リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

経口妊娠中絶薬における人工妊娠中絶の実態調査及び適切な情報提供等に関する研究

成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業 令和5年度 総括・分担研究報告書 研究代表者 中井章人 令和6(2024)年5月


 日本でもようやく世界標準の中絶薬「メフィーゴパック」(ミフェプリストン1錠とミソプロストール4錠のコンビ薬)が承認され、2023年5月に発売された。このたび昨年5月から10月までの六ヵ月間の妊娠初期の中絶数と手段に関するアンケート調査の結果が発表された。2096の医療施設で行われた中絶の総件数は36007件で、そのうち中絶薬を使用したのは435件(1.2%)、その中には薬のみでは中絶が終了せず外科処置が行われたと推察される39件が含まれる。つまり、薬のみで中絶が完了したのはわずか396件(1.1%)であり、中絶薬の成功率は91.0%と低かった。原因は、日本のプロトコルでは二剤目のミソプロストールをくりかえし投与しないためである。単剤のミソプロストールは、日本では「妊婦には禁忌」とされる劇薬の胃かいよう治療薬「サイトテック」として発売されているが、これを中絶や流産に「適用外使用」することを厚労省は禁止している。それだけではなく、メフィーゴパックに含まれているミソプロストールは、何十年も前の動物実験の結果を理由に「毒薬」と指定されている。
 なお、この調査で薬以外に使われた中絶方法は、吸引単独が22513件、吸引と搔爬の併用が8075件、搔爬単独が4984件だった。重篤な合併症が発生した件数(発生率)は、順に44件(0.2%)、50件(0.6%)、20件(0.4%)だったが、薬を使用した群はゼロ件だった。
 当研究所の調べでは、9月7日の時点でラインファーマ社の「中絶薬について相談できる病院・クリニック」のリストには202医療機関しか掲載がなく、中絶可能な全国の医療機関3941か所の5%程度にすぎない。新聞報道によると、厚生労働省は今年7月25日、経口中絶薬の使用条件を緩和する方針を明らかにした。現在投与は入院できる医療機関に限定し、中絶が確認されるまでの間、女性の病院待機を必須としているが、緊急時に適切な対応が取れれば、無床診療所での投与や投与後の帰宅を可能とする方向で検討している。
 方針案によると、新たに投与が可能となるのは休日を含む24時間体制で対応可能であり、かつ入院できる医療機関と連携している無床診療所である。また、医療機関から16キロ以内に居住しているなどの条件を満たしている患者には、第二薬投与後の帰宅も認める。ただし投与後1週間をめどに中絶の確認のために通院させる必要がある。