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北海道放送
貴田岡結衣
2022年10月8日(土) 07:00
今年6月7日、北海道の玄関口・新千歳空港近くの千歳駅のコインロッカーで、へその緒がついたままの赤ちゃんが、クーラーボックスに入れられ、死亡した状態で見つかりました。
私はこの春に記者になったばかり。事件があった日は、警察担当として札幌市内の警察署を取材していました。午前9時半すぎ、キャップから「今すぐ千歳駅にいってくれ」と電話があり、JRに飛び乗りました。
事件現場のJR千歳駅
JR千歳駅に着くと、出入り口付近は規制線が敷かれ、肝心のコインロッカーはビニールシートで覆われていました。正午すぎに規制線が外されましたが、傷も汚れもついていないコインロッカーは、そこに赤ちゃんの遺体が遺棄されたとは想像できないほど、どこにでもある光景に見えました。
事件から2日後、逮捕された母親は、私と同い年でした。
住所不定・無職の22歳。保護責任者遺棄致死の容疑で逮捕され、後に殺人と死体遺棄の罪で起訴されました。
捜査関係者の話では、被告は、数か月前に北海道に来て、札幌市内のホテルやネットカフェを転々とする生活を送っていました。5月中旬、札幌市内のホテルで出産。赤ちゃんをホテルの客室の浴槽に沈めて殺害したということです。
取材をしながら、私の中に疑問が次々と浮かんできました。
大きくなっていくおなかに誰も気づかなかったのか。
周りに支えてくれる人はいなかったのか。
赤ちゃんを殺して遺棄する以外に選択肢はなかったのか。
赤ちゃんの父親も同じ責任を負わなければならないはずなのに、なぜ女性ばかりが責められるのか。
被告の犯した罪は許されないが、彼女を罰するだけではこうした事件は繰り返されるのではないか。取材を重ねる中で、「思いがけない妊娠」をサポートする施設が札幌にあることを知りました。施設の取材を通じて、私は1人の女性と出会いました。
■「思いがけない妊娠」に悩む女性の居場所「リリア」
リリアの看板
私が訪ねたのは、札幌市東区にある「リリア」。この春に出来た、居場所のない産前産後の女性を受け入れる居住スペースです。費用はかかりません。定員は、妊婦さん2人。数週間から数か月ほど、安心して暮らせる次の場所が見つかるまで入居できます。
リリア内の乳児ベッド
開設してまもない室内は、白を基調とした部屋に、ピンクのかわいらしいアクセントタイルが並び、明るい雰囲気です。共用スペースはキッチン・洗面所・トイレ。パーソナルスペースはこぢんまりとしていますが、机とベッドがあり、短い滞在には十分です。もちろん赤ちゃん用のベッドも備えています。
■「にんしんSOSさっぽろ」
「リリア」をつくったのは、札幌の社会福祉法人「麦の子会」です。「麦の子会」は、無料通信アプリLINEやメール、電話で妊娠の様々な悩みごとに24時間応じる「にんしんSOSさっぽろ」を去年6月にスタートさせました。
「にんしんSOSさっぽろ」ホームページ
「生理が遅れている」
「中に出されたかもしれない」
「妊娠したけど、ひとりで育てられるかが不安」大切だけど、デリケートな内容のため、親など身近な人に打ち明けにくい妊娠についての悩み。ひとりで抱え込んでしまう女性も少なくありません。
「にんしんSOSさっぽろ」の開設から1年あまり。8月末までに寄せられた相談件数は、のべ950件にのぼります。中高生や男性、道外からも相談が寄せられることもありました。
LINEで友だち追加して気軽に相談できる
■ 助かるか、助からないかは「紙一重」 ひとりで悩まないで
「リリア」に併設している事務所には、女性の相談員が待機しています。千歳駅の事件についてどんな思いを抱いたのか、「にんしんSOSさっぽろ」の支援体制にどのような気持ちで臨んでいるのか、2人の相談員に話を聞きました。
左側の手前が梅原さん、奥が田中さん
私「千歳駅での赤ちゃん遺棄事件。妊婦さんを支援する側としてどういう心境ですか?」
梅原 公子(うめはら・きみこ)さん「すごく悩んでどうしようもなくなって、産まれてしまったんだろうなって。同じ状況になったら私もそうしたかもしれないと思うとひとごとではない。そこでどういう出会いがあるかは本当に紙一重だと思う」
相談員・梅原公子さん
私「にんしんSOSさっぽろに相談しようか迷っている妊婦さんに何を伝えたいですか?」
田中 佳子(たなか・よしこ)さん「自分が予期しない妊娠をしたときに、ひとりで悩むのでなく、相談してほしいなと思う。ひとりで孤独に悩むと苦しくなっていくと思いますので、誰かに話すことで道が開けていくことがあります。SOSの窓口でも、気軽に電話でもLINEでも受けておりますので、24時間なので、ぜひ連絡してくれたらと思います」
相談員・田中佳子さん
■もし、今妊娠したら?
