リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

卵子ドナーの募集

本日付の朝日新聞朝刊に、「卵子の無償提供者募集〜不妊治療医らのNPO」という記事が載りました。設立されたのは、OD-NETというNPO(岸本佐智子代表、事務局・神戸市)です。つい最近の1月10日にサイトも作っていたようです→こちらへ。サイトによれば、OD-NETとは、Oocyte Donation NETworkの略。つまり「卵母細胞の寄付・寄贈」ということになります。

おそらく排卵促進剤を用いて「卵母細胞」を取り出すのでしょうが、そもそも不妊治療の「採卵」は侵襲性が高く、当人のリスクが高いと言われています。男性の「採精」とは全く話が違うわけで、それを思えばただの「善意」で広めるべきことなのか、疑問が湧いてきます。これが実現すると、今度はボランティアの「代理母」も認めろという話になってくるでしょう。女性の身体の資源化はいったいどこまで進んでいくのか、と嘆く声も聞こえてきそうです。

また、記事にもありましたが、ドナーの卵で生を受けた子どもが、出産した女性と卵子を提供した女性のどちらが母親か悩み、苦しむ可能性は見落とせません。さらに、「35歳未満で子のいる女性」から提供を募るとなると、当人だけではなく「同じ母をもつきょうだいたち」やその女性の夫など、家族の気持ちにも配慮が必要になります。しかも、子が15歳になり希望すれば、提供者の名前や住所を教えるといいますから、元々、「血を分けた」関係に敏感な人の多い日本で、家族関係が複雑になることから様々な混乱を招くかもしれません。

そもそもなぜ「卵子バンク」の需要があるのかといえば、女性の側に無排卵等の問題があるが、男性の側には精子があるという夫婦において、夫が自分の「血を分けた子」にこだわるか、あるいは妻の方が「彼の遺伝子を残したい」「彼の子どもを宿したい」と思うからなんでしょうね。しかし、そうやって「血のつながり」にこだわればこだわるほど、「卵子提供者」の影もまた色濃くなってしまうという矛盾が生じます。

一方、これまでも日本人女性による「卵子の提供」は行われてきました。ただし実施場所はアメリカやタイなど海外です。「卵子ドナー」は(依頼者のお金で)海外まで赴き、「採卵」を受け、経過を観察することで好奇心を満たし、ついでに観光してきたりしていたようです。その倫理性はともかくとして、ドナーの側にも「人助け」以外にも何かしらのメリットがあったわけです。(おそらく礼金も支払われていたのではないでしょうか。)若い未婚女性が中心だという印象があります。しかし、これを国内で、しかも完全無償で行う場合、ドナーの側にいったいどのようなメリットがあるのでしょう。万が一、卵子提供の過程でトラブルが生じ、提供者の側に生涯にわたる問題が残ってしまったら、単なる「副作用で治療が必要な場合の費用は負担」だけではすまなくなります。決して軽々しく行われてはならないと思います。

とはいえ、国内にNPOができたことで、これまで金銭的な理由等で海外の卵子バンクを使えなかった人たちに、新たな選択肢が与えられるのは確かです。NPO代表の岸本さんはターナー症候群の娘さんのために「突破口を開きたい」という思いで立ち上がったといいます。もちろん、善意で協力したいという人が出てきて、万事うまくいく可能性を否定するつもりはないのですが、非常に慎重に行われることを願わずにはいられません。