リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

ヒト胎児由来の幹細胞

本日付asahi.comに「iPS細胞、ウイルス使わず胎児から作製 英大学など」という記事が掲載されていた。

2009年3月2日11時59分

 様々な細胞に成長する人工多能性幹細胞(iPS細胞)を、がん化の恐れのあるウイルスを使わずに胎児の細胞から作ることに、英国とカナダのグループが成功した。京都大が昨年10月、マウスの細胞でウイルスを使わずに作ったがヒトでは初めて。安全性の高い再生医療の実現に役立つという。1日付の英科学誌ネイチャー電子版に発表する。

 iPS細胞は、特定の四つの遺伝子をウイルスに組み込み、ウイルスを運び屋にして皮膚などの体細胞に感染させて作る方法が一般的だ。だが、遺伝子が染色体に無作為に組み込まれるなどして、がんを引き起こす恐れがある。

 英エディンバラ大の梶圭介グループリーダーらは、ウイルスの代わりに、iPS細胞作製に必要な4遺伝子をつないだプラスミドと呼ばれる環状の遺伝情報の塊(DNA)を作り、運び屋にした。この方法は細胞に遺伝子を導入するのによく使われる。今回は遺伝子が染色体に入り込んでiPS細胞ができた後、その遺伝子を取り除くように設計した。

 この運び屋を人の胎児の皮膚細胞に入れると、2〜4週間後に細胞の塊ができ、iPS細胞の特徴が確認できた。成功率は約0・001%。マウスでは京都大のウイルスを使わない方法より効率よく作製でき、生殖細胞など様々な細胞になる能力があった。

 国立成育医療センター研究所の阿久津英憲室長は「人のiPS細胞はまだ確認が必要だが、より安全な作製技術へ向けて一歩前進した」と話している。(佐藤久恵)

iPS礼賛系の記事である。この手のものを見るたびに、自分がこの胎児/胚の親だった、少なくともこの実験に胚を提供していることを知っている中絶患者が知ったらどう思うのだろう……と考えずにいられない。

一方、2月18日付けのNIKKEI NETには「胎性幹細胞移植により腫瘍が発生」との記事が見られる。

 ヒト胎性幹細胞(fetal stem cell)治療を受けた患者に腫瘍が発生した初めての症例が、モスクワで報告された。ただし、患者の疾患が腫瘍の一因となった可能性も考えられるという。

 この腫瘍は、血管拡張性運動失調症の男児の脳および脊椎に認められたもので、胎性幹細胞による神経治療を開始して約4年後に発生した。血管拡張性運動失調症はまれな神経変性疾患であり、免疫系の衰弱も引き起こす。イスラエル、テルアビブ大学シバShebaメディカルセンターの研究グループが外科手術で摘出した脊髄腫瘍を調べた結果、その腫瘍が男児自身の組織とは遺伝的に異なることが判明した。

 研究グループによると、多能性胚性幹細胞(pluripotential embryonic stem cell:さまざまなタイプの細胞に分化する能力をもつ細胞)を注入したげっ歯類に腫瘍が発生したことが報告されているが、そのリスクは常に低く、特に注入前に細胞を分化させた場合は極めてリスクは低いという。

 研究チームは、オンライン医学誌「PLoS Medicine」に2月17日に掲載された報告の中で、幹細胞治療の利用は続けるべきだが、今回の事例から慎重さが必要であることが示されたと述べている。再生医療により最大の利益を得ると同時にリスクを最小にとどめるためには、幹細胞の生物学およびその利用と安全性についてさらに研究を重ねる必要があるという。

※参考(編集部):
・胎性幹細胞(fetal stem cell)=胎児から採取される幹細胞で、受精後6週間以上経過したもの。
・胚性幹細胞(embryonic stem cell)=ヒトの場合、受精後6週間以内に胚のもとになる幹細胞ができる。初期の2週間までのものを胚盤胞(blastocyst)、2週間から6週間のものを胚(embryo)と呼ぶ。

[2009年2月18日/HealthDay News]

「万能細胞」はまだまだ万能ではなさそうである。なお、上記記事の原文は、HealtyDayで読める。