もし、今自分が思いがけず赤ちゃんを身ごもってしまったら、誰に相談できるのか。どういう選択肢があるのか。心の底から喜べるのか。当事者にならなければ、考えもしないことや知らない情報がたくさんあります。
妊娠や性教育は、学校で仕組みを説明されるだけで、親子の間でも、仲のいい友だちの間でも、なかなか話題にならず、知らないことがたくさんあります。
私がこの取材で出会った、かずこさん(仮名)もそんな一人でした。
■検査薬ではっきりと出た2本線…名前も知らない人の子を身ごもって
かずこさんに私がはじめて会ったのは、6月末。2回目に「リリア」を訪れたときです。かずこさんは、笑顔がかわいらしい、おしゃべりが好きな、私と同世代の女性です。
かずこさん(仮名)
このとき妊娠6か月。おなかは、赤ちゃんがいるとはっきりとわかるくらいに大きくなっていました。かずこさんが、「リリア」に来たのは、2か月前のことです。
会話していても、私はすぐにわかりませんでしたが、かずこさんには、軽度の知的障害があります。小学校のときは、通常の学級に通っていましたが、次第に授業についていけなくなり、高校は養護学校に進学。卒業後は、就労支援A型(障害のある人に対して、働く場所を提供し、能力を向上させることを目的とする福祉サービスの一つ)で型枠をつくったり、清掃したりしながら働いていました。しかし、賃金は少なく、友達が着ていたような服欲しさに、もう少し稼ぎたいと思っていたといいます。そこで選んだ仕事が、性風俗でした。
私「風俗で働くことに抵抗はありましたか?」
かずこさん「最初はありました。だけど、お金を稼げる方法というのが、風俗しか知らなかったんです」
風俗で働く―かずこさんは、そう決めてからTwitterで自分なりに調べてみると、お店で働くのか、出張にいくのか、コンセプトがあるのかないのか・・・風俗にも色々な種類があることを知ります。かずこさんは、女の子が仮面で顔を隠したコスチューム姿でサービスする店で働き始めました。前よりお金が稼げるようになって、服やかばんなど自分のお金で買うようになりました。
そんなかずこさんの生活をさらに変えたのが、ホストとの出会いでした。友だちの誘いでホストクラブに通うようになりました。自分の担当ホストに会えたときの喜びは、ひとしおだったと話します。
ただ、ホストに会いにクラブへ通うには、あたりまえだけどお金がかかります。10万円以上するシャンパン、100万円くらいのシャンパンタワー、好きな人の好みに合わせたブランド服…お金はいくらあっても足りません。
アプリのスクリーンショット
かずこさんは、記念日を記録するアプリのスクリーンショットや、当時の写真を私に見せてくれました。幸せそうな表情を浮かべるかずこさん。しかし、その後に経験したことを、かずこさんは複雑で暗い表情をにじませながら話してくれました。
かずこさんは、働いていた風俗店からの指示で、「出稼ぎ」の仕事をするようになりました。出稼ぎ先は、札幌市から車で6時間近くかかる釧路市や、時には泊まりこみで道外まで。また、ソープランドとデリバリーヘルスのかけもちもしました。生理が予定より早く来ると店長から怒られたり、好みの女の子が来なかったからといって客に落胆されたり、出稼ぎ先のホテルが異常に汚かったり。
そんな彼女を支えたのは、「ホストに会える」「ホストの喜ぶ顔が見たい」という思い。かずこさんは、心のさみしさをホストで満たしていたのではないか…私の目にはそううつりました。
札幌・ススキノ
ホストに通いはじめて、1年も経たないころ、かずこさんの身体に異変が起きます。
生理が予定日に来ない。
吸っていたたばこを身体が急に受け付けなくなる。「まさか」と思い、妊娠検査薬を購入し調べました。
案の定、2本線がでて、妊娠が判明しました。「どうしよう、どうしよう」
父親として思い当たるのは、名前も連絡先も知らない、デリバリーヘルスのお客さん。ある日、「嫌だ」と抵抗はしたけれど、そのまま中に出されてしまったことがあったのです。意味がないとは分かっていたものの、妊娠しないことを願いながら、シャワーで洗い流していました。
