リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

2017年の情報:相次ぐ孤立出産の危険

NHK生活情報ブログ 2018年01月11日 (木)

 最初の掲載は6年前ですが、今日出た記事でもおかしくないほど、何も状況が変わっていません。対策がなされていない証拠です。ただ「問題だ」と騒ぐだけではなく、また「赤ちゃん」の観点からだけではなく、なぜ「望まない妊娠を完遂してしまう少女たちがいるのか」にもっと目を向けて、「望まない妊娠」そのものと「望まない妊娠の継続」を防ぐことを考えないのでしょう。

 「少子化だから赤ちゃんのいのちだけは助けたい」という発想ではなく、妊娠で困っている少女と同じ目線で考えてほしい。「誰にも言えない」「誰にも頼れない」「どうにもできない」まま、妊娠を続けている少女たちの絶望感や無力感、孤立出産をしてしまった時の絶大なる恐怖、隠さなければならないと追い詰められていった末での遺棄や故殺、そして誰にも何も言うこともなく妊娠を隠したまま自死に追いやられていってしまった少女たちもきっといます。まだ胎児が存在していない時期の妊娠初期の中絶は、妊娠を完遂して出産し、養子に出したケースよりも、後のメンタルヘルスが良好だという大規模調査の結果も出ています。彼女たちを守るのは国の義務なのです。
 国連では「子どもの権利条約」の中に真っ先に「少女の中絶の権利」を入れました。10年前のことです。その後、社会権規約自由権規約の中にも、「女性と女児の中絶の権利」が盛り込まれました。中絶をタブー視して議論を避け続けているから、いつまでたっても孤立出産の防止ができないのではないでしょうか。
 海外では少女たちを守るために、未成年には中絶薬を無料で配っている国もあります。

相次ぐ孤立出産の危険 | 子ども・子育て | NHK生活情報ブログ:NHK

相次ぐ孤立出産の危険
※2017年12月20日にNHK News Up に掲載されました。

 妊娠した女性が助産師などによる医療的ケアを受けずに自宅などで1人で出産する、いわゆる「孤立出産」をするケースが相次いで報告されています。こうした出産は、母体へのリスクが高い上、出産後に子どもが死亡することもありますが、身近な人にも相談できずに「孤立出産」を選ばざるをえない事情があるというのです。いったい、なぜなのでしょうか。

ネットワーク報道部記者 後藤岳彦・田辺幹夫・大窪奈緒


<知られたくない出産の相談>
「妊娠をしたが親に知られることなく自宅で出産する方法を教えてほしい」

 親元を離れて暮らす10代の女性から、妊娠相談にあたる団体に寄せられた相談です。妊娠相談や特別養子縁組のあっせんにあたる東京の一般社団法人「ベアホープ」には、電話やメールで年間およそ200件の妊娠に関する相談が寄せられています。経済的な理由から出産するかどうか迷っているという声や、「予期せぬ妊娠」になったため周囲に知られずに出産するためにどうすればいいかという悩みなど、相談の内容はさまざまです。

 その中でも、とくに10代の人からは「親に知られずに出産をできないか」といった相談が多いということです。10代で妊娠した人は、学校を退学せざるをえないなど、精神的にも孤立した状態になりやすく、周りのサポートを得られない状態を放置すると、医療的なケアを受けない危険な「孤立出産」につながりかねないということです。

 代表理事のロング朋子さんは「未成年で妊娠した場合、病院で受診する際にも、親に連絡が行く可能性があるため誰にも相談できず、孤立してしまうケースが多い。安心して出産ができるよう相談相手の意志を尊重して一緒に何ができるのかを考えながら『孤立出産』が起きないよう努めている」と話しています。


<相次ぐ孤立出産その理由は>

 しかし、「孤立出産」に至るケースは、相次いで報告されています。全国で唯一、親が育てられない子どもを匿名で受け入れるいわゆる「赤ちゃんポスト」を運営する熊本市の民間病院の「慈恵病院」は、この10年間で、合わせて130人を預かってきましたが、およそ半分の62人が医療的なケアを受けずに自宅や車の中で生まれたということです。

