リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

不妊治療の助成について

森会長だけではない:菅総理ジェンダー差別

世間では「不妊治療助成は困っている人を助けるいいことだ」と単純に考える人が多いと思うのですが、リプロダクティブ・ヘルス&ライツの視点からいろいろ疑問に思っています。この「少子化対策」のために、女性たちやカップルにどのような影響があるのかをしっかり考える必要があります。

政府の助成があることを理由に、女性たちが不妊治療を受けるべきだと夫や家族から強制されたり、途中で諦めにくくなってはなりません。

また、不妊治療がこれまで以上に一般化することで、キャリアを犠牲にし、長期間不妊治療に費やしても妊娠できなかった女性の喪失感はますます大きなものになりそうです。

一方で、助成があるからゆっくり産めばいいと考えて、妊娠を先送りしているうちにタイミングを逃したり、子どもができにくくなってしまう人も出てくるかもしれません。妊娠や不妊についての情報がもっと提供される必要があります。

妊娠したものの、出生前検査で陽性となって中絶を希望される場合の助成金の扱いはどうなるのかも気になります。様々な意味で心のケアが必要になる人が増えそうです。

他にも、1子あたり30万円6回という税金の投入が果たして妥当なのか。税金を投入するのだから費用対効果も考える必要があります。

となると、「産みたいけど経済的問題で産めない」と思っているすでに妊娠している人々、特に若年層で予定外の妊娠をした女性たちに「産む選択のハードル」を下げるような環境整備が先決かもしれません。

「育てる選択のハードル」も引き下げる必要があります。子育て支援のありかたも、抜本的に変えていく必要があると思います。母親への負担をできる限り少なくし、社会で子どもたちを育てる制度がほしいです。

国家首脳で初めて産休を取ったことで知られたアーダーン首相率いるニュージーランドでは、親ではなく子ども一人一人に対して十分な助成があって、そのお金を使って保育園に入れてもいいし、他の親たちと一緒にプレイセンターを運営したり、母親がそのお金を収入として専業で育てたりしても構いません。しかもどの選択肢を選んでもすべて「キャリア」として認められるそうです。

アーダーン政権がそれを実現したわけではなく、20年以上前からそういう制度がある国なのです。ニュージーランドは、女性参政権が非常に早く認められた国でもあります。だからこそ、女性のリーダーが育っているという側面があるでしょう。制度改革が重要であることの一例ですね。

ただ金を出せば子どもが増えるといった考えは浅薄で、女性をエンパワーもせず、子産み機械に貶めるだけではないでしょうか。森会長辞任を機に、もっとジェンダーの視点で世の中を見直していく必要がありそうです。

厚労省不妊治療助成に関するサイト不妊に悩む夫婦への支援について