京都新聞社説 2020年12月7日 16:00
女性であることを理由にしたあらゆる差別の廃止を明記した女性差別撤廃条約を、日本が批准して今年で35年になる。
一方で、男女平等の実現度は世界的に大きく遅れている。
2019年に公表された世界男女格差指数(ジェンダーギャップ指数)は135カ国中121位で前年より11ランク後退した。
特に遅れが目立つのが政治や経済分野の指導的地位にいる女性の割合だ。政治分野では世界ワースト10に入っている。
女性差別撤廃条約を批准し、歴代政権が男女共同参画の政策を掲げながら、実際には女性の権利保障や地位向上が遅れている。
要因として指摘されるのが、条約の実効性を確保するための選択議定書を批准していないことだ。
1999年に国連で採択された選択議定書は、条約が保障する権利を侵害された人が、国内の裁判などで救済手続きを尽くしても救われない場合、国連の委員会に救済を申し立てる「個人通報制度」を定めている。
通報を受けた国連の委員会は、検討した上で締約国に見解や勧告を通知する。法的拘束力はないが締約国はフォローアップを迫られる。国内的な諸事情を言い訳にした差別の放置が許されない仕組みといえる。
条約締約国(189カ国)のうち114カ国が選択議定書を批准している。一方、日本では批准に向けた議論が事実上、棚上げされたまま推移してきたのが実情だ。
5年ごとに策定する男女共同参画基本計画でも「検討する」というレベルにとどまっている。
歴代政権は、国連委員会の見解や勧告が日本の判決と対立した場合、国内法の改正などを迫られる可能性があるとして、司法の独立性が侵される懸念を示してきた。
例えば、婚姻に際して同姓を事実上強制している日本の民法規定について、日本の最高裁は「合憲」としているが、個人通報を受けた国連委員会は夫婦別姓を認めるような救済を勧告する可能性があるとされる。政府はそうした事態を避けたいとみられている。
だが、過去に国連から議定書締約国に出された勧告はその国の裁判判決を覆すものではない。女性差別撤廃条約の正確な理解を促したうえで、自主的な対応を政府に求めている。
人権団体などは、既に国際社会で解消されている懸念を理由に課題解決を先送りしていると批判する。批准を遅らせれば、人権後進国のレッテルを貼られかねないと指摘している。
22年には、条約に基づいた日本の取り組みについて報告と審議が国連で予定されている。それまでに批准を検討すべきではないか。
菅義偉首相は臨時国会の代表質問で野党側から議定書批准について問われたが、「真剣に検討している」と述べるにとどまった。
自民、公明の与党内にも早期批准を唱える議員が現れている。一歩踏み出して議論を進めてほしい。