 病院側が母親に聞き取ったところ、未婚の女性が妊娠後にパートナーと連絡がとれなくなり、世間体も考えて親に迷惑をかけられないという思いから自宅で出産したというケースや、未成年の女性が堕胎を考えたものの、費用が捻出できずに自宅で出産したというケースがあったということです。また、体重が1500グラム未満と極端に少ない赤ちゃんが生まれるケースなど新生児にとって非常に危険な状態が見られることもあったということです。

 児童福祉が専門で10代で妊娠・出産をした母親の調査をしている東洋大学の森田明美教授は「若いうちに妊娠・出産すると周りから非難されるのではと思い、周囲にも相談できずに1人で抱え込んでしまう傾向があるうえ、パートナーもいなくなってしまうとさらに孤立してしまう。
 孤立出産を減らすためにはまずはそのリスクを知ってもらうことが大切だ」と話しています。


<孤立出産の危険>
 全国の産婦人科の医師などが加盟し、妊娠の相談など行う団体の代表を務める鮫島浩二医師によりますと、自宅などで1人で子どもを産む「孤立出産」は、母子ともに危険性が非常に大きいと言います。赤ちゃんが逆子だったり、大量出血が起きたりした際、1人では対応するのが難しいからです。

 また、10代の女性が自宅で1人で出産したケースの中には、すでに赤ちゃんが亡くなっていたケースもあるということです。無事に生まれたとしても赤ちゃんが低体温症になるケースや、口の中にたまった羊水を取り除かなければ、障害が残るケースもあったりして十分な知識のない若い女性が1人で出産するのは非常に危険だと指摘します。

 鮫島医師は「孤立出産は赤ちゃんにとって虐待に近いほど危険なもので、絶対にやめてほしい。どれだけ危険な行為なのかを広く知ってもらうように努めたい」と話しています。


<孤立出産の回避のために>
 母親も赤ちゃんも危険にさらす、こうした「孤立出産」を減らすための試みを検討しようという動きも出ています。

 「赤ちゃんポスト」を運営する熊本市の慈恵病院は、母親が匿名で出産できる「内密出産」の導入を検討しています。この制度は、匿名で出産せざるをえない母親が医師や看護師からケアを受けられる病院で出産し、生まれた赤ちゃんを病院が預かるというもので、ドイツで行われている制度を参考にしています。将来、子どもが大きくなった時に親が誰なのか知ることができる手段を確保しておくとともに、匿名性を保ちながら病院で出産してもらい母子の命を守ろうというのが目的です。

 慈恵病院の蓮田太二理事長は記者会見で「環境の整っていない、自宅などでの危険な出産が増えている。匿名での出産を望む声もあり、母親に寄り添った支援をしたい」と話しています。
一方で「内密出産」の導入には、課題を指摘する意見もあります。

 家族法に詳しい早稲田大学の棚村政行教授は「仮に導入した場合、医師の目の前に母親がいる状況での出産になり、病院側は、戸籍法の規定上、母親の名前で戸籍を届け出る必要が出て来るため、匿名を確保できなくなるおそれがある」と指摘しています。そのうえで「導入にあたっては、母親の匿名を確保できるよう法律を整える必要があるが、法整備のほかにも孤立出産を考えている母親をさまざまに支えていく枠組みが必要ではないか」と話していました。


<支える取り組みも>
 「予期せぬ妊娠」などによって若くして母親や父親になった人を支えるための取り組みも始まっています。

 東京・八王子市では去年4月から、18歳未満で母親や父親になった人を対象に、その子どもが保育所に入りやすくなる制度を導入しました。子どもを預けている間、母親や父親が高校などに通い続け、その結果、就職先を見つけて経済基盤を整えてもらうことを目的にしています。若い世代の出産には親との関係がうまくいかず、周囲に相談できないケースもあるということで、八王子市の担当者は「若い世代の孤立を防いで子育てを支援するとともに、専門の助産師などによる電話での相談や面談も行っているので、妊娠に少しでも不安があれば、相談してほしい」と話しています。

 周囲に知られたくないまま出産に直面する人たちを支える仕組みについては、児童相談所や、相談を受け付ける民間の団体などがありますが、その受け皿はまだ十分ではありません。子どもの命は母親だけのものでなく、社会全体で支えるべき、「いのち」だと考えると、その「いのち」をどのように救い、育てていくべきなのか、社会全体でさらに議論が進んでほしいと願わずにはいられません。

投稿者:後藤岳彦 | 投稿時間:17時48分