リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

3つの世代の避妊ピルのこと

改めて避妊ピルのことを私なりにまとめてみます。

まず第一世代から第三世代までのピルをきちんと区別しておくために、WHOのEVIDENCE SUMMARYを参考にします。まず、いわゆるピルは混合型経口避妊薬(Combined oral contraceptives:COCs)と呼ばれているようです。経口避妊薬(OC)だけではないんですね。

COCは、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲストーゲン(プロゲステロン=黄体ホルモン同様の作用を持つ物質の総称)を組み合わせた製剤のことです。エストロゲンプロゲステロンも、いわゆる「女性ホルモン」の仲間で、大雑把に言えば、エストロゲン排卵を、プロゲステロンは妊娠を司ります。

OCOには以下の3つの世代に分類されます。

  • 1960年頃に登場した第一世代はいわゆる「中高用量」ピルで、たとえば次のようなプロゲストーゲンが含まれています:norethisterone (NET), norethindrone (NE), ethynodiol diacetate, lynestrenol (LYN)
  • 1970年代に発売された第二世代のプロゲストーゲンには、Levonorgestrel (LNG) と norgestrel (NG) があります。
  • 1980年代に発売された第三世代のプロゲストーゲンには、desogestrel (DSG), gestodene (GSD) , norgestimate (NGM)があります。

現在、第二世代のLNG(レボノルゲストレル)が最も広く普及しているプロゲストーゲンで、圧倒的多数が30µgの ethinyl estradiol と組み合わせたピルとして使われています。

第二世代と第三世代は、明らかに第一世代よりも副作用が少なく、女性たちの継続率も高いのですが、第二世代と第三世代の効果も、副作用もさほど大きくは違わない一方、第二世代のほうが明らかにコストが安いという特徴があります。(第二世代のレボノルゲストレルが最も普及しているというのは、おそらくコストの問題も影響してのことでしょう。)

避妊ピルはその登場以来、様々な出来事に揺すぶられてきました。以下は、American Experienceのピル史からの抜粋訳です。

  • 1956年 プエルトリコで実験された「エノヴィッド」という最初の避妊ピルは、副作用の犠牲者を多数出す。
  • 1960年 開発者の一人ジョン・ロックは、ヴァチカンは避妊ピルを「リズム法の延長」として認めるべきだと発言。アメリカでピルが解禁される。
  • 1962年 アメリカ人女性の使用者が劇的に増加していくなか、深刻な副作用の噂が流れる。会社側は直接的な関係を否定。
  • 1966年 米国食品医薬品局(FDA)が避妊ピルと血栓、癌、糖尿病との関係を調査。
  • 1970年 フェミニストたちから副作用の事実を女性たちに隠しているとの批判を受け、FDAはあらゆる副作用について製品に注意書きを添えることを命ずる。
  • 1970年代 ピルのエストロゲン含有量を減らすことで、血栓のみならず、体重増加や頭痛、吐き気などの副作用も減ることが明らかになり、低用量化の開発が進む。
  • 1973年 米上院でピル公聴会が開かれ、一時的にピル使用者は減るが、すぐに巻き返し、翌年には第一の避妊方法になる。
  • 1980年代初期 アメリカ人女性1000万人がピルを使用。上院の公聴会以後、避妊ピルの安全性は劇的に改善される。
  • 1980年代 ローマ教皇のピル禁止にも関わらず、アメリカのカトリックの女性の8割がピルを使用。ピルが本質的に非道徳的だと考える聖職者はわずか29%。
  • 1988年 FDAの要請を受け、製薬会社は第一世代ピルを撤収する。
  • 1990年 FDAコンシューマーの報告によれば、避妊ピルは政府、医療界、大衆のいずれからも安全で有効なものと見なされている。

その後、1995年にイギリスでpill scare(ピルの脅威とでも訳しておきましょうか)と呼ばれる副作用騒ぎがあり、1999年になってようやくピルの安全性が確認されるまで、ピル使用を控える動きもありました。ところが、晴れてピルの副作用疑惑が晴れたこの年に、日本政府は副作用を理由に第三世代ピルに難癖をつけたのです。

日本では1999年まで第一世代のOCOしかありませんでした。ようやく第二世代、第三世代が認可された時、当時の厚生省は第三世代のピルは血栓症を引き起こしやすいという説があることを根拠に、「第一選択薬とはしない」添付文書に盛り込むことをピル認可の条件にしました。こちらを参照。第三世代ピル「マーベロン(Marvelon)」を取り扱っていた企業は、どうやら日本政府のこの取り扱いを不服としてこのピルを日本に供給しないことを決めてしまい、実質的に日本では第三世代のOCOは使えなくなってしまったようなのです。

マーベロンに関する記述がこちらのサイトに集められています。わたしもノーコメントでご紹介しておきます。