リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

日産婦医会と学会合同のガイドラインについてパブコメがありました:回答をもらいました

日本産科婦人科学会雑誌第74巻第9号

2023年新ガイドラインの12週未満の中絶に関わるところ。
いろいろ問題を感じて10月15日締め切りのパブコメに下記のように投稿しました。
中絶完了のために絨毛を確認する……というところにも、ちょっと引っかかりを覚えていますが、今回は含めませんでした。




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以下、意見を申し上げます。

今年はWHOの画期的な新”Abortion Care Guideline(仮訳:中絶ケア・ガイドライン)”が発行されており、経口中絶薬の承認も目の前にしています。これを機に日本の中絶医療の在り方を抜本的に見直すときが来ていると考えます。

「p.1044 CQ205 妊娠12週未満の人工妊娠中絶時の留意事項は?」について

(1)2022年3月にWHOが刊行した"Abortion Care Guideline"の内容に沿うように全面的に書き換える必要がある。すなわち、Answer1.については、母体保護法を順守する以前に、女性の健康と人権を守るためにWHOガイドラインに順守すべきである。WHOの手引きと矛盾するような中絶の提供・管理者に関する規則は推奨されておらず、母体保護法はこれに抵触する[21]。(以下、[ ]でくくった数値は、ガイドラインの推奨またはベストプラクティスの番号。)

(2)上記ガイドラインでは、外科的中絶については妊娠14週未満と、14週以降について、内科的中絶については、12週未満と、12週以降についてそれぞれ推奨内容を示している。それに応じて書き換える必要がある[23-30]。

(3)Answer3.には「内診」と超音波検査が並列的に示されているが、昨今では科学的エビデンスに基づかない内診は「産科的暴力」にあたると考えられており、極力行わないようにすべきである。

(4)Answer7.の心肺監視装置の装着は全身麻酔を想定してのことと考えられるが、外科的中絶の疼痛管理にはツン通剤をルーチンに提示し、希望する人に提供することが推奨されており、一方で、ルーチンでの全身麻酔の使用は推奨されていない[11]。また外科的中絶の前にはミフェプリストンまたはミソプロストールの津男役レジメンによる子宮頚管熟化が推奨されており、吸湿性頸管拡張材の使用は推奨されていない[17]。より侵攻した妊娠週数での外科的中絶前の子宮頚管熟化については、新たな提案がなされているのでそれに準拠すべきである[18]。

(5)p.1044の▷解説について

3行目:「搔爬法」はWHOが「使用しないことを推奨」している方法なので、削除すべきである。

4行目:(Karmanカニューレなど)を接続した電動式真空吸引法または手動式真空吸引法(Manual VacuumAspiration:MVA)とすべきである。

5行目:「術者の習熟度に合わせて適宜選択する」⇒これが「搔爬法に習熟している術者はこれを選択してよい」と解してはならない。

7行目:「米国では」とあるが、本年6月より中絶が基本的に合憲でなくなった米国の中絶医療に依拠していくのはやめるべきである。たとえば「英国」に倣うことを提案したい。

下から3行目:ミソプロストール(抗NSAID潰瘍剤)⇒このたびのミソプロストール登用の根拠は、その子宮収縮作用にあるのであって、「抗NSAID潰瘍剤」としての作用ではないので、この説明はおかしい。また「同時服薬」とあるが同時ではない。「逐次併用投与」と東京大学大須賀譲教授は表現している。

(6)p.1045▷解説について(続き)

2行目:メビウス症候群が報告されているとの記述は不要。メビウス症候群との関連性は確認されておらず、ただ「報告されている」だけの事例を並べる必然性はない。

4行目末尾から:「あるいは指定医師の指定を受けるために研修を受けている医師が指定医師研修機関またはその連携施設で指導医の直接指導の下に実施する手術」というのは、母体保護法に指定されていない。

