リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

厚労省が製薬会社に指示!?:中絶薬の第2薬ミソプロストールの有効成分は「毒薬」と修正せよ

あまりにもずさんな「劇薬」「毒薬」指定……

ここ数週間にわたって、zoomとメールで「Mefeego Packの劇薬指定の根拠」についてやり取りをしてきた厚生労働省の医薬品審査担当官から8月10日に新たな回答が届きました。その中で、「ミソプロストールはおっしゃるとおり毒薬なので、その旨、ラインファーマ社に書き換えるよう指示した」旨の返信がきて驚いています。以下に説明しましたが、インタビューフォームは7月に書き換えられていました。


実は、日本のサイトテック(ミソプロストール)のインタビューフォームには次のように書いてあります。

製剤:劇薬、処方箋医薬品(注意-医師等の処方箋により使用すること)
有効成分:毒薬

「毒薬」とされた根拠を探していくと、毒性検査のうち、以下の結果が最も重大な問題を示していました。他は軽微であるか、緩解しています。

(3)生殖発生毒性試験 45~48)
 妊娠前・妊娠初期 45)、器官形成期 46)、周産期及び授乳期 48)の SD 系ラットに 99, 396 及び 1,584μg/kg/日を経口投与した結果、妊娠前・妊娠初期では、1,584μg/kg で着床数の減少及び生存胎仔数の減少が認められたが、同系ラットにおける正常範囲内であり、胎仔の発育には特に異常はみられなかった。器官形成期では胎仔の生存、発育に影響はみられず、催奇形性も認められなかった。また、周産期・授乳期では、99μg/kg 以上で出生時及び離乳時の出生仔の体重増加抑制がみられた。
 また、器官形成期のウサギに 99, 297 及び 990μg/kg/日を経口投与した結果、990μg/kg で着床後死亡率及び第 13 肋骨の出現頻度(肋骨数の異常)が増加した 48)。


中絶に用いる場合、ミソプロストールの分量は1回分800μgです。このウサギに投与した分量を体重50㎏の人間に置き換えると、49,500μgを投与することになり、これは通常投与量の約62倍にあたります。ただの塩だって一気に莫大な量をのめば人は死にます。ありえないことを前提に「危険だ」とすることは、あまりに非科学的ではないでしょうか。


一方、メフィーゴパックのミソプロストールは、製剤も有効成分も「劇薬」に指定されていました。なので、この齟齬を説明してほしいと質問したのですが、驚いたことに、何の説明もなく、次のように返答してきました。

フィーゴパックのインタビューフォームの記載に誤りがあり、ラインファーマに指摘して修正しています。
正しくはミソプロストールの有効成分は毒薬です。
御指摘いただきありがとうございます。

実際、メフィーゴパックの添付文書のページからダウンロードできる「インタビューフォーム 2023年7月作成(第2版)」を確認したら、次のように書き換えられていました。

Ⅹ. 管理的事項に関する項目
1. 規制区分
製 剤:メフィーゴ®パック
劇薬、処方箋医薬品:注)
注)注意-医師等の処方箋により使用すること
本剤は母体保護法指定医師のみが使用すること
有効成分:ミフェプリストン 劇薬
ミソプロストール 毒薬


何の医薬学的基礎知識もない私が、単に文書を細かく読んだだけで出てきた「事実」を、彼らや専門家たちは何の検討もせずにあっさりと採用したわけです。逆に言えば、彼らは既存文献に書いてあることを「見落として審議してきた」わけで、いかにいいかげんに「毒薬」「劇薬」指定が行われているかの証左だと思います。


実際、ラインファーマ株式会社が莫大なコストをかけて行った「動物実験」の結果に関して、その道の”専門家”たちが厳重に審議して決定した内容のはずなのに、全くの門外漢から「別の文献にはこう書いてある」と指摘を受けただけで、「毒物指定」に変えろと製薬会社に指示して書き換えさせたというのもあまりにずさんです。「一つでも怪しいことがあれば、何でもかんでも突っ込んで、より厳重に管理したい」という姿勢の表れとも感じられます。


そもそもの「劇薬」指定は動物実験の結果に基づいたもので、しかも「中絶に失敗して胎児が生き延びた場合に、その胎児に生じるかもしれない先天性の異常」を根拠にしているので、中絶医療に詳しいイギリスのSam Rowlands教授は、「すでに莫大な数の人間で試されてきた薬について、動物実験にさかのぼること自体がおかしい」と激怒して、「日本の厚労省の役人は現実の世界に生きていない!」と批判しています。私も厚労省に、「薬による中絶に失敗した場合には、外科的中絶を行うプロトコルになっているのだから、存在しないはずの『生き延びた仔』に対する影響を根拠に劇薬指定するのはおかしい」と指摘していますが、そちらに関してはきちんとした説明もありません。


また厚労省は、メフィーゴパックの2月のパブコメの最中だけ、「資料」として掲載した「添付文書(案)」から「劇薬」という文字を消していました。(パブコメ以前の「添付文書(案)」と、承認後の「連プ文書」には「劇薬」の文字があります。)なぜパブコメ時だけ「劇薬」という言葉が削除されていたのかも質問していますが、これについては何の説明もありません。パブコメ時の資料に「劇薬」という言葉があったら、そこに引っかかりを感じて意見を書く人がもっといただろうと思います。


なお、1人の人間が「劇薬の文字がない」ことに気づいて質問しても無視し、同じ1人の人間が「こちらには毒薬と書いてある」ことを疑問に思って質問したらさっさと文書の方を書き換える……あまりにも恣意的ではないでしょうか。


動物実験による劇薬指定については、8月15日公開の以下の記事にも載せていますので、ぜひ合わせてお読みください。

「人工妊娠中絶をめぐる日本の現状と課題」塚原久美
日本性教育協会『現代性教育研究ジャーナル』8月号(2023.8.15発行)
https://www.jase.faje.or.jp/jigyo/kyoiku_journal.html