リプロな日記

日本のアボーション(中絶と流産)にまつわる諸問題を研究しています

WHOの中絶関連文献

専門*危険な中絶から安全な中絶ケアの提供まで

WHOは中絶問題に関して数多くの文書を発行してきました。版を重ねてもはや紹介されなくなったものもありますが、現在、WHOのサイトからアクセスできる文書だけでも20数種類もの文書があります。いくつか主な内容を抜粋してご紹介します。特に注意書きしていない箇所については、私自身の試訳です。

Unsafe abortion: global and regional estimates of the incidence of unsafe abortion and associated mortality in 2008
『安全でない中絶(第6版):2008年における全世界と各地域の安全でない中絶と安全でない中絶による死亡の推計』

内容抜粋:
中絶に対する社会的、文化的信念も、中絶へのアクセスの障壁です。(中略)繰り返し発生する問題として、以下の問題が挙げられます。
・法で権利が保障されているにもかかわらず、多くの国が中絶サービスを実現するための設備をまったく設けていないか、不充分である。これはしばしば中絶にまつわる社会的、文化的信念に起因している。
・公的機関、法律部門、保健部門の専門家のあいだで、合法とされていることについての認識が欠如している。
・中絶法を実践し、ある状況下で女性が中絶をする権利があると認めることを政策立案者や保健専門家がしたがらない。
・法律で保障された権利が女性に知らされておらず、中絶サービスにアクセスできる権利が認められる条件が、女性に知らされていない。
・中絶に関する社会的、文化的信念、医療の対応の悪さや法的制裁への恐怖感が、女性がケアを求めるのを躊躇させている。
・公式の中絶サービスは費用が高すぎて、ほとんどの人が支払えない。
・中絶サービスの施設が国中にいきわたっていない。
・需要に応じきれる数の中絶サービス施設がない。
・中絶サービスの質が低い。
・医療スタッフが女性の気持ちをくじくような態度をとり、女性が嫌がらせやひどい対応を受ける。
・法律によって許される場所でも、緊急事態の場合でさえ良心的拒否者(conscientious objectors)が中絶サービスを提供することを拒否する。
(以上、すぺーすアライズ翻訳版を元に若干変更)

WHO | Health worker roles in providing safe abortion care and post-abortion contraception
『安全な中絶ケアと中絶後の避妊の提供における医療従事者の役割』 (2015)

内容抜粋:
現在は安全でシンプルで効果が高くエビデンスに基づいた介入方法があるにもかかわらず、世界では年に2200万件近くの安全でない中絶が行われている。安全な中絶へのアクセスを妨げている要因の一つは、訓練を受けた提供者が不足していることである。また、数多くの所得の高い国々を含めて、大半の国々では能力の高い医療提供者を利用できるかどうかについて地域差がいまだに大きい。また医療者側に方針や規則による障壁やスティグマや抵抗があるために、安全な中絶の提供がさらに妨げられている場合もある。エビデンスに基づく安全な中絶ケアおよび中絶後のケアの多くは(特ににんしん初期の場合には)、プライマリー・ケア・レベルの外来ベースで提供可能である。安全で有効なオプションとして薬物中絶(薬を用いた非外科的中絶)が登場したことで、安全な中絶の提供のために必要な適切な手順や医療提供者のスキルは大幅に簡略化され、安全な中絶の提供を行う上で幅広い医療従事者が役割を担えるようになっている。WHOは2013年の報告書で、専門看護師や助産師などの活用が不十分である事実を指摘して、女性たちが必要とするサービスを提供するためにそうした医療提供者の活用を求めた。一方WHOは2012年の『安全な中絶』で適切な訓練を受けた医療提供者(医師以外の者も含む)であれば、中絶ケアは安全に行えると指導している。

WHO | Safe abortion: technical and policy guidance for health systems, second edition (2012)
『安全な中絶:医療制度のための技術的および政策的ガイダンス 第2版』

