リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

日本でも注目される「経口中絶薬」海外でどう使用? 注意点は?

NHK国際ニュースナビ 2023年4月11日


www3.nhk.or.jp

国内で承認に向けた検討が行われている人工妊娠中絶を薬で行う「経口中絶薬」。
実は海外では30年以上前から普及し始め、先進国を中心に広く使われています。
海外ではどう使われているの? 実際に使った人の感想は?
服用した女性や処方する医師に話を聞きました。

(国際部記者 松田伸子)


経口中絶薬って?
 従来の外科的な手術ではなく、口から飲んで人工妊娠中絶を行う薬です。2種類の薬を順番に服用します。

 初めに飲む薬「ミフェプリストン」は妊娠の進行を止めます。

 次に36時間から48時間後に2つ目の「ミソプロストール」を服用します。この薬は、子宮を収縮させて体の外に排出させる作用があります。

 イギリスの製薬会社「ラインファーマ」が承認申請を行っています。妊娠9週までの妊婦が対象となっています。

 海外では30年以上前から、この2つの薬を使った中絶が普及していて、先進国を中心に主流になりつつあります。


イギリスの製薬会社「ラインファーマ」の「経口中絶薬」
海外での使用状況は?
 日本のPMDA(医薬品医療機器総合機構)によりますと、中絶薬の「ミフェプリストン」は、1988年にフランスで承認されて以来、今では65以上の国と地域で承認されています。G7=先進7か国でみると、承認されていないのは日本だけとなっています。

 人工妊娠中絶で中絶薬を使う割合は、先進国を中心に増えています。特に北欧のフィンランドスウェーデンでは非常に高い割合となっています。主な国々の薬での中絶の割合は以下です。


患者の費用面での負担は?
 専門家によりますと、イギリスやフランスでは新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、オンライン診療で中絶薬を処方できるようになっていて、最寄りの薬局で受け取ったり、自宅に送られたりしています。また、他の中絶方法と同様、国民健康保険などでカバーされるため、患者の自己負担はありません。

 このほか、カナダやオーストラリアでは日本円で4万円程度で、一部または全額が健康保険でカバーされるということです。

 WHO=世界保健機関は中絶薬について、「安全な方法」としていて、2005年には、妥当な価格で広く使用されるべき薬として「必須医薬品」に指定しています。ちなみに「必須医薬品」には、風疹やインフルエンザの予防接種に使われるワクチンなど540あまりの品目が指定されています。


中絶薬を服用した人に聞いた
実際に、海外で中絶薬を使った日本人女性に話を聞きました。


(※あくまで個人の経験によるものです)


いつ、どこで処方されたのですか?
 2019年に、当時滞在していた台湾で意図しない妊娠が発覚しました。仕事などの理由で中絶することを選択し、地元の産婦人科クリニックに行きました。クリニックでは、腹部エコーで妊娠を確認。妊娠5週目でした。
 その場で、中絶の意思を確認され、2種類の中絶薬を渡されました。1剤目はその場で飲み、2剤目は48時間後に飲むように指示されました。2つ目の薬を飲むと腹痛があるとのことで、痛み止めを一緒に処方されました。


薬を飲んでからの経過は?
 1剤目を飲んで帰宅しましたが、体調に変化はありませんでした。

 48時間後に自宅で2剤目を飲みました。服用して2時間ほどすると腹痛が始まりました。歩くのもつらく、何とか立っていられるくらいの強い痛みになりました。ただ、私はふだん痛み止めを飲む習慣がなかったので、処方された痛み止めは使いませんでした。

 さらに1時間ほど経過すると出血が始まりました。出血の量は、生理の時に最も出血が多い生理2日目と同じぐらいでした。血の塊も出ていました。出血が始まると、痛みは緩和されていった気がします。


出血はいつまで続きましたか?
 生理のように出血が続き、その後数日は量は少なくなりましたが、出血がありました。さらに1週間ほどは、少量の出血が続きました。2週間後の診察では、中絶が完了していたことが確認できました。


薬で中絶することに抵抗はなかったですか?
 中絶薬は日本にはなかったので、はじめは怖かったです。ただ、全身麻酔をして子宮に器具を入れて手術をするよりは不安は少なかったので、薬での中絶を選択しました。2つ目の薬を飲むまでは体に変化がなかったので、「これで本当に中絶ができるのか」と思いましたが、排出するときは生理のような感じで、より自然なかたちで中絶ができたと思います。ただ、同じ経験はもうしたくないです。中絶薬を処方されたときの袋を今でも捨てずに持っていて、あの時の気持ちを忘れないようにしています。


