リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

受精卵取り違えに関する各社の報道

昨日までの日記には、主に毎日新聞の報道をまとめましたが、朝日comのスタンスも毎日と似たり寄ったりです。

受精卵の廃棄数記録せず 取り違え検証「記憶たどり…」

2009年2月23日3時0分

 香川県立中央病院(高松市)で不妊治療を受けた20代の女性患者に他人の受精卵を移植した可能性があるため人工中絶した問題で、担当医が受精卵の廃棄数を記録していなかったことがわかった。記載された受精卵数もチェックが甘くて信用できなかったため、病院側は担当医の記憶でしか取り違えを検証できなかった。担当医は「作業時の私の行為の感覚が手と頭の中に残っている。感覚的には間違ったと思っている」と話している。

 担当した川田清弥医師(61)によると、昨年9月中旬、別の患者Bさんの廃棄用の受精卵を入れたシャーレを作業台に置き忘れたまま、女性患者Aさんの受精卵の入ったシャーレを並べて生育状況をチェックした。

 当時、患者を識別するシールは、シャーレのふただけに張られていたが、先に置いてあったBさんのふたは廃棄されていた。このため、BさんのシャーレをAさんのものと思い込んだという。この受精卵はAさんのものとしては生育状況が良く、その後間もなく、Aさんに移植された。

 専門医によると、取り違えを防ぐためには、各患者ごとの受精卵数や廃棄数、成長率、作業日時などの詳細な管理記録が欠かせない。日本産科婦人科学会は記録の作成を求めているが、記載の項目や内容は各病院に任されているという。

 県立中央病院によると、川田医師は昨年1月に作業結果を管理するデータベースをコンピューター上に作成し、ほぼ1人で記録していた。当時、受精卵数などを示す欄はあったが、廃棄数を入力する欄を設けていなかった。

 さらに受精卵数のチェックも甘かったという。培養のため複数の受精卵を別のシャーレに移し替えた際、実際に移動できたかを顕微鏡で確認する必要があるが、それを怠ったまま記録していたという。

 廃棄数を記録し、移し替えた受精卵の数が正確であれば、両者を足し合わせた数と、作業前の総数を比較することで取り違えがわかる。このチェックができないため、同病院は「川田医師の記憶でしか取り違えを検証しようがない」と判断し、Aさんが人工中絶するなら早期の方がいいと結論づけた。

 川田医師は20日の記者会見で、取り違えた可能性に気づいた理由について、「確たる証拠はなかったが、記憶をたどりながら間違ったのではないかと。自分の頭の中で検証した」と話した。

 全国の不妊治療施設を対象に、取り違え防止マニュアルの整備状況などを調査した「蔵本ウイメンズクリニック」(福岡市博多区)の福田貴美子看護師長は「記録方法や手順について統一した指針が必要だ。さらに全施設に順守してもらうような仕組みも欠かせない」と話している。(木村俊介、柳谷政人、千代明弘)

こうした報道を見ていて疑問に思うのは、システムさえちゃんとしていればいいのか?ということです。こうした取り違えでは、“他人の子”を妊娠したかどうかを確認し、そうだったら中絶するということが前提されているわけですが、もし取り違えがあったら、その回復策として中絶がシステマティックに「組み込まれていく」のであれば、それはまた別の問題を生みそうです。

なお、今回の場合は中絶を受けた女性に対して同情的で、彼女に対して心身のケアが行われることを願う人がほとんどでしょう。しかし、そもそも「中絶そのものを望んで受ける人」がほとんどいないことを思えば、今回のような特殊なケースだけではなく、そもそも通常の中絶についても心身のケアが行われるべきなのです。つまり、中絶を受ける女性たちは産むわけにはいかないから、育てられないからといった消去法で中絶を“選ぶ”のであって、「中絶手術を受けてみたいから妊娠してみた」なんて人はまずいないはずです。中絶の選択は「ケーキを食べるかどうか」「旅行に行くかどうか」を“選ぶ”のとは全然べつものであり、罠にはまった動物が自分の脚を食いちぎって逃げるようなものだと、フレデリック・グリーン=マシューズは言っています。そもそもの罠(意図せぬ妊娠)をなくすためのシステム作りは、体外受精だけの問題ではなく、通常の妊娠にも関わってくる問題です。

マスコミ報道は、そうした点にも視点を広げていってほしいと思います。