リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

アメリカの現行の緊急避妊薬は非処方箋薬で年齢不問

2017年7月26日に開かれた「第2回医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議(以下、「検討会議」とする」の資料を見たところ、一つ大きな問題に気づいたので忘備録として書いておきます。

ここで問題にするのは、要望品目のスイッチOTC化の妥当性についての「PDF 資料5 レボノルゲストレル」(資料一覧はこちら、資料5のPDFはこちら)です。

この資料5の100〜101頁にアメリカのPlan-B(日本のノルレボに相当するレボノルゲストレルを用いた緊急避妊薬)のパッケージをコピーした写真があり、そこに記されている内容を翻訳したものが102頁に記されています。

この文書の最後には「ウェブサイトも閲覧できる」として、www.go2planb.comのURLが付いています。そこでこのサイトに入ると、最新商品であるPlan-B One-Stepという商品の案内ページが開きます。この商品のホームページからAQ(頻繁に尋ねられる質問とその答え)のページを開くと、"Who is Plan B One-Step for?(Plan-B One-Stepは誰に向いていますか?)"という質問が見つかるので、そこをクリックすると次の回答が示されます。

Plan B One-Step is for a woman who has had unprotected sex or birth control failure within the last 72 hours (3 days) and wants help preventing pregnancy. The sooner it's taken, the better it works.

It’s available without a prescription or ID, and with no age restriction. If you have any questions about whether you should take Plan B One-Step, please talk to your healthcare professional.

上記のとおり、この商品は「妊娠を防ぎたい女性向けであり、処方箋も不要で、年齢制限もない」と明記されているのです。ところが、検討会議が提出している資料は、「17歳以上」に使用を限定した古いバージョンのものなのです。

さらに、薬の認可のためには重要な容量が旧バージョンと現行バージョンは異なるという大きな問題があります。

0.75mgの錠剤を2回に分けて服用するタイプは古いPlan-Bの時に使われていたもので、現在のアメリカで使われている緊急避妊薬Plan-B One-Stepは1.5mgを1回限り服用するタイプなのです。

つまり検討会議に提出された資料に添付されている海外の薬のうち、アメリカのレボノルゲストレルは0.75mgタイプで2回服用、カナダも同じ0.75mgの錠剤ですが2錠を1回服用(つまり、1.5mgタイプと効果は同じ)になっており、2017年5月現在のオーストラリアの薬は、アメリカのPlan-B One-Stepと同じ1.5mg1錠を1回限り服用するタイプになっています。

中絶薬同様に、海外の緊急避妊薬はどんどん改善され、より良い用いられ方が工夫されているのですね。古い情報をもとに持論をくりかえしている日本とは相当に態度が異なるようです。

検討会議のメンバーが、現行のアメリカ製品とは異なる古い情報を「資料」にしていたのは、無知のなせるわざなのでしょうか。少なくとも、アメリカとカナダとオーストラリアの薬の資料をきちんと読み比べれば、アメリカの情報が古いことに気づくことはできたはずです。「最新情報」を資料に入れることができなかったのは一種の怠慢だとも言えるでしょう。

しかし、これまで中絶薬について実際に行われてきた(現在も行われている)「情報操作」を考えると、もしかしたら今回も、意図的に古いパッケージを「資料」として掲載したのではないかという疑問が湧いてきてしまいます。

すでに中絶薬については、古い医学的エヴィデンスを元にして不正確な情報を流したり、その不正確な情報に基づいて議論したり、決定を行ったりされている問題が起きています。2014年9月27日の日記で紹介していますので、よろしければご参照ください。

追記:緊急避妊薬としてのレボノルゲストレルとミフェプリストンの作用機序や効果については、最新のコクラン・レビュー論文Interventions for emergency contraceptionを参照することができます。