リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

本日NHKにも登場! サム・ローランズさんからメッセージをいただきました❣

RHRリテラシー研究所で海外の専門家から日本の中絶状況に関するコメントを集めています

英国ボーンマス大学教授のサム・ローランズさんが、日本の中絶に関してRHRリテラシー研究所にコメントを寄せてくれました。こちらで全文紹介します。

1/25に届いたプレスリリース

この製品の日本での製造・販売が承認されることは、女性や妊娠する可能性のあるすべての人々にとって極めて重要なことです。この2つの薬(ミフェプリストンとミソプロストール)による治療は、数十年にわたり世界中で広く使用され、安全な薬として実績があるため、「毒物・危険物」という特別なラベルをつける必要は全くありません。私見では、この製品は医療従事者による一般的な使用を認可されるべきです。処方者は婦人科医に限定すべきではなく、病院以外でも安全に使用できます。この薬剤の組み合わせは、WHOの必須医薬品リストに掲載されています。日本国民は科学的進歩の恩恵を受ける権利があります。早期の薬による中絶は、中絶手術の代わりに選べる選択肢であるべきです。

この4月、RHRリテラシー研究所に届いたメッセージ全文。石川県議会と金沢県議会が出した意見書の内容について、まずは苦言を呈しています。

石川県議会意見書:今回申請された2種類の経口中絶薬、「ミフェプリストン」と「ミソプロス トール」は、副作用として手術が必要となる大量出血や細菌感染を引き起こすおそれがあることが明らかになっている

⇒早期の薬による中絶の合併症の頻度は、手術による中絶と同程度です。薬による中絶の臨床的特徴は、自然流産と区別がつきません(de Costa & Carrette, 2014)。
 輸血または子宮の排出を必要とする出血は、薬による中絶では0~2.6%であるのに対し、手術による中絶では0.15%です(de Costa & Carrette, 2014)。
 感染症は、薬による中絶では0.3%未満であるのに対し、手術による中絶では0.1~5%です(de Costa & Carrette, 2014)。


石川県議会の意見書:平成12年9月に承認された米国では、医療機関を受診せずに安易な服用をしないよう、度々警告や注意喚起が出されているにもかかわらず、26人の死亡が報告され…

⇒[この意見書の]書き手はミフェプリストンの投与に関連して2000年から2018年に報告された米国食品医薬品局の有害事象のデータを引用しています(ANSIRH, 2019)。これらの米国のデータには、薬物の過剰摂取、殺人、自殺による死亡なども含まれており、直接関連する死亡のみの死亡率であれば中絶10万回あたり0.35になります(ANSIRH, 2019)。
 英国の2003年~2014年の妊産婦死亡率の全国データでは、出産10万人あたり4.8人であるのに対し、中絶の死亡率は10万人あたり0.15人で、中絶が出産に比べて32倍死亡リスクが低いことを意味しています(Lohr et al., 2020)。
 1992年から2018年の間に、英国で年間行われた薬による中絶の数は45倍に増えましたが、中絶による死亡率は変化しませんでした(Lohr et al.、2020)。
 世界的には、薬による中絶後にClostridium sordelliiという細菌による毒性ショックで10人の死亡が報告されています。米国で8人、カナダで1人、ポルトガルで1人(de Costa & Carrette, 2014)ですが、これは年間5600万件の中絶の中で起きていることです(Ganatra et al., 2017)。


石川県議会の意見書:男性から安易に経口中絶薬の使用を強要されるなどの女性の性被害 の増加が懸念される

⇒親密なパートナーによる生殖強制・虐待(RCA)を含むジェンダーに基づく暴力は、嘆かわしいほど一般的に起きています(Rowlands & Walker, 2023)。
 RCAの大半は、避妊を行わないなど、妊娠を強要する方向で行使されています。逆に、妊娠を終わらせるという局面では、中絶の強要も起こっているのが現状です(Rowlands et al., 2022)。
 だからこそ、中絶を希望してくる女性に対して、医療従事者が一対一で診察を行って、本人の真意を確認する手順が標準化されているのです(Rowlands et al., 2022)。


金沢市議会の意見書:副作用として、子宮の収縮に伴い出産同様の腹痛、また大量異常出血や細菌感染を引き起こすおそれがあることも明らかになっており、女性の心身にとって決して安全な中絶方法とは言えない。

