リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

女性差別撤廃委員会に提出された第9回政府レポート

コロナで延期になっていた政府レポートが9月にこっそり提出されていた!

今回、2020年の3月までに提出期限だった質問項目のうち、中絶と女性の自殺に関する20項の質問を先に仮訳で示し、便宜的に番号を振っておく。質問に出てくる「前回の勧告39の(a)と(b)」の内容も示す。その後、今回の第9回政府レポートの関連部分を示す。すべて正式の文書は英語であるため、ここでは仮訳で示す。

健康
20.委員会に提出された情報によると、締約国の刑法は中絶を犯罪としているが、母体保護法では、誘発された中絶には配偶者の同意が必要である。


①委員会の前回の勧告(パラグラフ39(a)および(b))に沿ってこれらの規定を改正するために、締約国が取る予定の措置について情報を提供せよ。


②女性の安全な中絶へのアクセスと利用可能性を高めるためにとられた措置について報告せよ。


③サービスを必要とする女性に安全な中絶方法に関する科学的に正しい情報を提供するための締約国の努力を提示せよ。


④委員会の前回の勧告(パラグラフ39)に沿って、女性と少女の自殺を防止することを目的とした目標と指標を含む包括的な計画を採択するために締約国が行った努力について情報を提供せよ。


⑤自殺の問題に対処するために導入されたその他の措置とその結果について、データや統計を用いて詳しく説明せよ。
CEDAW/C/JPN/QPR/9

なお、①に出てくる「委員会の前回の勧告(パラグラフ39(a)および(b))」とは、次の通り。

39.女性と健康に関する一般勧告第 24 号(1999 年)と「北京宣言及び行動綱領」に沿い、委員会は、締約国が以下を行うよう勧告する。
(a) 刑法及び母体保護法を改正し、妊婦の生命及び/又は健康にとって危険な場合だけでなく、被害者に対する暴行若しくは脅迫又は被害者の抵抗の有無に関わりなく、強姦、近親姦及び胎児の深刻な機能障害の全ての場合において人工妊娠中絶の合法化を確保するとともに、他の全ての場合の人工妊娠中絶を処罰の対象から外すこと


(b) 母体保護法を改正し、人工妊娠中絶を受ける妊婦が配偶者の同意を必要とする要件を除外するとともに、人工妊娠中絶が胎児の深刻な機能障害を理由とする場合は、妊婦から自由意思と情報に基づいた同意を確実に得ること
CEDAW/C/JPN/CO/7-8

以下が、今回提出された日本政府の第9回レポート。
CEDAW/C/JPN/9

以下はそのうち、上記質問に対応する部分。

89. 母体保護法では、人工妊娠中絶を行う際には、原則として配偶者の同意が必要とされているが、以下の場合には、妊婦の単独の同意により、人工妊娠中絶が法的に認められている。
(a) 配偶者が不明、または意思表示ができない場合
(b) 妊娠後に配偶者がいなくなった場合


90. 「配偶者が不明の場合」とは、配偶者の所在が基本的に不明な場合を含む。「意思表示ができない」とは、実質的に意思表示ができない場合を含む。


91. 母体保護法では、女性が「暴力的または脅迫的な行為の結果として、または抵抗もしくは拒否することができない状態で妊娠した」場合には、人工妊娠中絶が法的に認められるべきである。また、「妊娠または出産を継続することにより、妊婦の身体的健康または経済的地位のために、その健康が著しく損なわれるおそれがある」場合にも、法的に認められるべきであるとしている。このような場合、刑法の堕胎罪は適用されない。また、日本政府は、母体保護法の解釈について、関連団体に説明を行っている。現時点では、強制性交の加害者に中絶の同意を求める意図はないと指摘している。さらに政府は、この法律は、妊婦が配偶者からの暴力の被害者である場合など、婚姻関係が実質的に破綻しているために配偶者の同意を得ることが困難な場合にのみ、妊婦の中絶への同意を求めるものであることを明らかにした。


92. 母体保護法では、都道府県医師会が指定する医師のみが人工妊娠中絶を行うことができると規定されている。医師会は、指定医になるための申請を審査し、2年ごとに資格を更新している。


93. 第5次基本計画では、以下のように定められている。
(a) 性犯罪・暴力やドメスティック・バイオレンスが関係する場合には、関係機関の協力が重要である。
(b) 政府は、助産師などの専門家によって提供される性と妊娠に関する相談・支援システムを強化すべきである。


94. 第5次基本計画では、女性健康支援センターは、予期せぬ妊娠の悩みに対応するため、 専門のカウンセラーを配置して相談体制を整備するとともに、市町村や医療機関への同行支援や、 学校や地域の関係機関との連携を図ることが定められている。


95. 政府は、母子保健事業の一環として、家庭訪問指導などの相談支援を行うとともに、 女性健康支援センターや児童相談所における相談支援を、妊娠・出産・育児・人工妊娠中絶に関す る悩みを持つ女性に拡大している。


96. 日本政府は、自殺総合対策基本法に基づき、「自殺総合対策」を策定している。社会全体の自殺のリスクを低減するために、日本政府は、自殺を考えている人のための電話相談やチャットによるホットラインなどの相談体制を拡充した。様々な困難に直面している若い女性を支援するため、日本政府は2018年度に「若い女性支援モデル事業」を設立した。このプロジェクトによると、日本政府は、官民の団体と緊密に連携して、若い女性に職員が声をかけて福祉を尋ねることができる夜間パトロールの実施、若い女性の宿泊場所の確保、相談や自立支援の充実などのアウトリーチ支援を行っている。付属資料10に関連データを示す。
CEDAW/C/JPN/9