国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 国際医療協力局 NCGM
WHO協力センターWHO Collaborating Centre for Health Systems Development
日本大学人口研究所 (JPN-78)
Nihon University Population Research Institute (NUPRI))
e WHO協力センター 日本大学人口研究所
「事業名(WCCとしてTORに基づいて行ったCOVID-19と出生行動に関する研究)」
1)事業の背景と目的
コロナ以降、出生率が急激に低下しており、わが国の出生率の低下が加速している。このような現象の背景を具体的に検証するため、当研究所が収集している調査データを使用して、分析を行い、今後の影響について考察を試みる。つまり、一時的な出生率の低下なのか、永続的な影響として残るのか、今後の我が国において重要な政策提言資料の提供を目的とするものである。
2)事業の概要
日本における出生力調査の代表的なものは、毎日新聞社人口問題調査会が1950年から2004年までに16歳から49歳の女性を対象としてほぼ隔年で26回行った「全国家族計画世論調査」であるが、これを引きつぎ2007年と2010年に対象を20歳から59歳男女としてNUPRIはWHOと共同で横断調査を実施した。その後、この調査は文部科学省の特別推進研究の助成を受け「少子高齢化社会における家族・出生・仕事に関する全国調査」として、2018年、2020年と継続的に調査を実施している。
調査結果からは、日本の出生率の特徴が観察される。図に示されているように、極端に低い出生率と避妊実行率、夫の成功頻度の低さなど、経済・社会的変数以外にも、これまでの出生率の研究ではあまり解明されていない点が明らかになっている。また、2020年の調査では個人のSexual Desire Inventory (性的欲求尺度)を収集している。成人男性の約5人に1人が、全く性的な興味がないことなどが判明している。
一方、コロナ禍の出生率は、最新のデータを見ると、合計特殊出生率(TFR)は1.33まで落ち込んでいる。しかし、TFRは短期的な影響、特に出生タイミングによる影響があるので、その影響を除いたTFRの推計値(生涯出生率の近似値)は1.90にまで上昇する。この値の持つ意味は、従来の出生パターンで出生されなかったケースである。つまり、出産を控えるカップルが非常に多かったことになる。図で示されているように、1980年以降で初めて記録する値であった。
3)今後の予定
今回のコロナ禍において、出生率が低下し、行動変容が起きているかどうかについては今後の研究が期待されている。われわれが集積した調査は、コロナが起こる直前にデータを収集(2020年初期)したもので、コロナの影響を受けていない。このデータ(パネル調査としてデザイン)を継続的に追跡、分析することで、今後の出生率の動向への解明に貢献することが可能になる。