リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

2019年カイロ会議から25年目にして初めて「中絶の権利」が明記された……が取り残された日本

ICPD25のコミットメント

www.nairobisummiticpd.org

・各々の異なる能力と責任を認識した上で、我々の進むべき道は、具体的なコミットメントと協調行動で表現される。ICPD行動計画、ICPD行動計画の更なる実施のための主要行動、およびそのレビューの成果、そして持続可能な開発のための2030アジェンダの約束を実現する行動に特に焦点を当て、次のことを行う:
1. ICPD行動計画とその更なる実施のための主要な行動、その見直しの成果、および持続可能な開発のための2030アジェンダの全面的、効果的かつ加速的な実施と資金調達のための努力を強化する。
 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の一環として、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスおよび権利への普遍的アクセスを達成する。
2. 家族計画に関する情報とサービスのアンメット・ニーズをゼロにし、質の高い、入手しやすく、安価で、安全な最新の避妊具を普遍的に利用できるようにする。
3. 予防可能な妊産婦死亡と妊産婦の疾病をゼロにする。特に、法の及ぶ限り安全な中絶へのアクセス、安全でない中絶の予防と回避のための措置、中絶後ケアの提供を含む、性と生殖に関する保健介入の包括的パッケージを統合し、また、身体の統合性、自律性、生殖に関するすべての個人の権利を保護・確保し、これらの権利を支援するために不可欠なサービスへのアクセスを提供する。
4. すべての青少年と若者、特に女児が、包括的かつ年齢に応じた情報、教育、青少年にやさしい包括的で質の高いタイムリーなサービス利用できるようにし、自らのセクシュアリティと生殖生活について自由で十分な情報に基づいた決定と選択ができるようにし、意図しない妊娠、あらゆる形態の性的・ジェンダーに基づく暴力と有害な慣行、HIV/AIDSを含む性感染症から適切に身を守り、成人期への安全な移行を促進する。……後略……

3. 予防可能な妊産婦死亡 と産科フィスチュラなどの妊産婦の疾病をゼロにする。特に、法の及ぶ限り安全な中絶へのアクセス、危険な中絶の予防・回避措置を含むセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルス介入 の包括的パッケージを、国のUHC戦略・政策・プログラムに統合する、 また、身体の完全性、自律性、生殖に関するすべての個人の権利を保護・確保し、これらの権利を支援するために不可欠なサービスへのアクセスを提供することである。

12. このような状況下で妊産婦の死亡率と罹患率、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに関する包括的な情報、教育、サービス(法の及ぶ範囲での安全な人工妊娠中絶サービスへのアクセス、中絶後のケアを含む)へのアクセスを提供することにより、妊産婦の死亡率と罹患率を大幅に削減する。


国連人口基金日本事務所(UNFPA)によれば、今回のICPD25周年 ナイロビ・サミットの特徴は、単なる議論に終わらせず、閉幕後に「行動計画」を達成させるために参加者らが「コミットメント 」を表明したことにある。各国政府・NGO・企業等から提出されたコミットメントの総数は1253件、提示された資金は総額80億米ドルにのぼったという。


たとえばスウェーデン政府は、次のようなコミットメントを表明していた 。仮訳で示す。

国際人口開発会議(ICPD)25周年と行動計画の採択に際してのスウェーデン政府の国家コミットメント


コミットメントの説明
 画期的な採択から25年が経過した現在も、スウェーデン政府は国際人口開発会議(ICPD)の行動計画の実施に深くコミットしている。従って、スウェーデン政府は、ICPD25 に関するナイロビ・サミットに際し、以下のコミットメントを表明する:


進歩的な規範的利害関係者
 スウェーデンは、ICPD25に関するナイロビ声明に賛同する。
 スウェーデンは、最高政治レベルを含むあらゆるレベルで、すべての人のための性と生殖に関する健康と権利(SRHR)を推進する最前線にあり、今後もそうあり続けるだろう。スウェーデンフェミニスト政府は、政治的にも財政的にも、SRHRアジェンダの全面的な支援にこれまで以上に力を入れている。
 スウェーデンは、若者やLGBTIを含むすべての人のためのSRHRを強調し続けている。私たちの取り組みは、非差別や参加といった人権の基本原則に基づいている。重要な要素には、質の高い包括的なセクシュアリティ教育や安全で合法的な中絶へのアクセスが含まれる。
スウェーデンは、北京行動綱領と国際人口開発会議(ICPD)の行動計画、およびそれらの再検討会議の成果における既存のSRHRの文言を断固として支持する。私たちは、ガットマッカー・ランセット委員会のSRHRの定義を認めるなど、より進歩的なSRHRに関する新たな公約を推進し続ける。
スウェーデンは、政府、多国間組織、市民社会、学界、民間部門を含むすべての関係者と広範に協力し、SRHRの実施を加速するためにさらに強力な同盟関係を構築していく。


