リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

産婦人科医の91%が緊急避妊薬の薬局販売に反対? 日本産婦人科医会のアンケートに「作為的」と批判

BuzzFeed News·公開 2021年10月4日

木下勝之元医会会長といえば、緊急避妊薬の薬局販売に関連してこんな発言もしていた……「今日の性教育が、中学生ではいわゆる性交や避妊という言葉すら使ってはいけない現状を考えると、私たちはただどんな時でも薬局で買えるということ自体がそもそもおかしい話なのではないか」


販売に反対? 日本産婦人科医会のアンケートに「作為的」と批判
緊急避妊薬の薬局販売に向けた議論が続くなか、日本産婦人科医会がアンケート調査の結果が作為的だとして、批判を浴びている。

by Saori Ibuki
伊吹早織 BuzzFeed News Reporter, Japan

 避妊の失敗や性暴力被害を受けた際に、望まない妊娠を防ぐために使われる「緊急避妊薬(アフターピル)」。

 薬局販売に向けた議論が続くなか、日本産婦人科医会が厚生労働省の検討会資料として提出したアンケート調査の結果が、薬局販売に反対している産婦人科医が実際よりも多く見えるよう集計されているとして、批判を浴びている。

 同会はこれまで、緊急避妊薬の市販薬化に慎重な姿勢を示しており、自身の主張を補強するために作為的な集計をしたのでは、と指摘されている。

 10月4日午後には検討会が開催され、問題の資料も審議される予定だ。


緊急避妊薬の薬局販売について「緊急アンケート」

BuzzFeed

 10月1日までに厚労省のホームページに掲載された日本産婦人科医会の資料によると、アンケート調査は、同会会員の産婦人科医を対象に、8月25日~9月12日にかけて実施された。

 資料では「緊急避妊薬の処方および予期せぬ妊娠に関する診療を担っている産婦人科医に、緊急避妊薬処方の実態および緊急避妊薬のスイッチOTC化(市販薬化)に関する意識に関して調査を行い、課題を抽出する」ことが調査の目的に掲げられている。

 実際の質問用紙には26の設問があり、緊急避妊薬を処方したことがあるか、処方する際にどのような対応をしているか、緊急避妊薬の市販薬化に対する意見や想定される課題などを聞いている。


「賛成」を選んだのに「現状のままでは反対」?
 作為的だと批判されたのは、薬局販売に対する賛否を聞いた2つの質問の集計方法だ。

日本産婦人科医会が実施した「緊急避妊薬の OTC 化に関する緊急アンケート調査」の質問用紙

関係者提供


 まず、1つ目の質問では「緊急避妊薬を薬局で処方箋なしで販売すること(OTC化)が検討されています。これについて、ご意見をお聞かせ下さい」として、「賛成(条件付き賛成を含む)」と「反対」の2択を選ぶようになっている。

 その上で、続く質問で「賛成」を選択した人に対して、「設けた方が良いと思う要件または必要と思われる取り組みについて、ご意見をお聞かせください」として、「無条件で賛成」という選択肢の他に、性教育や性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの充実など、11の項目から複数回答できるようになっている。

 ところが、日本産婦人科医会が調査結果として提出した資料では、2つ目の質問で「無条件で賛成」と答えた人のみが賛成派と示され、1つ目の問いで「賛成」を選んだ上で、2つ目の問いで要件や必要と思われる取り組みを回答した54%は「現状のままでは反対」の反対派として集計されていたとみられる。

日本産婦人科医会「産婦人科における緊急避妊薬処方の現状 ~緊急避妊薬のOTC化に関する緊急アンケート調査より〜」より

厚生労働省/via mhlw


その結果、1つ目の質問で「反対」を選んだ37%と合わせて、回答した産婦人科医の計91%が「課題が解決されていない現状のままでのスイッチOTC化には反対であった」と結論づけられている。

日本産婦人科医会「産婦人科における緊急避妊薬処方の現状 ~緊急避妊薬のOTC化に関する緊急アンケート調査より〜」より

厚生労働省 / Via mhlw.go.jp

 しかし、実際には、回答者の62%が市販薬化に「賛成」を選んでいたのではないかと指摘されている。

 質問用紙と調査結果を照らし合わせた医師らによって、SNS上で問題提起されたものの、日本産婦人科医会の資料では、元の設問や選択肢については記載がなかった。

 また、市販薬化への賛否を問う1つ目の質問で「賛成」を選んだ人にその理由を聞いた設問や、「日本産婦人科医会は、義務教育で適切な性教育が行われていない状況下での緊急避妊薬のOTC化は反対である姿勢を取っていますが、この意見に対してのお考えはいかがですか?」と聞いた設問に対する回答結果は、公表されていない。


産婦人科医「組織の利益ではなく…」
 アンケートに回答した横浜市内の病院に勤務する産婦人科医(40代)は、「アンケートの質問の仕方自体が誘導的」だと指摘する。

 さらに、「明らかに設問に対する回答と違う形で集計の項目を作成していることには、団体の思惑に合った回答を作り出そうとしている作為性を感じます」と、BuzzFeed Newsの取材に語った。

 日本産婦人科医会に対しては、「わたしたち産婦人科医は、女性の健康と権利を第一義に考えて行動する使命があります」と語り、こう訴えた。

 「その産婦人科医を代表する組織として、組織の利益ではなく、女性たちに必要な医療を提供するために何が必要かという視点で活動してほしいです」

 また、自身はアンケートで「無条件で賛成」を選択したと言い、「要件や条件として挙げられていたことはどれも大切なことですが、それはOTC化と同時に進められるべきものであり、それらがないとOTC化すべきでないという種類のものではないと思います」と指摘した。


これまでも薬局販売へ慎重姿勢
 緊急避妊薬は、妊娠の可能性がある行為から72時間以内に服用することで、高い確率で妊娠を防ぐことができる薬で、性行為後、早く飲むほど妊娠を防ぐ確率は高くなる。

 WHOの必須医薬品に指定されており、世界約90カ国では処方箋なしで薬局で購入することができる。

 しかし、日本では医師の処方箋が必要な上、費用も約6000円~2万円と高価なため、必要としている人がいつでも確実に入手できるよう、薬局で薬剤師を通じて購入できるよう整備する必要があるとの声が高まっている。

 一方、日本産婦人科医会は薬局販売に慎重な姿勢を示し続けている。

 木下勝之会長は昨年10月の会見で、「今日の性教育が、中学生ではいわゆる性交や避妊という言葉すら使ってはいけない現状を考えると、私たちはただどんな時でも薬局で買えるということ自体がそもそもおかしい話なのではないか」と発言した。

 なお、中学校の学習指導要領には、「妊娠の経過は取り扱わないものとする」とする、いわゆる「はどめ規定」があるものの、言葉の使用を禁止するものではない。


日本産婦人科医会「資料は暫定版」
 BuzzFeed Newsは10月4日午前、日本産婦人科医に対してメールで取材を申し込んだところ、以下のように回答があった。

 「本日の厚生労働省『医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議』にて、説明をさせて頂きますので、ご質問がございましたら、終了後にお願い致します。また、資料は暫定版として提出しております」

 緊急避妊薬の薬局販売を求めて活動している「#緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」は10月4日、同会と厚労省に対して、公開質問状を提出し、アンケートの内容について問いただしている。