毎日新聞 2021/12/22 18:42(最終更新 12/22 18:42)
速報です。
人工妊娠中絶ができる経口中絶薬について、英製薬会社ラインファーマが22日、厚生労働省に承認申請した。海外では薬による中絶が一般的で、流産の処置にも使われるが、日本では認可されておらず、高額な手術を受ける以外選択肢はない。承認されれば国内初の中絶薬となる。
承認申請されたのは、ミフェプリストンとミソプロストールの2剤。ミフェプリストンを1錠服用し、2日後にミソプロストール4錠を服用すると、妊娠を維持するホルモンの作用が阻止され、子宮内膜が剥離し、子宮収縮に伴って胎盤などの内容物が排出される。出血や痛みが伴うため鎮痛剤も必要。妊娠9週までの初期中絶が対象で、国内治験では服用後24時間以内の中絶成功率は93・3%だった。
日本では、母体保護法で中絶できる条件が決められており、都道府県医師会が指定する母体保護法指定医による外科手術での中絶しか認められていない。中絶には配偶者の同意が必要で、医療機関では未婚でも子の父の同意を求める運用が一般的だ。
薬の運用のあり方を巡っては、日本産婦人科医会が11月、手術の場合とほぼ同様の扱いとするよう厚労省に要望した。具体的には、母体保護法指定医だけが購入・処方・使用できるようにすべきだと主張。医療機関で保管し、患者に面前服用させ、服用前後の診察・検査や追加処置、入院などを含めて手術と大差ない料金設定が望ましいと訴えている。
一方、世界保健機関(WHO)によると、中絶薬は世界65カ国以上で認可され、平均価格は約740円。WHOは「中絶は女性や医師を差別や偏見から保護するため医療保険システムに組み込むべきだ」と提言しており、英国やフランスなど約30カ国で公的な医療保険の適用や補助の対象となっている。中絶だけでなく、胎児が死亡し子宮内に残る「稽留(けいりゅう)流産」の処置にも利用される。自宅で服用できる国も多く、国際産婦人科連合はオンラインによる遠隔診療での処方を推奨している。
日本の中絶手術は保険適用されず、10万~20万円の自己負担がある。手術は金属製の器具で子宮内の内容物をかき出す「そうは法」が一般的だが、WHOが「安全性に課題がある」と指摘。厚労省はチューブ状器具で内容物を吸引する方法を採るよう同医会に要請している。
中絶を巡る環境改善を求める市民団体「セーフ・アボーション・ジャパン・プロジェクト」は9月28日から中絶薬の認可や負担の少ない運用を求めるインターネット署名(https://chng.it/dkFcrdCK)を始め、22日現在4万3000人以上が賛同している。14日には厚労省に要望書を提出し、高額な中絶費用がかかったり、子の父の同意を求められたりする状況を改善するよう求めた。他にも、稽留流産でも中絶薬を利用できるようにすること▽中絶手術をそうは法から吸引法に切り替えること――などを訴えている。代表を務める産婦人科医の遠見才希子氏は「日本での中絶は費用負担も心身への影響も大きく、女性にとって懲罰的だ。安心、安全な手段を選択できる環境を整えるべきだ」と訴えている。【中川聡子】