リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

State of World Population report 2023 国連人口白書:

State of World Population report 2023
英語版のタイトルは「80億の命、無限の可能性:権利と選択のケース」

日本の優生保護法が出てきた部分を仮訳します。

 疎外された集団は、人口抑制政策に対して特に脆弱であった(Jean-Jacques and Rowlands, 2018)。米国では、連邦政府がスポンサーとなった集団不妊化キャンペーンが、1970年代までに最大42%のネイティブ・アメリカン女性に影響を与えた(University of Rochester, 2019)。日本では、1948年に実施された障害者に対する強制不妊手術政策(Hovannisyan, 2020)が1996年まで実施され、日本政府はその被害者に補償を行った。1980年代、シンガポールは一時的に、高学歴の女性には子どもを産むインセンティブを、低学歴の女性にはディスインセンティブを導入した(Wong and Yeoh, n.d.)。国家社会主義諸国における出生前置主義政策にもかかわらず、1950年代から1980年代にかけて、中欧と東欧の少数民族であるロマは、反出生主義プログラムや強制不妊手術の対象となった(Varza, 2021)。
 20世紀後半、人口をめぐる国際的な協議では、人口抑制をめぐる根底にあるイデオロギーが声高に叫ばれたが、女性の権利運動の高まりに後押しされ、子どもの数と間隔を決める人権の容認が広まった。このビジョンは、1968年のテヘラン宣言で初めて謳われ、家族計画サービスにおける虐待や格差の証拠が高まるにつれて推進され、1994年にカイロで開催された画期的なICPD(UNFPA, 1994)では、UNFPAの支援を受けた市民団体を含むフェミニストや権利擁護団体によって、最も力強く成功裏に推進された。ICPDは、人口政策への取り組み方に関する世界的なコンセンサスを一変させ、人口政策を数字や目標から、人権を中心としたものへと移行させた。避妊は、女性の健康とエンパワーメントを向上させるための広範な取り組みに不可欠なものと見なされた(Hardon, 2006)。


日本語の概要版のタイトルは「80億人の命、無限の可能性:権利と選択の実現に向けて」本文を文字起こししてみました。優生保護法の話は削除されています。

UNFPA 世界人口白書 2023
『80億人の命、無限の可能性 権利と選択の実現に向けて』

概 要

80億人の世界
2022年11月、世界の人口は80億人を超えました。

私たち人類は、かつてない大家族となっています。全体として、人類史上のどの時期よりも、私たちはより長く生き、より健康な生活を享受して います。

しかしこの世界は、不安で不確実でもあります。 気候変動や不安定な経済、紛争、新型コロナウイ ルス感染症(COVID-19)といった課題により、 人類の未来が悪化するという懸念と、より良い未 来に対する希望とが、同じくらい現実味を帯びた 分岐点に私たちは立たされているのです。

どうしたらこの矛盾を正しく理解し、現在の緊急 性の高い課題の解決に向けて動き出すことができ るでしょうか。

世界人口が一つの節目を迎えた今、複雑に絡み合う世界の数多くの課題の根本的な原因は人口動態にあると、性急な結論を下したくなるかもしれません。

人口が「多過ぎる」せいで、資源が先細り紛争が激化しているとする人がいる一方で、出生率の低下によって地球上から人々がいなくなり、従来の生活を支えていくには人口が「少な過ぎる」のではないかという不安を抱く人もいます。

世界人口が多過ぎるという物語。または、少な過ぎるという物語。

いずれにしても、私たちが向かう方向はただ一つ。それは恐怖と非難、そして統制です。

しかし実際のところ、人の数が問題だったことはありません。まず事実を確認することから始めましょう。

「多過ぎる」ことで起きる問題
 人口増加の危機を訴える人々によると、私たちの世界には人があふれかえり、破裂する寸前の状態にあります。政治家やメディア評論家、さらには一部の学識者の中にも、経済の不安定性や気候変動、資源獲得戦争といったグローバルな課題の原因は、過剰な人口による需要超過と供給不足にあると主張してきました。
彼らは出生率の上昇が手に負えなくなっていると主張し、長い間多くの子どもを無計画に産んできた、として貧困層や弱者層に避難の矛先を向けています。彼らは環境破壊などの問題に関する責任が最も少ない層であるのに、です。
これは複雑な問題をあまりにも単純化した解釈で、大きな実害を引き起こすものです。中でも重大なのは、私たちが直面する喫緊の課題の原因を作っている人々の責任を問うことが難しくなってしまうことです。

実際のデータ:
● 3分の2:世界人口のうち、出生率が人口置換水準を下回る地域で暮らす人々の割合。
● 72.8年:世界の平均寿命。寿命の延びが人口増加の大 きな要因になっており、これは喜ぶべきことである。
● 25年以上:今後の全人口増加の3分の2が過去の増加 による(すなわち出生率の増減によって変動しない) 期間。
● 10%:世界人口のうち、温室効果ガス排出量全体の半 分を排出している人々の割合。そのため、排出量の増大を人口増加と結びつけることは誤りである。


