讀賣新聞 2022/02/20 09:49
人工妊娠中絶に配偶者の同意を必要とする母体保護法の要件を撤廃すべきと考える産婦人科医の割合が7割近くに上ることが、読売新聞が岡山県医師会の協力で実施した調査でわかった。厚生労働省は女性が未婚の場合や家庭内暴力(DV)の被害者の場合には「同意は不要」との見解を示しているが、同意なしの手術経験のある医師は一部にとどまり、明確な位置づけを求める実態が浮かぶ。
「立場弱い」
母体保護法では、人工妊娠中絶には原則、配偶者の同意が必要と定めており、要件を満たさない中絶で医師が業務上堕胎罪に問われることもある。
一方、厚労省は2013年に「未婚の場合は不要」、昨年3月に「夫からDVを受けるなど婚姻関係が実質破綻し、同意を得ることが困難な場合、本人の同意だけでよい」との見解を示している。
アンケート調査は昨年11月、岡山県医師会の母体保護法指定医師114人に対して実施し、67人(59%)から回答を得た。
調査では、44人(66%)が母体保護法の同意要件を撤廃する法改正が必要と回答。自由記述で「配偶者欄に署名がない手術を行いたくないのが本音。早急に法改正してほしい」「法的に医師の立場が弱い」といった声があった。
配偶者の同意を必要としている国は一部に限られ、先進7か国(G7)では日本だけだ。欧米では女性の自己決定権を尊重する観点から不要とされている。
難しい対応
同意なしの手術経験を尋ねた設問では、現場の慎重な対応がうかがえる。未婚の女性に男性側の同意なく手術をしたことがあるのは34人で、「男性が逃げた」「相手が誰かわからない」といった事情が挙がった。ないとした33人には未婚の女性から依頼されたこと自体がない場合もある。
女性が夫からのDVや強制性交の被害を訴えているケースで、同意なく手術したのは6人。他の61人は夫の同意なしに手術した経験がなかったが、そういうケースに出合ったことがない人も一定数含まれている。直面した医師からは「断って他院を紹介した」「同意を得るよう説得した」などと対応の難しさを訴える声が聞かれた。
岡山地裁では17年に夫の同意なく手術した病院側に対し、夫への賠償を命じる判決が出ており、慎重な対応の背景にはこうしたリスクを避けたいとの心理があるとみられる。
しかし、同意なしに手術した経験があるとした人のうち、実際にトラブルになったと回答したのは「男性側から何度もどう喝を受け、弁護士に対応を頼んだ」とした1人だけだった。
松原洋子・立命館大教授(生命倫理)は「女性の切実な状況を前に対応に苦慮する現場の実態が見える。民事訴訟や刑事罰のリスクをとりながら、現場の判断で同意要件に柔軟に対応するには限界があることがうかがえ、こうした実態を踏まえて現行法の是非を議論する必要がある」とする。