リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

VCATトレーニング

Value Clarification Attitude Transformation training

 VCATは中絶提供者やスタッフが中絶を求めてくる患者の尊厳を守りながらケアを提供できるようになるために提供されている訓練です。私も2013年にタイのバンコックで開かれたIWAC(安全でない中絶のための国際会議)で類似のワークショップに参加したことがあります。

 現在、いくつかのツールキットがオンラインで公開されています。


Ipas:Abortion Attitude Transformation: A Values Clarification Toolkit for Global Audiences


以下は若い女性患者用のバージョンです。
Ipas: Abortion Attitude Transformation: Values clarification activities adapted for young women


以下はリプロダクティブ・アクセス・オルグというサイトの資料です。
reproductive health access project: Values Clarification Workshop


以下は2020年にナイジェリアで作られた中上級レベルのケアワーカー向けのトレーニングパックです。
YNCSD: Training pack on Values Clarification and Attitudes Transformation (VCAT) For Mid and Senior Level Health Care Workers Abuja, Nigeria 2020


 ナイジェリアのトレーニングの一部を紹介します。いずれのトレーニングも、受講者が自分の価値観を明らかにしていって、偏見や誤解を解いていけるようにするための多様なワークショップがあります。以下のようなストーリーを読んで、なぜこの女性は死んだのかを考えさせたりするセッションもあります。仮訳で紹介します。

 私の名前はミアです。私は家族の中で長女でした。私は知的で勤勉な性格でした。家では母の手伝いに励んでいましたが、学校は私の最優先事項でした。私はいつもクラスで一番になり、家族や地域の誇りであり喜びでした。私は奨学金を得て、大学へ進学しました。
 初めての大都会で、友達を作るのも大変でした。しかし、徐々に状況は変わり、私は新しい環境に馴染んでいきました。私は真面目に勉強を続け、常にクラスのトップにいることを確認しました。教授たちは私のことをとても誇りに思い、特別に関心を持ってくれました。そして、プロフェッショナルな夢を追い求めるよう、私を励ましてくれました。
 卒業後、私は専門会社に就職し、弟や妹の学費のために仕送りをしました。私は大家族の稼ぎ頭になったのです。私は職場の同僚であるリチャードと出会い、恋に落ちました。最初は穏やかで愛情深い人でしたが、次第に変わっていきました。彼は私によそよそしくなり、不親切になったのです。私はすぐに、リチャードに別の恋人がいることを知りました。それを知った私は、リチャードに「私たちの関係は終わった」と告げました。リチャードはとても怒り、私にセックスを強要してきました。彼は、私が避妊していないことを知っていました。私をドアから押し出すと、彼はこう宣言した。「君が妊娠したら、僕のところに戻ってくることは分かっている」。
 3ヵ月後、かなり長い間体調が悪かったので、クリニックに行きました。すると、なんと妊娠していたのです。もともと生理不順で、妊娠の症状も教えてもらったことがありませんでした。もうリチャードには戻れないと覚悟を決めました。クリニックで妊娠の終了について問い合わせたところ、スタッフは嫌な顔をし、私の質問には答えようとしませんでした。別のクリニックに行き、妊娠の終了について尋ねましたが、そこでも追い返されました。私は恐怖を感じ、恥ずかしくて、レイプと妊娠のことを家族の誰にも話せませんでした。誰も私を信じてくれない、助けてくれないと感じ、自暴自棄になりました。
 友人から聞いた、家庭用化学薬品の有毒な薬を飲むと妊娠が終了するというのを試してみました。子宮頸管に棒を挿入してみたりもしました。ひどい病気になり、痛みを伴う感染症にかかりましたが、まだ妊娠していました。結局、これらのことをすべて試した後、私は自ら命を絶ちました。


 他にもセックスに関する困難な質問にどう回答するかの事例が示されたりもしています。これも仮訳します。

「あなたは若い女性が何の責任も取らずにセックスを楽しむのを助けていますが、そのことについてどう思っていますか? そもそも性交したことを罰するべきだし、中絶も許されるべきではないのでは。」


考えうる回答
「"すべての人間は、生まれたときから性的存在です。それが私たちの種が生き残る方法なのです。そして、若い女性がセックスをする理由はさまざまです。思いやりのあるパートナーと愛し合っている人が、セックスすることに同意するのはその人の権利です。また、選択肢を与えられずに強要されたり、虐待や暴力を受けたりした人の場合は、もし妊娠してしまったとしても、加害者の子供を産むことを強要されるなど、二重の犠牲を強いられるべきではありません。したがって、彼女たちを罰したり、安全な中絶を受ける権利を否定したりすることは間違っています。安全な中絶は、女性の命を救い、健康を守るものであり、リプロダクティブ・ヘルスケアの重要な一部です。だから私は納得しているのです。」

 一方的に教えこむわけではなく、思い込みや誤解に気づかせ、真実を知らせることで訓練を受けた人自身が、自分の偏った見方に気づき、思いやりのある提供者になれるようなプログラムになっているのです。


 こうしたプログラムの日本語版を作りたいです。


 昨年、Catholics for Choiceが行ったワークショップのFacebookも見つけました。