見方を変えるために
 女性の身体と生殖に関する選択が「人口過剰」問題の原因と解決策の両方であるという解釈をする必要はありません。その代わりに、一人ひとりの選択がカギを握っているということを重視し、性と生殖に関する正義という観点から、あらゆる形での人類の進歩を支援することができます。
 そのためには地球上の人口を減らすことよりも、教育やヘルスケア、手ごろな価格のクリーン・エネルギーに投資し、ジェンダー平等の実現に向けた努力をする必要があります。

「少な過ぎる」ことで起きる問題
 世界人口は50年間で倍以上に増え、現状の出生率も世界的に見れば、女性1人当たり2.1といういわゆる「人口置換水準」を上回っているものの、世界人口の3分の2は現在、出生率が人口置換水準を下回る国または地域で暮らしています。こうした事実から、一部の人々は「人口減少危機」に警鐘を鳴らし始めています。
さらに、少子化が続けば、国全体さらには人類全体が「崩壊」しかねないと言います。


実際のデータ:
● 1:2022年から2050年までの間に人口が減少すると予測される地域の数(欧州)。
● 1970年代:多くの国で出生率が人口置換水準を下回り始めた時期。しかし、ほとんどの国では移民の流入のため、人口減少は起きていない。
● 5から2.3へ:1950年代以来の全世界の平均出生率の 低下幅。全世界の出生率は2050年までに2.1に低下すると予測されている。
● ↓↑:人口の高齢化は、寿命の延長と出生率の低下からの自然な結果であり、世界中あらゆる場所で起きている。

見方を変えるために
 いずれ私たちの経済やサービス、社会を支えるには、人が「少な過ぎる」ようになるのではないかという不安に反して、少子化は必ずしも災難を意味するわけではないと専門家は言います。それはむしろ、人口転換の兆候だと言えます。
寿命の延長や世界的な出生率の低下などの進歩は、個人、特に女性 が、自分の生殖に関して決定でき、そして権利と選択を享受することにより、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)が向上していることを示しているのです。

カギを握るのは権利と選択
 子どもの数、出産の間隔と時期を決めることは、すべての人々の基本的人権です。
 グローバル社会に暮らす私たちは、差別や強制、暴力を受けずに性と生殖に関する健康(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス)に関する決定を下す力を保障しなければなりません。
生殖に関する目標を達成するためのサービスは、金銭的にも物理的にも手に届きやすく、国際基準を満たす品質でなければなりません。
 こうした目標が、私たちが目指すべきものです。高いか低いかにかかわらず、出生率に影響を与えることを目標とすべきではありません。実際、こうした介入は決して解決策にはなりません。本質的に、適切な出生率や問題の出生率というものはないからです。適切なアプローチを取れば、出生率がどうであれ、強靭な社会は繁栄することができるものです。

● 人口動態に関する強靭性(レジリエンス):人口動態 の変化に適応し、繁栄できる性質または状態
● 44%:68か国においてパートナーを持つ女性のうち、からだの自己決定権を否定されている女性の割合


女性は自身の生殖に関する選択について、どう感じているのでしょうか
 残念ながら出生率に関する議論には、しばしば女性が望む子どもの数について語られることが抜け落ちてしまいます。女性が望む家族の人数は、多くの場合、実際の出産数と異なっているのが現状です。
これは、女性が権利と選択を行使することを難しくしている政策による意図的もしくは非意図的な結果です。
個人の選択を無視した人口政策を策定すると、社会全体の健康とエンパワーメントが危険にさらされます。人々が最大限に健康に生活し、貢献と革新と繁栄のために力を発揮するためには、一人ひとりの権利と選択を保障する必要があります。

正しい問いを立てる
 それでも、世界人口が「適正」なレベルにあるのかどうかが気になるでしょうか。私たちが問うべきは、地球上の人口が多過ぎるのか、少な過ぎるのかではなく、一人ひとりが性と生殖に関する自己決定権を含め、基本的人権を行使する術を持っているかどうかです。
 現状を見る限り、こうした権利を享受している人々は、ごく一部に過ぎません。
 すべての人がこうした権利を保障されない限り、すべての人々が繁栄し、日々変化する世界の現実に適応する可能性を引き出すことはできません。
 今年の「世界人口白書」は、一人ひとりが自分の生殖に関する将来の展望について自由に選択できる世界の実現に向けて主張をしています。各国が人口の変動を統制しようとするのではなく、これに適応することによって、人口動態に関する強靭性を構築する世界を求めています。
 人口とは本質的に、人間そのものです。私たちは、避けることのできない人口変化の中で、人類のニーズを満たせるような社会を作り上げなければなりません。システムは、人類のために用いるべきツールであり、決してその逆ではないのです。
今こそ私たちは、ジェンダーや人種、国籍、能力に関係なく、あらゆる人々の可能性に目を向けることで、一人ひとりが人類全体の未来にプラスの貢献ができるようにしなければなりません。それは、私たち80億人全員にとっての未来であり、無限の可能性を秘めた未来です。


世界人口白書2023」
日本語抜粋版https://tokyo.unfpa.org/ja/SWOP
英語完全版https://www.unfpa.org/swp2023

すべての人々に権利と選択を