リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

同意なくコンドーム外す「ステルシング」違法化目指す闘い

AFP2021年11月9日 8:00 発信地:ワシントンD.C./米国

【11月9日 AFP】米テネシー州のブルックさん(仮名)は昨年、交際相手との性行為中に恐ろしいことに気付いた。「コンドームを外されていた」のだ。


 当時28歳で学生だったブルックさんは、妊娠する可能性や性感染症が心配で、うつ状態になった。何よりも思い悩んだのは、「これは暴行ではないのか」ということだった。


性行為中に相手の同意なしにコンドームを外すことを指す新語が「ステルシング」だ。


 レイプ被害に遭ったのも同然だと感じたブルックさんは、インターネットでさまざまな情報を検索した結果、「暴行の一種と呼んでいい」ことを知った。


 ブルックさんは長い間、立ち直れなかった。性行為の間も「パニック状態で、ストレスがとても強く」、コンドームが装着されているかどうか「常に」確認していた。


 だが、暴行の一種だと明確に示すことができれば、「それと向き合い、被害者に落ち度はないと理解できるようになります」とAFPに語った。


 米カリフォルニア州で最近、全米の州として初めてステルシングを禁止する法律が成立した。


 自らの経験を基に州議会に法案を提出したクリスティーナ・ガルシア(Cristina Garcia)議員は、被害者同士が支え合うオンラインコミュニティーの体験談から、ステルシングがまん延している実態を知り、これを禁止する法律が不可欠だと確信した。


 最初の法案提出から4年たった今年10月、ガルシア議員は、ついに大きな勝利を手にした。カリフォルニア州知事が、被害者の損害賠償請求を認める法案に署名した。


 全米の他の地域でも、同様の法律制定の試みがあるが、これまでに成功例はない。


 2017年にウィスコンシン州議会でステルシング防止法案を提出したメリッサ・アガード(Melissa Agard)民主党議員は、立法関係者には男性が多いため、この問題が「一蹴される」傾向があると訴える。



■ステルシングを罰する法律の効果は?


 ガルシア氏は、ステルシングによる心の傷を世の中で理解してもらう役割を果たしているとして、英テレビドラマ「I May Destroy You(原題)」を挙げた。作品を制作し、監督を務めたミカエラ・コール(Michaela Coel)氏自身が、ステルシングの被害者である主人公を演じている。


 2019年に米国で発表された調査結果によると、調査対象となった21~30歳の女性の12%にステルシングの被害体験があった。


 米コーネル大学(Cornell University)法学部のシェリー・コルブ(Sherry Colb)教授によると、暴行罪の成立要件として力ずくかどうかを問わない一部の州では、すでにステルシングが性的暴行の定義を満たしている可能性がある。


 コルブ氏は、「同意した内容とは違うことが起きる状態」を説明し、「インフルエンザの予防接種で滅菌済みの針を使用するという条件に同意したのに、いざ注射を打ってもらうときになって医師に使用済みの針を使われるようなものだ」と例えた。


 同氏はステルシングを罰する法律ができることは歓迎しているが、どれほど効果があるかは分からないと話す。特に、告発された側が「コンドームが(意図せず)外れた、または女性側がコンドームを外すことに同意した」と主張する可能性があるからだ。


 さらに懸念されるのは陪審だ。陪審が「非常に性差別的な考え」を持っていれば、被害者が最初に性行為に同意していたという理由で、その証言をあまり信用しない可能性があるとコルブ氏は指摘した。(c)AFP/Lea DAUPLE