はじめに妊娠を打ち明けたのは、自分が気持ちを寄せていたホストでした。優しい言葉をかけてくれたり、助けてくれたりすることを期待して電話をかけました。しかし・・・
かずこさん「妊娠しちゃったかもしれないんだよね」
担当ホスト「想像妊娠っていうのもあるんだよ?それじゃないの?」
かずこさんはホストが「想像妊娠」をどういう意図で口にしたのかわかりませんでした。ただ、自分のことを本気で心配していないことだけはわかりました。
つらい思いに耐え、いままで計100万円以上をつぎ込んできたのも、全部彼への愛だと思っていたのに。ホストに「お金がない」との相談もしましたが、消費者金融を勧められる始末。かずこさんは苦笑いしながら話します。
かずこさん「最初本当に死にたくなっちゃいました。まず、ホストに言われた『想像妊娠』がグサッと心に刺さって、なら死んだ方がいいのかなって。でも、どういう風に死んだらいいんだろうと思って」
ひとりで病院に行き、医師から告げられたのは、「妊娠5週目」。働いていたお店は「妊娠は自己責任」と突き放すだけでした。次々と突きつけられる現実に、かずこさんは途方に暮れました。
かずこさんは、おなかに赤ちゃんを抱えて、ひとりになってしまいました。
■「中絶するしかない…」孤立した妊婦を変えた、ある出会い
かずこさん「どうしたらいいんだろうなって、おろしたいなと思ったけど、担当ホストに貢いでしまって、手持ちのお金がなかった。家族や周りからなんて言われるかわからなくて、怖くて言えなかった」かずこさんは、妊娠したことを家族に知られたら絶対に怒られてしまうと思い、本当のことを打ち明けられませんでした。風俗店で働いていたことも内緒にしていたのです。父親との関係も悪化し、家を出ました。
しかし、中絶したくても、お金がなく、どうしていいかわかりません。そんなとき、風俗店で一緒に働いていた女性に教えてもらったのが、「にんしんSOSさっぽろ」でした。
かずこさんと「にんしんSOSさっぽろ」とのLINE
4月の朝、おそるおそるLINEにメッセージを送ると、まもなく返事がきました。今の状況を、ひとつひとつ答えていきます。そして「リリア」に来ることを勧められました。ただし、当初望んでいた中絶にはお金と妊娠期間の問題がありました。
日本では、母体保護法により、人工妊娠中絶ができるのは、妊娠22週未満まで。妊娠初期(12週未満)と妊娠中記(12~22週未満)でも大きく変わり、妊娠中期の12週以降の中絶は、胎児も大きくなってきているため、死産届が必要になります。また母体への負担も大きくなり、自由診療のため費用は10~15万円もかかると言われています。
かずこさんが、「リリア」に来たのは、妊娠6か月(妊娠20週)ごろ。中絶できなくなる時期は近づいていました。そして、お金もありませんでした。そんなかずこさんに、相談員から「特別養子縁組」や「里親制度」があることを伝えられたのです。
かずこさん「中絶しないで済むならそっちのほうがいい。赤ちゃんも生きているわけだし…」
知的障害があること、おなかの赤ちゃんの父親には頼れないことなど色々考えて、「自分で産んで、他人に育ててもらう」特別養子縁組を選びました。
中絶が唯一の道だと思っていたかずこさんは、「リリア」に来てはじめて、選択肢を持ちました。もし、「リリア」と出会えず、お金も頼る場所もなく、赤ちゃんと残されていたら、どうしていたのか…
かずこさん「リリアがなかったらどうなっていたか・・・自分でもわからないです」
相談員の梅原さんは、当時の状況をこう振り返ります。
梅原さん「(LINE相談だけで話していたときは)つわりが重いって言って、なかなか連絡が来ないこともありました。そのとき、どうしたんだろう、大丈夫かなと心配に思っていたんですよ。こうしてつながって、『リリア』に来てくれて本当によかった」
