リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

円ブリオのジレンマ

讀賣新聞鹿児島版のサイトで見つけた話。

円ブリオかごしま代表へのインタビュー記事です。

 ――昨年9月、円ブリオかごしまを発足させましたね。

 一口1円の募金で、妊婦さんの出産費用や検診費の援助や、思いがけない妊娠で産むか産まないか悩んでいる女性の相談に乗るNPO法人「円ブリオ基金センター」(東京都)の地域団体です。友人数人で始めましたが、今は主婦や薬剤師、助産師など約20人で活動しています。「円ブリオ」とは、1円の「円」と、8週までの胎児を表す英語「エンブリオ」の語呂合わせ。昨年は皆さんからの募金で、全国で約160人、県内で2人の赤ちゃんの命を救うことができました。

基本的にわたしは円ブリオのような活動は大事だと思うし、自分も募金したことがあります。その上で、引っかかるのは、「赤ちゃんの命を救うことができた」という点ばかりが強調されること。

 ――この活動に携わるきっかけは。

 中絶を経験した友人がいて、その話を聞いた時、「何かできることはなかったのだろうか」とすごく悔やみ、それ以来、「赤ちゃんの命を救う活動をしたい」と思っていました。そんな中、夫の転勤で5年間、アメリカのカンザス州に住んだとき、24時間態勢の相談電話や、無料の妊娠検査をしている民間団体を知りました。そこに、中絶しようとしていた日本人学生がいたんです。でも、彼女はカウンセリングを受けたり、超音波検査でおなかの中の赤ちゃんを見たりするうちに、出産を決意しました。その過程に触れ、「日本に帰ったら、私も妊婦のサポートをやってみよう」と思ったのです。

==以下省略==
(松下浩子)
(2008年11月17日 読売新聞)

省略した部分はこちらでどうぞ。

上記の円ブリオ鹿児島代表の山口さんという方は、失われた命に対してのみ痛ましさを感じ、友人の苦悩については無関心だったのだろうか? そうは思えない。おそらく友人のためにも、何かできたのではないかと「悔やんだ」のであろう。救われるのは胎児の命だけではない。女性を救うという視点を見落としてはならない。

同様に、アメリカで妊娠した日本人学生が、広い意味でのエンパワメントを受けたであろうことも見落としてはならない。一部の極端なプロライフを除けば、こうした活動が「産むことの強制」につながってはならないと自戒しているはずである。女性を支援し、エンパワーし、自分自身で判断させることが大事だという点を見失ってはいけない。実際、円ブリオ等の活動で、産まれた子どもが大人になるまでの莫大な養育費をすべて世話するといった話は聞いたことがない。たとえ分娩時に助けてもらったとしても、育てながら生活していくのは、産んだ女性自身なのだ。

ただし、くり返すが、わたしはこうした活動を決して否定しているわけではない。誰にも相談できないで苦しんでいる女性は大勢いると思うし、実際、ほんの少し支えてもらうことで、「産む決断」に踏み切れる女性もいるだろう。日本にはあまりにも不本意な妊娠をした女性をサポートするしくみがなさすぎる。しかし、産む選択をする女性のみ重視することで、産まない選択をせざるをえない女性の判断を否定してはならない。第一、妊娠させた男性はいったいどこにいるの? こうした美談の裏に、産まない女性への非難をもぐりこませてしまってはならないのだと、あえて釘を刺しておきたい。