by ライブドアニュース編集部
ざっくり言うと
医師や助産師が立ち会わず、1人で出産することは「孤立出産」と呼ばれる
5月には、出産直後の女児をラブホテルに置き去りにした女が逮捕された
さまざまな事情から孤立出産し、子どもを放置する母親は後を絶たないという
ラブホテルに産み捨て 後を絶たない「孤立出産」のリスク
2022年6月6日 10時0分 産経新聞
愛情がない-。
そんな理由で産んだばかりの女児をラブホテルのトイレに置き去りにした女が5月、殺人未遂容疑で大阪府警に逮捕された。女児は数時間後に保護され命に別条はなかったが、医師も助産師も立ち会うことなく1人で出産することは「孤立出産」と呼ばれ、母子ともに健康上の大きなリスクを伴う。しかしさまざまな事情から妊娠を周囲に打ち明けられないまま出産を迎え、わが子を放置する母親は後を絶たない。民間を中心に支援の動きはあるが、妊娠を隠し、心を閉ざす母親たちに手を差し伸べることは容易ではない。
「愛情もなく、死んでもいいと思った」
光も音も閉ざされた暗く冷たい空間で、生まれたばかりの女児は一人で泣き続けていた。そこは母親の腕の中でも病室のベッドの上でもなく、蓋が閉まった洋式便器の中。女児はへその緒もついたままだった。
5月10日早朝、堺市のラブホテル。その一室に大きなおなかを抱えた女の姿があった。女は室内のトイレに駆け込むと、一人で出産。産んだばかりの女児が入った便器の蓋を閉め、部屋を後にした。泣き声に気付いた従業員が女児を発見したのは約5時間半後のこと。通報を受けた府警堺署が女児を保護した。
府警の捜査で、現場の部屋は直前まで風俗店が使用していたことが判明し、アルバイトの女(29)の関与が浮上した。捜査関係者によると女は臨月で、いつ出産してもおかしくない状態だったという。
殺人未遂容疑で逮捕(のちに保護責任者遺棄罪で起訴)された女は、こう供述した。
「愛情がなくて育てるつもりもなかった。死んでもいいと思い、見つからないように蓋を閉めた」
だれにも言えない…、孤立する母親たち
さまざまな事情から医師や助産師の立ち合いなしに出産することは「孤立出産」と呼ばれる。母子ともに死亡するリスクがある非常に危険な行為だ。
「妊娠を家族や知人にも打ち明けられず、役所などの公的機関にもアクセスできない人たちがいる。そうした状況が最終的に孤立出産につながってしまう」。妊娠や出産に関する相談を受ける認定NPO法人フローレンス(東京)の藤田順子マネジャーは話す。
妊娠を受け入れられない、経済的に育てられない、親にも言えない-。同法人には、そんな相談が年間約1千件も寄せられる。
相談を受けると、母親に寄り添うことを最優先に着地点を探す。通院に付き添ったり、子育てに必要な支援を受けるために地域の保健センターなどにつないだりする。藤田さんは「公的機関への相談に苦手意識を持つ人も少なからずいる。自分だけで育てる以外にも道があり、安心して相談できる民間の窓口もあることを周知し続けたい」と話す。
注目される「内密出産」
産んだばかりの乳児を置き去りにする事件は全国で相次ぐ。背景はさまざまだが、妊娠を周囲に打ち明けられず、通院さえ満足にできないまま出産にいたるという構図は多くの事件で共通している。
「妊娠したことを『責められる』と考えてしまうことで周囲に相談できず、社会から孤立したまま出産に至ってしまう」。関西大の山縣文治教授(子ども家庭福祉)は、こうした事件の背景を推察する。
山縣氏は「乳児を放置する行為は許されない」と強調した上で、「妊娠は本来、男女双方の問題だが、『女性の自己責任だ』という誤った見方が根強いのも一因だ」と話す。
堺市の事件では、女は中絶手術について「費用がかかるから受けなかった」と説明。出産の日まで勤務先の風俗店で仕事を続け、支援団体などに相談した形跡はなかったという。
山縣氏は「必要なのは誰にも知られずに相談できる?駆け込み寺?だ」と指摘。さまざまな事情で親が育てられない子供を匿名でも受け入れる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を開設している慈恵病院(熊本市)が導入した「内密出産」に注目する。
内密出産は妊婦が身元を明かさないまま文字通り内密に出産できる制度で、すでに複数の女性がこの制度で出産している。ただ、現行では内密出産で生まれた子の扱いについて明確に規定した法令はなく、法整備が急務となっている。
山縣氏は「よりどころとなる法律がないままでは賛成できないが、事件を未然に防ぐことは期待できる。早期に制度化するべきだ」と訴えた。(小川恵理子)