リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

以下は2006/10/8にSOSHIREN主催の私のからだから合宿 で発表した際の資料の一部です。引用の際には,下記の発表資料であることを明記してください。

SOSHIREN主催 女のからだから合宿  2006年10月8日
分科会 ザ・中絶〜嘘と沈黙を超えて
発表題目「中絶という罪の構築」
金沢大学大学院社会環境科学研究科 塚原久美

以下,もとはPowerpointの資料です。図は割愛しますが,できる限り出典等を明記しましたので,興味のあるかたは原典をあたってください。どうしても入手できないものがあったら,私宛にお問い合わせください。

「中絶という罪」の形成〜日本中絶法制史

1869 太政官布告 産婆の堕胎を禁止
1888 旧刑法 堕胎罪制定(仏刑法より)
1907 現行刑法 堕胎罪制定(独刑法より)
1948 優生保護法制定 一部中絶合法化
1949 「経済条項」「優生条項」の追加
1952 審査制の廃止(医師のみの裁量に)
1996 母体保護法に改正(優生条項削除)

(c)K. Tsukahara 2006/10/8

「堕胎」という言葉は,そんなに古くからあったわけではなさそうです。「コオロシ」のほうが古いことは古い国語辞典からも明らかです。おそらく明治以後の「刑法堕胎罪」によって「堕胎」という言葉が広まったのでしょう。

優生保護法体制

「堕胎罪という本質的にリプロダクティヴ・ライツを否定する法の存在を前提として堕胎官許の範囲を定めることにより矛盾の噴出を回避する」体制(藤目ゆき『性の歴史学―公娼制度・堕胎罪体制から売春防止法・優生保護法体制へ』1999:372)


「経済条項」という自己都合に対する許可
  →悪いのは(産めないのにSEXした)自分?


    因果応報!? 自己責任!?

(c)K. Tsukahara 2006/10/8

※分科会発表時の資料では,藤目さんの本を『生殖の歴史』と誤った題で紹介してしまいました。お詫びの上,訂正させてください。

女性差別撤廃条約に基づいて,本質的に女性差別的である堕胎罪を撤廃する必要性は,国連でも指摘されています。

また,個別の経済状況に基づいて中絶を禁止したり,許容したりすることは,「産めない経済状態」であるのに(無防備な)性関係を結んだことへの非難の土台を形成していると考えられます。

堕胎と中絶は同義語か?


「堕胎」
フランス刑法典を模した1880年明治刑法(旧刑法)策定時にavortement(英語のabortion)の訳語として採用。犯罪のニュアンス,胎(子)を外に出す(流産させる)中期中絶の含意有。コオロシ。


「中絶」
1948年の優生保護法制定時に採用された。人工妊娠中絶(artificial termination of pregnancy)の略とされ,妊娠状態そのものを中断し,途絶させる合法的処置(手術)の含意有。


(c)K. Tsukahara 2006/10/8

「堕胎」と「中絶」という言葉は,類語ではあっても同義語ではないというのが,わたしの考えです。「堕胎」のほうが犯罪のコノテーションが強いですが,それもそのはず。日本には「堕胎罪」はあっても,「中絶罪」はありません。「中絶」はそもそも合法的に行なわれるものを(おそらく堕胎とは区別して)指すために採用された言葉なのです。また,それぞれの言葉が採用された時の時代背景や,その時点でのabortionの実態にも,大きな違いが見られます。第二次世界大戦後,日本の優生保護法に採用された人工妊娠中絶という言葉は,当時,唯一中絶を合法化した経験をもつ東欧(ソ連では,1930年に合法化したのを人口政策のために1948年当時はいったん取り消してはいたのですが)で使われていた言葉を訳したものではないかと,わたしは推測しています(原語では確認できていませんが,たとえば現行のチェコの中絶法規の英訳には,この言葉が使われています)。Termination of pregnancy(TOP)という言葉は,現在でもプロチョイス側に中立的な言葉として好まれることがあります。