リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

連載:中絶ケアは「人権」①

新婦人しんぶん2023年4月8日5面 ジェンダーリレー講座

新婦人しんぶんに連載中(全9回)の記事なのですが、「3か月経ったものはブログ等で公開可」であることを担当者に確認しました。4月8日号掲載の連載1回目を次にポストします。5月13日号掲載の2回目は8月13日にポストする予定です。

中絶ケアは「人権」① 中絶薬が承認されても、使いやすくはならない!?
 日本初の経口中絶薬(以下「中絶薬」)の承認に期待が寄せられています。ミフェプリストンとミソプロストールの二薬をセットにした「メフィーゴパック」という製品で、国連の世界保健機関(WHO)は、これらを使う「薬による中絶」を2003年から安全で効果的な方法と認めています。この薬が承認されれば、従来、外科的手術しかなかった日本の中絶の選択の幅は広がります。ところが、厚労省は3月24日、「パブコメの分析に時間を要する」として中絶薬の審議を延期しました。日本では中絶薬の証人の有無が不透明なうえ、承認されてもあまり使いやすい薬にならない恐れがあります。
 日本では、合法的に中絶を行えるのは母体保護法指定医師(以下「指定医師」)に限られています。そのため、現行法にのっとれば、この薬を使用できるのは指定医師のみになります。しかも中絶は「自由診療」なので、方法も料金も各指定医師が好きに決められます。そんな指定医師たちの利益団体である日本産婦人科医会は、承認後の中絶薬について、従来の手術同等の10万円程度に料金設定し、当面、入院させて厳重管理下で服用させると主張しています。厚労省は、「自由診療なので口出しできない」の一点張りです。
 中絶薬の最大の魅力は、侵襲性が低く(内診も検査も不要)、服用する人の自由度が高いことです。妊娠初期については安全性も有効性も非常に高いため、コロナ禍以降は「自己管理中絶」と呼ばれる方式が推奨され、各国に広まりました。インターネットや電話で問診し、問題なければ薬をオンライン処方して自宅に送付し、中絶を望む当人に服用させる方式です。
腹痛などの副作用は伴いますが一過性のもので、薬で緩和できます。妊娠12週までの初期なら、この方式で95%以上が中絶に成功します。
 この中絶薬は、現在、世界80カ国以上で使われており、平均卸値は日本円にして1,000円前後です。人権として保障すべき中絶ケアを健康保険の対象とし、実質無料の国も少なくないのに、日本ではすべての中絶医療が全面的に個人負担です。

新婦人しんぶん2023年4月8日5面 ジェンダーリレー講座〈112〉
中絶問題研究家 RHRリテラシー研究所主宰 塚原久美
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