生殖についての自己決定権その他について、権利という言葉を全く使ってない。諸外国では、夫の同意権を権利として認めて女性に権利を全く認めないということはない。もし報告書で配偶者の権利を書くのであれば、その前に女性の権利もきちんと権利という言葉で書いた上で使わないといけないのではないか。
 堕胎罪も同様で、胎児の生命を優先するのは古い考え方で、国際人権論の展開のなかで女性の身体、生殖についての自己決定権、リプロダクティブ・ライツが1994年から出ている。これに対して、この記述では、女性の権利を認めずに胎児だけを論じている。胎児の保護の問題があるとしても、但し書きで別途法律によって女性の権利を保障するための規定を設けることができるので、改正は可能だと思う。110年前の明治40年にできた刑法が、性犯罪についてこのたび改正されたが、堕胎罪については改正されなかった。
 性犯罪についてあれだけ難しかった壁も改まり、177条以下を改正できたので、この点も現状に合わせて、あるいは諸外国の理論に合わせて検討することが必要だと思う。
(種部委員)配偶者同意が得られない状況で逃げてきた人や、強姦の事実を夫に告げることができないと言われている人たちについて、産婦人科医が判断を行わないといけないことにより、自分が業務上堕胎罪になるのではないかという恐れを持ちながら仕事をしており、このような状況を放置することはあり得ないと思う。厚生省から運用のための通知が出されており、産婦人科医は運用の参考にしているが、配偶者同意については、「その意思を表示することができないとき」がどういう適用か明示されないまま運用している。産婦人科医がリスク回避のために、人工妊娠中絶を受け入れないというハードルを設けているのが現状であり、人権侵害に当たると思う。
 フォローアップには、配偶者同意を求めることにより女性が中絶を受けられない状況が生じているという現状について、ぜひ書き入れてほしい。