リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

中絶は養子縁組と望まれない出産の両方と比較して、より低い心理的苦痛と関連することが研究で明らかになった

Psypost 2023年1月8日掲載 by Laura Staloch January 8, 2023, in Mental Health

www.psypost.org

中絶の方が、望まない出産やその結果の養子縁組よりも女性を苦しめないということがもっと知られてほしいと思います。中絶を禁じ、強制的に望まない妊娠を継続させ、その結果、養子縁組を勧めることは、当人の心を苦しめるばかりです。

もちろん、最後の手段としてその選択肢がある方が現状ではマシなのかもしれませんが、「こうのとりのゆりかご」を増やす以前に安全な中絶へのアクセスを下げることが重要。そしてそれ以前に、まずは性教育を充実させ、避妊と緊急避妊のアクセスを下げることが必要です。それでも「望まない妊娠」をした人には、心身がより傷つかない早期の中絶を受けやすくしてほしい。具体的には、望まない妊娠をした人が手に届きやすい形で中絶薬を導入してほしいです。

なお、上記の研究について日本語で報じられている記事が見当たらないので、以下に英文記事を私訳します。

中絶は養子縁組と望まれない出産の両方と比較して、心理的苦痛がより低いことが研究で明らかになった


 Archives of Women's Mental Healthからの新しい研究は、異なる妊娠の結果に関連する心理的影響を検証している。東京大学の佐々木那津氏らは、妊娠の4つの結果(希望出産、中絶、養子縁組、希望しない出産)を比較した。この4つのうち、望まない出産と養子縁組は心理的苦痛の指標で最も高いスコアを示した。


 計画的でない、あるいは意図的でない妊娠は、産後のうつ病に関係し、その後のネグレクト、虐待、子どもの幸福度の低さに関係することが研究により明らかにされている。また、中絶や養子縁組に至った意図しない妊娠は、それ自体が精神衛生上の影響を及ぼす可能性があることも分かっている。

 この新しい研究では、4つの異なる妊娠の結果とその後の心理的苦痛を比較している。これらの知見は、女性が出産の選択による負の結果を乗り越えるために、実務者が予測し、予防策を講じるのに役立つ可能性がある。

 この研究では、中絶または妊娠期間中に意図しない妊娠を経験したと報告した 7,162 人の女性から情報を収集している。流産や合併症で妊娠が中断された女性は調査から除外された。被験者は、インターネット調査会社である株式会社クオンを通じて募集されました。参加者の平均年齢は39歳で、18%が20歳以前に意図しない妊娠を経験していた。

 7,162人の女性のうち、3,971人が出産を希望したと報告し(希望出産)、2,960人が中絶を、130人が養子を選択し、101人が出産はしたが希望しなかったと報告した(希望外出産)。

 次に、被験者の心理的苦痛をケスラー6の日本語版で評価した。ケスラー6は、過去4週間に「神経過敏に感じましたか」「絶望的だと感じましたか」「そわそわ,落ち着かなく感じましたか」「気分が沈み込んで,何が起こっても気が晴れないように感じましたか」「何をするのも骨折りだと感じましたか」「自分は価値のない人間だと感じましたか」という6項目について【訳注:うつ病や不安障害などの精神疾患の可能性がある人を見つけるために】評価するものである。

 研究チームは、意図しない妊娠中の学歴、配偶者の有無、年齢などの人口統計学的および状況的変数に関するデータも収集した。また、当該期間中の社会的支援についても質問された。

 心理的苦痛のスコアは、希望出産を経験した人(14%)が最も低く、その後、中絶を選択した人(20.3%)でわずかに上昇した。養子縁組を選択した人(31.5%)と望まない出産を経験した人(30.7%)では、苦痛は再び上昇した。すべての結果は、意図的に妊娠を望んだ対照群よりも高いものであった。

 人口統計学的に、中絶、養子縁組、望まない出産を選択した人の3分の1は、意図しない妊娠が起こったときに10代だった。意図しない妊娠の場合、参加者のほとんどが高卒未満で、経済状況は "非常に悪い "から "普通 "の範囲であったと報告した。 "良い "または "とても良い "と報告した経済状況は10%未満であった。

 研究チームは、この調査にはいくつかの限界があることを認めている。まず、100万人以上にアンケートの案内を送り、5万人しか回答が得られなかった。その結果、彼らのデータは意図しない妊娠の経験を完全に表していない可能性がある。第二に、研究デザインが横断的であるため、因果関係を明らかにすることが困難である。

 だが研究者らは、これらの制約があるからといって、この結果が無視されるべきだとは考えていない。意図しない妊娠が判明した後、誰が最も苦痛を感じるリスクがあるのかを理解することは、女性のためのより良いヘルスケアにつながる可能性がある。

 さらに、この研究は、次のような考えで締めくくられている。「この研究は、意図しない妊娠を経験した女性のうち、望まない出産と養子縁組のグループは、長期的に心理的苦痛の結果が悪化することを示した。中絶は心理的に悪い結果を招かなかった。したがって、平等で安全な中絶の機会を確保し、望まない出産をした女性により多くのサポートを提供することが重要である。」

 この研究「望まない妊娠が心理的苦痛に及ぼす長期的影響:大規模サンプル回顧的横断研究」は、佐々木那津、池田真理、西大輔が執筆したものである。


関連する研究として:
「妊娠を他者に知られたくない女性に対する 海外の法・制度」2019年3月三菱リサーチ&コンサルティング


「国内文献からとらえられる 10 代で出産した母親の育児の現状と今後の課題」宮本亜由美他2015年