リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

女性の声が食い止めた「男性助産士導入」

偶然、懐かしい本をオンラインで見つけました。

 わたしの身体はわたしのもの 清水久美+坂本みゆき著 雲母書房 2001 1600円+税

お産ルネサンス―わたしの身体はわたしのもの

REBORNの三宅さんが次のコメントをお寄せくださっています。

 この本は、男性助産士問題に端を発して作られたが、その本質を突き詰めるうちに、もっと深いところの問題点に行き着いている。この十数年、何度も持ち上がってはバトルを繰り返して沈静化していく男性助産士問題。時代が変わり、人々の意識が変われば受け入れられるのかもしれないが、平成10年には約 26000名の「男性助産士導入反対」の署名が集まった。

 バトルが繰り広げられると女性からは「嫌なものは嫌」という意見が出る。それに対して男性側から「感情論だけでは討論にすらならない」という意見が多く噴出する。この論点のかみ合わなさこそが、男性助産士導入が難しいという証のような気がする。
 本文中に社会人文学者の吉村典子さんの指摘が引用されているが、「産む人が主体性を奪われてきたために、お産の時に女性自身が感じている『変化』を言語化することが遅れた」とあり、この言葉は印象的だった。たしかに陣痛の痛みにしても「障子の桟が見えなくなる」とか「スイカを鼻の穴から出すようなもの」という言葉くらいしか思い浮かばない。言葉がないから、それを体感できない男性との共通認識が阻害される。だから男性助産士を導入するとお産環境がもっと悪化するのでは?という不安が増す。 「体感的な情報を言葉で表す」ということは、出産だけに限らず、男性と女性が暮らすこの世の中の、ありとあらゆることに求められるのではなかろうか。男女が、より楽しく仲良く暮らしていくために。 

(三宅はつえ:REBORN)

生後2ヵ月の娘を抱えてこの運動を知り、当初は分からなかった“問題”が助産婦さん達の言葉を聞いているうちに徐々に見えてきたものでした。

内容
まえがきにかえて −それは助産士問題Q&Aの作成から始まった−   清水久美

 お産の現場に男性が入ると聞いたとき、たいていの女性がとっさに「嫌だ」と思う。「どうして嫌なの?」と聞かれても、なんだかうまく言葉にならない。じつは複合的な要因を感覚的に察知しているためなのだが、最初の段階ではそこまではまず思い至らない。
 むしろ聞いたとたんに、「でも、お医者さんだって男性なんだし…..」とか、「男女平等の世の中だもの、男だからって排除するわけにはいかないよね」と、自分を納得させようとする女性も多い。だけど、助産婦がやっている具体的なケアのことを聞くと、それを男性が肩代わりするなんてぜったいに耐えられないと思う。その違和感、拒否感をどうにか伝えようと言葉を探す。
 「え〜っと、…生理的に嫌なのよ。リラックスできないと思う。夫だって嫌なはず。それから…」などと言葉を探しているうちに、助産士導入推進派の論理が切り込んでくる。「男女平等のため…選択権は保証する…医師は男でもいいのでしょう?」
 そのひとつひとつに即座に反論できなくとも、どうしても違和感がまとわりつく。そして、ふと気づく。
 「あぁ…この"導入"って、わたしたち"産む女性"のためじゃないんだ」
 そう気づくと、「じゃあ、誰が、何のために、なぜ、こんなにやっきになって男性を入れようとしているのか」、という素朴な疑問が沸いてくる。どうにもよくわからないことだらけ……
 そこでわたしは、助産婦の坂本さんを囲んで勉強会を開くことにした。すると、助産士問題についてみんなが抱く素朴な疑問には、どれも説明が付くのだとわかった。
 わたしたちはQ&Aづくりに乗り出した。同じところで堂々巡りをしているのではなく、問題解決に向けて議論を進めるためにも、産む人に自分たちの問題だと気づいてもらうためにも、導入となるシンプルな説明が必要だと思ったからだ。
 Q&Aづくりを通じて、わたしたちの問題意識は深まっていった。助産士問題は、降ってわいたような「男女共同参画社会の課題」ではなかった。政治的・社会的なさまざまな事情や問題が重なって初めて浮上した複合的な問題だった。どうりで一筋縄ではいかなかったわけだ。何枚ものベールを引き剥がしていくと、この問題の根本には「女性の性が女性自身のものになっていない」という大問題が横たわっていた。
 「これはみんなに知らせなくちゃ!」。助産士に反対するためにというよりも、より多くの女性がよりハッピーなお産を手にできるお産環境をつくるために、助産士導入の前提となっている今の「産む人不在のお産環境」の問題をみんなに知ってもらうために、女性たちが自らの性を自らの手に取り戻すために―――わたしたちは本づくりにまで乗り出した。
 この本が議論のたたき台になることを願っている。

目次
序章  私のお産は誰のもの? 清水久美
第一章 助産士問題から見えたこと「講演録」 坂本みゆき
第二章 いいお産は心と目を開く「鼎談」 清水久美 坂本みゆき 矢島床子
第三章 お産をめぐる歴史のなかで 坂本みゆき
第四章 お産ルネサンス 清水久美
終章  わたしの身体はわたしのもの 清水久美
 
資料  参考ホームページ 
    参考文献
    男性助産士導入の歴史的経過
    助産婦のための国際倫理規定(ICM倫理規定)
    基本はよりよいお産を目指すこと

産む場面でも産めない場面でも、女性たちが健康で穏やかでいられますように! そのためにも、まずは女性自身が自分の身体、自分の経験を、他人に説明されるのではなく、“自分自身の言葉”で語れるようにしなければならないよね。