覚書
日本の中絶医療の現状では、残念ながらWHOの「安全な中絶」の水準をほとんどクリアしていません。妊娠初期は未だに吸引ではなく旧式の搔爬。
吸引使用の場合もリスクの高い「全身麻酔」をかけ、古色蒼然とした金属製カニューレ(管)を今も使い、世界標準の局所麻酔法は日本の医学部で教えられてもいない。
現在審査中の経口中絶薬のうち、二薬目のミソプロストールはすでに胃薬として承認されているのに、FIGOとWHOが推奨しているミソプロストール単独繰り返し服用法を医師の裁量で「適用外」として用いることは厳禁(そんなことをして厚労省に目をつけられたら保険医の資格を奪われるとある医師は証言)。
中期中絶薬プレグランディンは、70年代に妊娠初期の中絶にかなり有望だと臨床試験で判明していたのに、権力を握る医師たちが「中期専用の薬」だと決めつけたのは、初期は搔爬でいい(その方が儲かる)ためだったのだろうか? 謎である。しかも、痛い前処置を標準化したのは女性にとって悲劇でしかない。
なぜなら、プレグランディンには子宮収縮作用と共に、子宮頚管開大作用もあり、当時、中期中絶はまだほとんど行っていなかった海外では、妊娠初期の吸引の「前処置」に使う薬として注目された。この薬による「前処置」だけで流産できてしまう例もあったそうだ。
やがてミフェプリストンが登場し、プレグランディンはミフェ服用後の「子宮収縮剤」の候補に挙がった。だがそれも、ミソプロストールが登場し、比較試験が行われて、「効果は変わらないが、冷凍保管が必要で高価なプレグランディンより、常温保管できて安価なミソプロストール」に軍配が上がった。
結果的に、おそらくプレグランディンは現在、日本の中期中絶にしか使われていないのではないかと推測される。何しろ高いので……1個4000円、ミソプロストールは1個30円……。プレは高い薬だったので、当時は安かったラミナリアを「前処置」に使うことで、薬の使用量を減らそうとした形跡が見られる。
結果的に被害を被ってきたのは、中絶を受ける当事者たちで、不必要な痛みと苦しみを与えられている。
これについては一刻も早くラミナリアのルーチンでの使用をやめて、ミソプロストールの適用外使用を承認し、ミソで対応してほしい。流産後の処置も同様である。専門家の再考を促したい。
そして何よりも、日本の中絶当事者たちは、本来、権利として与えられるべき情報提供も心理的ケアも受けられずにいる。自分に「権利がある」ことさえ知らされずにいる。もしかしたらそれが、最も大きな問題なのかもしれない。
だからこそ情報提供していこうと思う。