長期的な財政支援の継続
 数十年にわたり、スウェーデンはSRHRのためのアドボカシーとサービスに対する最大の資金提供国の一つである。2018年、スウェーデンの財政支援は、二国間プログラムと多国間システムへの支援の両方を通じて、3億米ドルを超えた。スウェーデンの国際開発援助の約13%は保健に費やされており、そのうちのほぼ60%がSRHRに費やされている。スウェーデンのSRHRに対する強力な財政支援は今後も継続される。
スウェーデンUNFPAに対し、複数年ベースで非予定基幹資金を提供しているが、彼らの自由、セクシュアリティ、健康、未来が議論の中心でなければならない若者の参加と声を確保するため、UNFPAへの追加支援を通じて今回のサミットにも貢献している。


国家のオーナーシップ
 スウェーデンは、ICPDの下でのコミットメント、そしてすべての人のためのSRHRのためのコミットメントを、国際的なコミットメントと同様に国内的にも真剣に受け止めている。そのためスウェーデン政府は、2020年までにSRHR国家戦略を策定するプロセスを開始した。
 この戦略により、性別、性自認、性表現、階級や民族、宗教やその他の信条、性的指向、障害や年齢に関係なく、全国民のための質の高い平等なSRHRが確保される。誰一人取り残さないように!
 その目的は、個人的・性的完全性と性的自己決定に対するすべての人の無条件の権利が完全に尊重されるような環境を作ることであり、特に若者、貧しい社会経済状況下に暮らす人々、障害を持つ人々、外国にルーツを持つ人々、LGBTIの人々のSRHRに注意を払うことである。

スウェーデンのこのコミットメントは、単にICPD25への賛同を示すだけではなく、具体策が挙げられている。しかも、翌年にあたる「2020年までにSRHR国家戦略を策定するプロセスを開始した」という手回しの良さには脱帽する。一方、日本の外務省は次のようなコミットメントを発表していた 。こちらも仮訳で紹介する。

ICPDから25年、私たちは目覚ましい進歩を遂げた。しかし、2019年版世界人口現状報告書のタイトル「未完の事業」が示唆するように、まだやるべきことはたくさんある。
 特に、脆弱な状況にある人々や人道的状況にある人々、特に女性と女児が、SRHに特別な注意を払いながら、必要なサービスにアクセスできるよう、最大限の努力を払う必要がある。これは、誰一人として取り残されることのないよう、人間の安全保障の概念に基づいて行われなければならない。
 さらに、少子化、高齢化、都市化など、差し迫った人口問題や人口動態の変遷に対処することが極めて重要であると考える。この観点から、我が国は、人口高齢化に関する教訓や知見を世界や地域の場で共有してきたが、単に課題や対応策を共有するだけでなく、少子高齢化への対応を含め、ライフコース全体の観点から政策実行を加速するため、国際社会と連携していきたいと考えている。
 日本は、UHC達成に向けた自らの経験を踏まえ、世界全体でUHCの重要性を強調してきた。各主体が自らの役割を再認識し、ICPD行動計画の「未完の事業」に取り組むという目標を再確認し、ここナイロビで提示された様々なコミットメントを推進するよう促すため、私たち日本は、誰一人取り残さないというユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成に向けた機運を加速させることを約束する。

 日本政府はいったいどんな「目覚ましい進歩を遂げた」というのだろう。手動吸引器と経口中絶薬が導入されても、世界とは違って女性の健康と権利に寄与していないのだから、全然「目覚ましく」はない。また、ナイロビ宣言の表面をなぞるように繰り返すばかりで、国内でリプロに関するUHCが達成されていないことは無視しているし、旧優生保護法で強制不妊された人々の賠償問題も残っているし、LGBTQへの権利進展にも寄与していないのだから、「誰一人取り残さない」の言葉も空しい。スウェーデンのコミットメントと比べても、具体性に乏しく、「加速させる」の言葉だけが空回りしているのが分かるだろう。これでは何も変わらない。