実際、「にんしんSOSさっぽろ」の相談窓口では、かずこさんのケースのように、全ての相談が直接的な支援につながるわけではありません。LINEでは、顔と顔を突き合わせての相談ができないため、途中で連絡が途切れてしまったり、肝心なことを答えてくれず支援の施しようがなくなったりするケースも少なくありません。
「リリア」では、居場所を提供するだけでなく、かずこさんが自立できるように、相談員が料理や洗濯・掃除の仕方も教えてくれます。
料理をするかずこさんと見守る相談員の梅原さん
「思いがけない」妊娠だったものの、「リリア」での支援によって、かずこさんは自分の人生を見つめ直すことができました。もし、リリアがなければ、かずこさんも千歳駅での赤ちゃん遺棄事件の被告と同じ選択をした可能性もあったのだろうか…私はそんな考えが頭をよぎり、事件について聞きました。
かずこさん「今はなんでそんなことをするんだろうって思う。ただ、その人も、産んだらどうしようってなったのかもしれない。だから相談すればよかったのにと思う。色々な場所にこうした支援の場所ができてくれたら嬉しい」
■芽生える「母親」としての自覚、近づく我が子との別れ
かずこさん
7月下旬、かずこさんの黒い小さなリュックには、「安産祈願」のピンクのお守りと「おなかに赤ちゃんがいます」のマタニティマークがつけられていました。「お守りは、お母さんからもらったもの」と笑顔で話してくれました。
かずこさんは、「リリア」に来てから、家族との関係も立て直すことができました。
それまでは、家族に風俗で働いていることを話していませんでした。「リリア」に来て、出産の覚悟もできたころ、相談員と一緒に家族と話す機会が設けられました。お母さんは、かずこさんの決断をすぐに応援してくれましたが、お父さんは受け入れるのに時間がかかったといいます。それでも、今は両親とも応援してくれていると話します。
月日が経つとともに、大きくなるおなか。
「『コウノドリ』っていうドラマで色々重ね合わせちゃって、すごく泣いちゃったんです」
「早く赤ちゃんに会いたい」そう話すかずこさんの姿は、私の目には他のお母さんと何ら変わらないように映りました。
しかし、かずこさんは赤ちゃんの成長を見ることはありません。特別養子縁組は、子供との親子関係を完全に断ち切ってしまうため、二度と会えないのです。情がわかないように、産まれてすぐに母子は引き離されてしまいます。
かずこさんの母子健康手帳
8か月目の検診の日、病院で「産まれた赤ちゃんと別の部屋にする?同じ部屋にする?」と聞かれたといいます。同じ部屋だと離れられなくなってしまう人もいるということです。
かずこさんは同じ部屋で、最後まで赤ちゃんと一緒に過ごすことを選びました。
かずこさん「みんなが言う通りですね。だんだんおなかが大きくなってくるうちに、愛情が出てきたんです。『ああっ』ってなるのはきっと事実だけど、どうせそうなるのだったらせめて、最後は赤ちゃんといたいから、『同室で』と伝えました。」
別れが前提となった、我が子との出会い。
もちろんその悲しさも寂しさもありますが、自分が赤ちゃんを産んだことの証明として、けじめとして、別れるまでに最大限の愛を注いであげたい。
かずこさんのそんな優しさが、話しているときのほほえみから感じられました。
■「産むという決断に、後悔は?」悩みながら聞いた答えの先に
赤ちゃんのエコー写真を見せるかずこさん
取材を約束していた前日に、かずこさんはおなかの赤ちゃんが逆子の可能性があることがわかり、緊急入院しました。そのとき、私はお産はリスクがつきものだということを改めて実感しました。すべては、命を背負っていることの重みです。いくら自分で身ごもった命が愛おしいとはいっても、逃げ出したくなるような怖さやつらさもあるでしょう。悩んで出した結論でも、世間からは、産むだけ産んで無責任とか、そもそも性風俗で働くのが悪いとか、責められることもあります。おろせばいいと簡単に言ってしまう人もいます。
取材を通じて、私にはある疑問がわいてきました。
障害のあるかずこさんの身に降りかかった過酷な状況と、祝福されないまま迎えた妊娠。
最後まで「望まない妊娠」で終わってしまうんじゃないか?
