リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

「第5次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(素案)」についての意見募集

パブコメに以下の意見を出しました

第1部 基本的な方針
該当ページ数(1) 1-
ご意見(1)
 1頁目第2段落の「5次計画」の文には、女性差別をなくすことが大前提であることを明記する必要があるため、「我が国における経済社会環境や国際情勢の変化を踏まえ、」に続き、「女性差別を撤廃することを前提として、」と補う。
 同じ段落の「我が国が主体的に参画してきたジェンダー平等に係る多国間合意の履行の観点から」ではどの「合意」を指しているのか不明確であるため、「憲法98条の2に従い、我が国が主体的に締結した女性差別撤廃条約等の国際法規を誠実に遵守する観点から」とすべきである。
 そもそも英語ではGender Equalityとされている部分を日本語では「男女共同参画」と表現してきたことについて、改めて議論し直していく必要がある。
 全篇に渡り、「男女」を「全てのジェンダー」と言い換えるべきである。「アンコンシャス・バイアスの存在により、無意識のうちに、性別による差別・区別が生じるおそれ」「固定的な性別役割分担意識やアンコンシャス・バイアスが大きな障壁となっている」(3頁)と指摘されている通り、単に慣習だからとして「男女」と男性を先に述べることを当然視するのではなく、また、全ての人間が女もしくは男に二分されるわけでもなく様々なジェンダーの様式がありうるとすでに明らかにされてきたことにも配慮して、意識的に言い換えることにより、無意識のバイアスを積極的に取り払っていく必要がある。
 全てのジェンダーの平等のためには、女性のリプロダクティブ・ヘルス&ライツを尊重し、女性のみの健康と医療のニーズを保障していくことが大前提である。そのことを補うために、10ページ4の「男女が健康な生活を実現し」の部分は、「女性特有の健康と医療のニーズがあることに十分配慮しつつ、男女が健康な生活を実現し」と補う。
 「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」の元の英語はreproductive health and rightsであり、reproductive(生殖の)という形容詞はhealth(健康)とrights(権利)の両方にかかっている。「/」という記号は、英語ではorにあたるため、この標記では「生殖の健康」と「生殖の権利」のどちらか一つ満たせばよいか、または一方が他方の言い換えであるとの誤解が生じうる。「生殖の健康と権利」両方だと明記するには、「リプロダクティブ・ヘルス&ライツ」とすべきである。

ご意見(2つ目)
該当分野(2) 第2部 II 第7分野 生涯を通じた女性の健康支援
該当ページ数(2) 63-
63頁:【基本認識】の2つ目の〇の第2文について
 「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」(性と生殖に関する健康と権利)の視点が殊に重要であるならば、具体的施策も示すべきである。
 2000年の男女共同参画計画の「8生涯を通じた女性の健康支援」では、施策の基本的方向として「(1)リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」と「(2)生涯を通じた女性の健康の保持増進対策の推進」の2つが示されていた。さらに(1)に関するは具体的施策として、担当府省は文部科学省厚生労働省と明記して、次の3項目――「女性の健康問題への取組についての機運の醸成」、「学校における性教育の充実」、「性に関する学習機会の充実」が示されていた。2005年の第2次基本計画以降、この施策を示した箇所は削除されているが、2000年の基本計画の内容を復活・充実させるべきである。
64頁:(1)施策の基本的方向の2つ目の〇以降について
 「女性については、その心身の状況が思春期、妊娠・出産期、更年期、老年期等人生の各段階に応じて大きく変化するという特性から、長期的、継続的かつ包括的な観点に立って健康の増進を支援する。」このうち、「妊娠・出産期」と括られている期間中に、WHOによれば4人に1人の女性が中絶を経験している。そのため、女性の健康を支援していくには安全な避妊と中絶医療の提供が不可欠だが、日本ではWHOが「安全性に劣る」とし、より安全な方法に変更を求めている「搔爬」が未だに多用されており、対策が急務である。
 なお、出産に至らない場合についても女性の健康は守られることを表明するために、「妊娠・出産期」は「生殖期」に修正するなど工夫が必要である。
 また、1995年の第4回世界女性会議の北京宣言17は「すべての女性の健康のあらゆる側面,殊に自らの出産数を管理する権利を明確に認め再確認することは,女性のエンパワーメントの基本である。」としているが、日本の刑法堕胎罪はこの権利を侵害しており、中絶を受ける女性を苦しめている。国連女性差別撤廃委員会は日本政府の第6回報告及び第7・8回報告に対する最終見解で、「全ての場合において人工妊娠中絶の合法化を確保するとともに、他の全ての場合の人工妊娠中絶を処罰の対象から外す」よう再三勧告しており、女性の権利保障のために中絶を巡る法と医療の見直しを施策に盛り込むべきである。

ご意見(3つ目)
該当分野(3) 第2部 III 第11分野 男女共同参画に関する国際的な協調及び貢献
該当ページ数(3) 85-
  85頁:【基本認識】3つ目の〇以降
 「女子差別撤廃委員会や国連女性の地位委員会等における意見や議論を踏まえ、女子差別撤廃条約を積極的に遵守し、北京宣言・行動綱領に沿った取り組みを進める。」について具体的施策を講じる必要がある。
 国連女性差別撤廃委員会から具体的な改善を求められている個々の事項については、当事者や専門家も招いて対応を協議する組織を作り、議論し、具体的な政策を提言し、実行していくといった取り組みのために人材と予算を投入すべきである。
 女性に対する差別は女性の生殖機能が男性とは違っているという事実に根差しているため、リプロダクティブ・ヘルス&ライツは女性の人権の要である。だが、諸外国に比べて、この領域に関する日本の対応は著しく立ち遅れており、状況改善のために努力を集中すべきである。日本の低用量避妊薬の認可は海外の先進国より40年ほど遅れ、経口の避妊薬の認可もすでに30年以上遅れているのは、女性のみが必要とする医療保健のニーズを政府が重要視せず、具体的な対策を全く行ってこなかったことが大きく影響している。
 このたびのコロナ・パンデミックに際して、国連総長は「新型コロナウイルスが及ぼす悪影響は、健康から経済、安全、社会保障に至るまでのあらゆる領域において、単に性別だけを理由として、女性及び女児にとって大きくなっている」と懸念を示し、国連人口基金は「新型コロナウイルスの感染拡大により、世界で数百万人の女性が避妊へのアクセスを失い、望まない妊娠や性差別による暴力に直面する」との予測を発表したのに対し、海外では各種の専門家や政治家から「女性のリプロダクティブ・ヘルスを守れ」といった声がすぐさま上がり、短期間に規制緩和や法改正まで行って実行力のある対策に乗り出した国が少なくない。
 ところが日本はDV相談の枠を拡張した程度で、実態調査すらほとんど行われていないのが現状である。非常時には既存の不平等が深まり、社会、政治及び経済システムの脆弱性が顕わになるが、日本は国を動かしているリーダーたちの人権意識や性別による不平等についての関心があまりにも薄く、女性たちに対する人権侵害が目に見えるものになってすらいない。国民を教育するのと並行して政治家や官公庁の役人などに対して、女性のリプロダクティブ・ヘルス&ライツに関する教育を徹底する施策が必要である。