イギリスの医師が挙げる注意点は?
この中絶薬、どんな点に注意すべきなのか。

 イギリスの医療機関で中絶薬を処方するサム・ローランズ医師に話を聞きました。


① 不測の事態の際の態勢を
 まず一番気になるのが、出血や痛みがひどかった場合など不測の事態への対処です。ローランズ医師は、対処のしかたなど丁寧な説明と、何かあった場合にいつでも連絡が取れる態勢の必要性を強調します。


ローランズ医師
 「私は医療機関に勤務し、中絶薬を処方してきましたが、患者さんが来ると、まずエコーで正常な妊娠であることを確認します。そして、患者さんの意思を確認して、中絶薬を処方します。2つの薬を提供し、1つ目はその場で飲んでもらいます。そして、24時間から48時間後に2つ目の薬を飲むように伝えます。痛み止めを一緒に処方するか、市販の痛み止めを飲むようにアドバイスします。また痛みが出た場合、湯たんぽやカイロなどで温めることもアドバイスします。
 それと、何か質問があった時や緊急時に連絡が取れるように携帯電話の番号を渡します。いつでも看護師がすぐに対応できるようしています。これまでの経験からいえば、実際に電話をかけてきた患者は半数以下だと思います。多く受ける質問は「出血が多い」ということです。目安として、多い日用の生理ナプキンが2時間でいっぱいになるようであれば、医療的な措置が必要だと話しています。そして、3週間後に診察し、中絶が完了しているかどうかを確認します」


② 中絶が「本人の意思」か、安全に服用できる環境があるか
 さらに、ローランズ医師は、イギリスでは医療機関の外で中絶薬を飲んで中絶することが認められていることから、中絶が誰かから強要されていないか、または逆に、誰かに服用を止められたりしないか、確認に細心の注意を払っているといいます。

 「中絶を希望する患者には、家庭の環境や、パートナーとの関係についても聞いています。DVを受けていたり、出産や中絶を強要されていたりしないかを見極めるためです。患者に付き添ってきた方がいた場合は、いったん外に出てもらって、患者だけと話をします。
 今、イギリスでは医療機関の外で中絶薬を飲んで中絶をすることができるため、患者にとって安全でプライバシーが守られた場所があるかどうかということが大事になってくるのです。もしも自宅が安全でないようであれば、患者自身の母親の家や友達の家で、薬を飲むこともあるでしょう。もちろん、暴力が疑われる場合は、他の支援機関につなぐこともあります」


③ オンライン診療でも処方、利点も
 イギリスでは、新型コロナウイルスの感染拡大以降、オンライン診療で処方されるようになっているそうです。オンラインだからこその利点もあるといいます。

 「新型コロナウイルスの感染拡大以降、オンライン診療で、中絶薬が自宅に届いたり、近くの薬局で受け取れたりするようになりました。医療従事者が使用するチェックリストは、オンラインでも対面でも変わりはありません。オンラインでの診療は、患者の都合の良い時間、場所を選ぶことができるため、例えば、自宅から離れた場所に行ったり、友人を訪ねたりして安全な場所から行うこともできます。
当初、一部の人たちは、オンライン診療だと非言語的なコミュニケーションが失われ、問題を抱える患者を見逃してしまう可能性があると主張していました。しかし、実際には、オンライン診療の方が、医療機関よりも自由に話せるため、SOSを出すことが多いことが分かっています」


④ 大事なのは“選択肢”があること
最後に、ローランズ医師が指摘したのは、人工妊娠中絶を選択した女性本人が選べる選択肢があることの大切さでした。

 「1991年にイギリスで中絶薬が承認された時、医療関係者や社会の多くの人は、安全な薬として認識していましたし、歓迎しました。ただ、一部には、中絶そのものに反対し、中絶薬について、「危険な薬」だとして間違った情報が流れることがありました。事実としては、イギリスでは中絶による死亡のリスクは、出産の32分1と低いですし、世界で安全性が確認されている薬です。一方で、手動真空吸引法(MVA)という、柔らかいプラスチック製のチューブを入れ、子宮内を真空状態にして吸い出すという中絶の方法を希望する患者も、ここ最近増えています。局所麻酔で手術を行い、30分から1時間後には帰宅できるためです。女性が薬か外科的手術かを希望に応じて選べる、そうした選択肢があるということがとても重要なのです」


日本での承認は?
 厚生労働省の専門部会は2023年1月、承認することを認める意見を出しています。そして、当初は3月24日に開かれた分科会で審議を行い、承認を了承する予定でした。

 しかし、当日になって「パブリックコメントの分析や対応に予想以上の時間を要している」として、急きょ審議を取りやめました。厚生労働省によりますと、パブリックコメントにはおよそ1万2000件の意見が寄せられ、賛成意見が3分の2、反対意見が3分の1程度だということです。

 厚生労働省は「なるべく早い時期に審議できるようにしたい」としていて、4月以降に再度、分科会を開催するとしています。