⇒薬による中絶にも、手術による中絶にも、副作用があります(de Costa & Carrette, 2014)。女性に尋ねると、薬による中絶を選ぶ人の方が手術による中絶よりも多く、薬による中絶は非常に受容されています(Ngo et al.)。
 薬による中絶が心に与える影響に関しては、中絶を望んでいる人に対して中絶へのアクセスを拒否することは、心理社会的に悪影響を及ぼすことが、様々な文献で証明されています(Foster、2020)。
合法的な中絶へのアクセスを制限することは有害なのです(WHO, 2022)。女性の生殖に関する自律性は尊重されるべきであり、どのような処置を受けるかについて自由な選択が与えられるべきです。中絶へのアクセスを制限する公的資金の不足は、子宮収縮による一過性の苦痛に比べて、はるかに強力に心理的に危害を及ぼす潜在的要因になっています(Grossman et al., 2016) 。


金沢市議会の意見書:経口中絶薬の承認により、薬で簡単に中絶ができるという捉え方 をされる懸念もある

⇒これは家父長制の立場から来る古くからの議論です。
 中絶は合法的な医療行為であり、それを制限しようとする試みは、女性の生殖の自律を阻害するものです。
国際人権法は、女性には到達可能な最高水準の健康と科学的進歩の恩恵を受ける権利があると定めています(WHO、2022年)。
 国家はリプロダクティブ・ライツの享受を妨害しない義務を負っています(Rowlands & Wale, 2020; WHO, 2022)。


フィーゴパックの審査報告(2)総合評価:ミフェプリストンの原体及び製剤、並びにミソプロストールの製剤はいずれも劇薬に該当すると判断する。

⇒これは明らかに非科学的です。すべての薬には副作用があります。有効性、耐性、受容性、安全性を証明する研究がこれほど多く行われている医薬品はそう多くはありません。
 この組み合わせの医薬品を「劇薬」と分類するのは、不当で偏った考えです。


参考文献
ANSIRH. (2019). Analysis of medication abortion risk and the FDA report “Mifepristone U.S. post-marketing adverse events summary through 12/31/2018” (https://www.ansirh.org/sites/default/files/publications/files/mifepristone_safety_4-23-2019.pdf
de Costa, C., & Carrette, M. (2014). Early medical abortion. In S. Rowlands (Ed.), Abortion care (pp. 62-70). Cambridge University Press.
Foster, D. G. (2020). The Turnaway Study. Scribner.
Ganatra, B., Gerdts, C., Rossier, C., Johnson, B. R., Tunçalp, Ö., Assifi, A., Sedgh, G., Singh, S., Bankole, A., Popinchalk, A., Bearak, J., Kang, Z., & Alkema, L. (2017). Global, regional, and subregional classification of abortions by safety, 2010-14: estimates from a Bayesian hierarchical model. Lancet, 390, 2372-2381.
Grossman, D., Grindlay, K., & Burns, B. (2016). Public funding for abortion where broadly legal. Contraception, 94, 453-460. https://doi.org/10.1016/j.contraception.2016.06.019
Lohr, P. A., Lord, J., & Rowlands, S. (2020). How would decriminalisation affect women’s health? In S. Sheldon & K. Wellings (Eds.), Decriminalising abortion in the UK: what would it mean? (pp. 37-56). Policy Press.
Ngo, T. D., Park, M. H., & Shakur, H. (2011). Comparative effectiveness, safety and acceptability of medical abortion at home and in a clinic: a systematic review. Bulletin of the World Health Organization, 89, 360-370. (In File)
Rowlands, S., Holdsworth, R., & Sowemimo, A. (2022). How to recognise and respond to reproductive coercion. BMJ, 378, e069043. https://doi.org/10.1136/bmj-2021-069043
Rowlands, S., & Wale, J. (2020). A constructivist vision of the first-trimester abortion experience. Health & Human Rights J, 22, 237-249.
Rowlands, S., & Walker, S. (2023). Reproductive coercion and abuse. In P. Ali & M. M. Rogers (Eds.), Comprehensive guide to Gender-based violence. Springer.
WHO. (2022). Abortion care guideline. World Health Organization https://apps.who.int/iris/handle/10665/349316