外科的中絶の推奨方法
妊娠12~14週までの外科的中絶において真空吸引が推奨方法である。吸引を完了するために、搔爬を常用してはならない。拡張搔爬法(D&C)は、もし今も用いられている場合には、真空吸引に置き換えるべきである。(推奨強度:強)

内科的中絶の推奨方法はミフェプリストンの服用に引き続きミソプロストールを服用する方法である。(後略)(推奨強度:強)

ここから先は、グッドマッカー研究所とWHOの共同著作です。 
Guttmacher Institute, World Health Organization

 

Medical management of abortion (2018)
『中絶の薬理的管理』

薬理中絶(medical abortion: MAと略)とは、自然流産および人工流産(体外生存可能な場合と不可能な場合の両方を含む)、不全流産、子宮内遺残、中絶後避妊にまたがる様々な症状の管理にまたがる言葉である。MAは一般的にミフェプリストンとミソプロストールの組み合わせまたはミソプロストール単体の処方で行われる。MAケアは安全で有効かつ許容可能な中絶ケアへのアクセスを提供するために重大な役割を果たしている。資源が豊富な国と乏しい国の両方において、MAの手法を用いることは業務の移管(task shifting)と資源の共有および有効活用に寄与してきた。それ以上に、MAを用いた(特に妊娠初期における)数多くの施術は、今やプライマリー・ケア・レベルで、しかも外来ベースで提供可能となったことで、ケアへのアクセスをさらに高めている。MAケアは技能をもつ外科的中絶提供者の必要性を減らし、妊娠した個人にとって非侵襲的で高度に許容可能なオプションを提供している。

 さらにこのガイドラインの存在意義についても次のように述べられており、MAに関してはこれが最新情報であることが示されています。

人工流産および不全流産の管理のために、2012年のWHOのガイドライン『安全な中絶』ではミフェプリストンとミソプロストールを用いることを推奨している。2015年のWHOガイドライン『安全な中絶と中絶後避妊の提供に関する医療従事者の役割』では、薬剤の自宅使用や自己診断に関するエビデンスを示している。しかしながら、さらに最近になって、中絶(流産)を管理するために薬剤を服用するタイミングや容量、服用間隔、服用経路などに関するエビデンスやMA後に避妊を開始するタイミングに関するエビデンスが次々に提供されている。そこで、WHOはそれらのエビデンスを見直し、推奨方法を更新することが不可欠だと判断した。

Expanding health worker roles for safe abortion in the first trimester of pregnancy, Summary (2016) 
『妊娠初期における安全な中絶のための医療従事者の役割を拡大する、サマリー』

主要なメッセージ

  • 第1三半期(妊娠を3期に分けたうちの初期)の安全な中絶ケアは、医師以外の訓練を受けた医療従事者によって、プライマリー・ケア・レベルで安全かつ有効に提供することが可能である。ここでいう中絶ケアには、妊娠第13週までの大きさの子宮に対して、流産を誘発するための、あるいは合併症を伴わない不完全中絶または流産の後処置としての真空吸引、ミフェプリストンとミソプロストールを用いた(ミフェプリストンが入手できない場合にはミソプロストール単独での)薬理中絶、合併症を伴わない不完全中絶または流産の後処置としてのミソプロストールの使用(すなわち、基本的な婦人科緊急処置の一環としての遺残物の除去)が含まれる。医療従事者の役割の拡大は、安全な中絶へのアクセスを高めるための総合的努力の一環として導入すべきである。その場合、上述のサービスの提供者として中核となるすべての人々に対して、訓練と継続的監視と助言を行う適切な仕組みを伴わねばならない。

WHO | Safe abortion: technical and policy guidance for health systems,Technical & policy guidance for health systems (2015)
『安全な中絶:医療制度のための技術的および政策的ガイダンス 法的および政策的考慮事項』