だとしたら産まれてくる赤ちゃんは「望まれていない」存在なのか?
かずこさんが「もしあのとき妊娠していなかったら」と後悔しているとしたら?
産んで、育てるというのが当たり前だと思われている世の中で、支援を受けた結末が「後悔」だとしたら、この支援は本当に必要なのだろうか?聞くべきか迷っていた質問を、最後におそるおそる聞きました。
「産むという決断をしたことを、後悔していますか?」
かずこさんは、間髪入れずに答えました。
「後悔はしていない。これからは風俗の世界から抜けだして、前みたいに就労支援施設で働いていきたい」
きれいごとでもなく、嘘でもない口調に、ほっとしました。
■「女性は妊娠から逃げられない」孤立妊婦が教えてくれた支援の意味
赤ちゃんを身ごもることは、幸せなできごとのはず。そして、赤ちゃんは自分が何よりも大切に守らなければいけない命です。パートナーと2人で新たな命を授かったはずなのに、命の重さと社会的な責任を背負うのが女性ばかりになってしまうのは、女性は物理的に逃げることができないからです。家庭や生育の環境、パートナーとの関係性などによって、孤立する妊婦がいるのも現実です。また、産んで終わりではありません。そこから先、子育てする自分の未来が見えず、不安に押しつぶされそうになり、「妊娠していなければ」「この子さえいなければ」と思ってしまう人もいるでしょう。
自分自身が生きていくだけでも精一杯なこの世の中。もう一人の命を抱えて生きていく妊婦さんを放置するのでなく、出産に関する情報や支援、居場所を提供すれば、様々な選択肢のなかから自分の意思で選んでいけるはずです。
赤ちゃんの遺棄事件が起きるたびに、女性を罰するだけで終わりにするのでなく、妊娠や出産をひとりで抱え込まなくていい社会にしていくことが、赤ちゃんの命も、妊婦さんの人生も救うための第一歩となります。「リリア」がそれを証明しています。
リリア室内
お盆が過ぎ、札幌の街を通り抜ける風に秋の気配を感じはじめたころ、かずこさんは無事に女の子の赤ちゃんを産みました。切迫早産が心配され、緊急入院し帝王切開になりましたが、母子ともに健康だということです。
産まれた赤ちゃんは、もうかずこさんの元にはいません。かずこさんが、赤ちゃんと過ごしたのは退院するまでの2、3日間だけでした。
かずこさんは、もう少しで、「リリア」を離れます。今は、働く場所を見学したり、次に自分が住む場所を探したりして、自立に向けた準備をしています。相談員の田中さんは「かずこさんは、元気で前を向いていますよ」と明るく話します。
「リリア」の取材を通して、支援とは、悩む人たちを「こうするしかない」と思い込んでしまう状況から救うことだと思いました。
相談員とかずこさん
ただ、「リリア」のような場所は全国的に見ても少ないのが現実です。悩む人たちの多くは、「リリア」のような場所に頼るという選択肢すら持ちえません。困っている妊婦さんたちを本当に救うためには、妊婦さんの心と身体に寄り添う支援の窓口をもっと増やすこと。私たちが支援のことを知り、妊娠さんを社会全体で支えていくことが欠かせないと考えます。
私は、記者として、ひとりでも多くの人にこの現状を知ってもらえることを願いながら、関心をもって伝え続けていきたいと強く思いました。
この記事に関心をもってくれた人は、ぜひ次も見てください。なお、私には何の利害関係もありません。必ずしも全面的に養子縁組を支持しているわけでもありません。ただ、この方法で多少なりとも救われる人もいるだろうとは思うので、情報共有します。