8行目:「配偶者」の定義の詳細については、近年、厚労省通知によって内容が詳細に定義し直されているため、それも参照すべきである。

p.1045の4.の2行目:術後の抗D免疫グロブリン投与が勧められる⇒WHOガイドラインには「12週未満の薬剤による中絶と外科的中絶の両方において:抗D免疫グロブリンの投与を推奨しない[8]」に合わせて書き換える。

下から5行目:全身麻酔薬使用時は⇒全身麻酔薬は原則使用しない。[11] なお、WHOガイドラインでは14週未満での、ならびに14週以降での外科的中絶の疼痛管理について、傍子宮頚管ブロックの使用を推奨している。[12][13][14]日本でも緊急に導入すべき手技である。

下から4行目:8.に「D&C」は合併症発症率と関連がないとしているが、2012年の医会調査では吸引法の方が合併症が少なかったとの報告もある。D&Cは「廃れた(obsolete)方法だとWHOも指摘しており、より良い標準的方法(吸引法)があるのにわざわざD&Cを用いるのは女性に対する差別(尊厳を貶める行為)であり、「産科的暴力」にあたるとも言われている。ガイドラインに反して搔爬やD&Cに固執するのはやめるべきである。

以上
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以上のパブコメに対して作成委員会からの回答があったので全文掲載しておきます。

産婦人科診療ガイドライン産科編 2023(9 月号掲載)パブリックコメントへの回答】


CQ タイトル CQ205 妊娠 12 週未満の人工妊娠中絶時の留意事項は?
<回答>
過日は、診療ガイドライン産科編 2023 改訂版のパブリックコメント募集に対してご意見を頂きましてありがとうございます。多くの方よりご意見を頂き、全てのご意見を作成委員会内で拝見致しました。貴殿に頂きましたご意見に関して作成委員会としてご回答致します。


P.1044
・WHO「Abortion care guideline」(2022)において、真空吸引後の鋭利な掻爬による確認(すなわち、中絶を「完了」させる)を含め、掻爬法(D&C)の実施が推奨されていないこと、すなわち人工妊娠中絶手術において真空吸引法が第一選択であることを明記する。
・CQ202「妊娠 12 週未満の流産診断時の注意点は?」P1027 に記載されているように、以下の厚労省通知を同様に明記する。「WHO は 12 週未満の人工妊娠中絶・流産手術に対する外科的方法として頸管拡張および子宮内膜掻爬術(D&C)より吸引法(手動、電動)を推奨していることが厚労省から(令和 3 年 7 月 2 日付,厚労省子ども家庭局母子保健課⻑発)通知された」


Answer:WHO から吸引法が推奨されていることは承知した上で、日本の人工妊娠中絶手技の実情を踏まえまして、今回は両者を適宜選択するとさせていただきました。貴重なご意見をいただき、誠にありがとうございました。


・引用論文 11)は、メタアナリシスに含まれているエビデンスレベルが全体的に低いこと、短期予後しかみられていないため新規記載すべきではない。


Answer:日本での実情を反映した研究と考え、本ガイドラインにおいて採用させていただきました。ご理解いただけますようよろしくお願い申し上げます。


P.1045
・未婚であり配偶者がいない場合、性的パートナー(妊娠の相手男性)の同意は、母体保護法上不要であることを明記する。
・性暴力被害の場合、加害者の同意は母体保護法上不要であることを明記する。
・配偶者がいる場合でも、DV 被害の場合は母体保護法上不要であることを明記する。
・配偶者の同意を医師が拡大解釈し、法律上不要な男性の同意を女性に求めることによって安全な中絶へアクセスできず新生児遺棄につながったケースなどが頻発しているため、産婦人科診療に携わる医療従事者に広く周知する必要がある。


Answer:ご指摘に沿い、厚労省通知を引用、加筆しました。 今後ともより良いガイドライン作成のため、建設的なご意見を頂きますようお願い致します。
なおこのご意見に対する作成委員会からの返信は今回限りとさせて頂きます。
宜しくお願い申し上げます。


2022 年 12 月
産婦人科診療ガイドライン産科編
作成委員会委員⻑ 三浦清徳

三浦清徳氏は2019年度から長崎大学産婦人科第15代教授とのこと。