主要なメッセージ

  • 中絶に関する法規および政策は女性の健康およびその人権を保障すべきである。
  • 安全な中絶ケアへのアクセスを妨げるような規則や政策、計画的障害は撤廃すべきである。
  • 安全な中絶ケアを法的に受けられるすべての女性が、容易に安全な中絶ケアにアクセスできることを保障する積極的な規則および政策の環境が必要である。
  • 政策立案の際には、以下の事項に対応する方向を目指すべきである:女性の人権を尊重し、保護し、達成すること、女性たちがポジティブな健康を達成すること、質の高い避妊情報とサービスを提供すること、貧困者や若者、レイプサバイバー、HIV罹患者など特定のニーズをもつ女性たちのニーズを満たすこと。

安全な中絶の法的根拠に関する国際人権条約機関の勧告

  • 女性のみが必要とする医療を犯罪にしている法、および/またはそうした医療を自ら実施する女性を罰する法は修正しなければならない。

(中略)

  • 性や生殖にまつわる健康に関する情報提供を行い、若者を含みすべての女性が合法的中絶サービスに関する情報に確実にアクセスできるような仕組みを作るべきである。

まだまだあります。次の文書には、世界の中絶医療の改善に大きく寄与したグリメス博士の文章が掲載されています。

Preventing unsafe abortion and its consequences - Priorities for Research and Action (2006)
『安全でない中絶とその結末を予防するー研究と行動の優先事項』
「第5章:安全でない中絶の合併症を減らす:医療テクノロジーの役割」  by David A. Grimes

Safe abortion: technical and policy guidance for health systems, Second edition (2012) 
『安全な中絶:16 May 2012


次のベトナムの報告は、20世紀の終わりのベトナムで妊娠のごく初期の中絶ではMVAが普通に使われていることと、それと併用するD&Cが危険視されていることがわかります。

Abortion in Viet Nam: An assessment of policy, programme and research issues (1999)
ベトナムの中絶:政策、プログラム、研究の問題点を評価する』

最終月経から6週までの女性に対する中絶のために、ベトナムではシングルバルブのシリンジを用いた手動真空吸引(MVA)が一般に用いられます。この週数を過ぎると、多くの医療現場の提供者たちは妊娠12週までD&Cを用いています。妊娠12週までの中絶でD&Cを使わないようにするために、ダブルバルブのシリンジを用いた真空吸引を行うか、あるいは電動吸引機を用いることが推奨されています。

以下は、英文のまま列挙しておきます。いずれリンクや翻訳を加えて更新しますね。

WHO | Clinical practice handbook for safe abortion                                                                                     
10 January 2014

Safe and unsafe induced abortion - Global and regional levels in 2008, and trends during 1995–2008 
Information sheet 
13 July 2012

Unsafe abortion incidence and mortality - Global and regional levels in 2008 and trends 
Information sheet 
13 July 2012


Facts on induced abortion worldwide  
Fact sheet 
11 January 2012

Unsafe abortion: global and regional estimates of the incidence of unsafe abortion and associated mortality in 2008 
Sixth edition 
21 March 2011

What health-care providers say on providing abortion care in Cape Town, South Africa: findings from a qualitative study 
Social science research policy brief 
20 September 2010

Packages of interventions 
Family planning, safe abortion care, maternal, newborn and child health 
4 August 2010

Mid-level health-care providers are a safe alternative to doctors for first-trimester abortions in developing countries 
Social science research policy brief 
31 December 2008

Unsafe abortion: global and regional estimates of incidence of unsafe abortion and associated mortality in 2003 
Fifth edition 
31 December 2007

The WHO Strategic Approach to strengthening sexual and reproductive health policies and programmes 
19 September 2007



Unsafe abortion: the preventable pandemic 
The Lancet sexual & reproductive health series 
25 November 2006

The effects of contraception on obstetric outcomes 
31 December 2004

Unsafe abortion: global and regional estimates of incidence of unsafe abortion and associated mortality in 2000 
Fourth edition 
31 December 2004

Studying unsafe abortion: a practical guide 
31 December 1996

Complications of abortion:  Technical and managerial guidelines for prevention and treatment              
31 December 1995

Clinical management of abortion complications: a practical guide 
31 December 1994

Work in the area of prevention of unsafe abortion is done exclusively within the UNDP/UNFPA/WHO/World Bank Special Programme of Research, Development and Research Training in Human Reproduction (HRP).