リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

産み落とし赤ちゃん死亡3件

讀賣新聞オンライン版YOL山梨地域版に、「妊娠隠す 若い母」という記事がありました。

今年、赤ちゃんを産み落として死亡させた母親が逮捕される痛ましい事件が県内で3件起こっている。28日には、33歳の女が生まれたばかりの女児の口と鼻を手で押さえて殺害したとして、甲府署に殺人容疑で再逮捕された。5月にも女子高生が学校のトイレに男児を出産、遺棄する事件があり、関係者にショックを与えたばかりだ。いずれの事件も母親は妊娠を誰にも相談せず、1人で抱え込んでいた。(前田遼太郎、薩川碧)

なんだかこういう記事って、最近、よく見かけます。望まない妊娠をしてしまった女性が、一人で秘密を抱え込み、どうにもならなくて追い詰められていくのでしょうか……20年以上も前、同様の事件が身近で起こったことがありました。当時はリプロという言葉はなかったけど、こういう領域の問題をわたしが意識した最初のできごとのひとつです。それ以来、何度も、「どうして彼女は追い詰められたのか」「何か手は打てなかったのか」ということを考えてきました。でも、ほとんど何も変わっていないような気がしてなりません。

■存在周知必要な窓口

 甲府署に逮捕された女は、甲府市内の知人男性方で女児を出産したが、処置に困り、その場で殺害した疑いが持たれている。捜査関係者によると、女は母子手帳を持たず、病院の妊婦健診も受けていない。家族にも相談していなかったという。5月に男児を遺棄した女子高生も、誰にも妊娠を打ち明けていなかった。

 女性の様々な悩みに応えようと、昨年8月に県民情報プラザ(甲府市)に開設された女性健康相談センター「ルピナス」((電)055・223・2210)には、今年3月まで40件の相談があった。しかし、ほとんどが中高年からの電話で、若い女性から妊娠相談はなかった。

 日本子ども家庭総合研究所研究企画・情報部の小山修部長は「相談がないから悩んでいる女性がいないと思うのは間違い。行政は相談場所があることを若い人に知らせる努力をすべきだ」と指摘する。

 県健康増進課は5月の女子高生の事件をきっかけに、ルピナスの存在を若年層に浸透させようと、県内の高校や大学にパンフレットを常備させたい考えだ。

「秘密」にしておきたい人に、地域のヘルプの窓口はダメだと思います。今、わたしも地方に住んでいてよく分かるけど、「どこへ行っても、知り合いの知り合いがいる」みたいな小さな市町村では、匿名性が守られるという安心感はなかなか抱けないだろうと思います。当事者にアクセスするためには、もっと工夫が必要です。

■望まない場合に

 過去に県内であった同種の事件では、誰にも打ち明けずに産み落とした女性たちは「出産が発覚すれば、留学が打ち切られると考えた」「別の男性の子供を妊娠したことを、同せい相手に知られるのを恐れた」などと理由を話している。

 捜査関係者によると、産み落とし事件は、本人が望んでいないのに妊娠してしまった場合に起こる。中絶という選択肢もあるが、経済的な理由でできないこともある。また、病院の検診を受けていなければ、中絶可能な時期を逃してしまう可能性も出てくる。

基本的に「経済的な理由」でしか合法的に中絶できない国なのに、「経済的な理由で中絶できない」女性がいるというこの現実……本当に経済的に困っていて、どうしても産み育てられない場合に当人が望むのであれば、国は中絶費用を支援すべきです。一方で、本当に経済的に困っていて、それでもどうにか産み育てたいという女性がいたら、それも国は出産・養育費用を支援すべきです。そうした選択肢が提供されていてこそ、初めて真の「リプロダクティブ・チョイス」、自発的な選択だと言えるのではないでしょうか。

 自治医科大・地域医療学センター公衆衛生学部門の高村寿子客員教授(健康教育)によると、日本人女性は、男性側に性交渉を断ったり、避妊を強要すると、相手に嫌われてしまうのではないかなどと考える傾向があるという。

 「望まない妊娠を避けるためには、避妊の知識を持つだけでなく、女性自身が将来の人生設計を考えることが大事になる」。高村教授はそう指摘する。

 自分が将来なりたい理想や人生の目標が明確ならば、その時に性交渉することが正しい選択なのかどうか、立ち止まって考えられるからだ。高村教授は「自分の目標が立てられない若い人は多い。周囲の人が協力して、一緒に将来設計を考えていくことが必要だ」と訴える。
(2008年8月30日 読売新聞)

さらに、男性との関係についても、日本女性は「自律して生きる」道があまりに閉ざされており、そのために男性との関係に依存せざるをえないという側面もあると思います。未だに平均賃金で、男性の半分を切っていたのではないでしょうか? 女性自身に「将来の人生設計を考える」ことを求める必要があるのは確かですが、心構えだけではどうにもならないでしょう。避妊の知識のみならず、避妊へのアクセスを高めるために、たとえばピルの値段を安くするとか、店頭販売するとか、低所得者や学生には割引で提供していくなどの経済的な側面での支援も必要です。女性自身が自分の身体と健康、特にセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスを守ることを「後ろめたく」感じたりしないようにするには、教育も不可欠です。さらに、実現性のある「人生設計」を打ち立てることが可能なように、女性たちが日常を生きている教育・労働・育児の現場の環境を変えていく必要もあります。

女性の心構えだけに頼るのはやめなければなりません。そうでなくとも、女性たちはもうすでに大きな負担をかかえています。比較的確実な避妊法、事後避妊法、早期中絶法には容易にアクセスできないかコストが高く、きちんと自分の身体や生殖について教えられておらず、一方で性関係をもつようメディアにあおられ、曖昧な知識しかない男性に頼って、妊娠とSTDのリスクの高い危なっかしい性行動をしている……リプロダクションをめぐる日本の構造的な問題のツケが若い女性たちに回されているように思えてなりません。いつ妊娠してもおかしくないという不安、あるいは自分だけは大丈夫だと思っていても妊娠してしまうかもしれないリスクをいつのまにか背負わされているのではないでしょうか。

今、自分事である若い人たちにはなおのこと、ぜひとも問題意識をもってほしいと思います。