リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

『「女の痛み」はなぜ無視されるのか?』

抜き書き


アヌシェイ・フセイン著 堀越英美訳 晶文社

どうすれば女性は力を取り戻せるのだろうか。女性の言葉を信じないのが長年にわたってスタンダードであり続けたのなら、私たちは医学界にどんな代替案を提示できるだろう。
 私が考える代替案はこうだ。医師や医療の専門家は、女性たちの声を条件反射的に無視するのはやめて、女性を信じることから始めるのはどうだろうか。そう、そこから始めるのだ。まずは女性を信頼し、性急な判断を下すのはやめようではないか。
p.97


米国ではほとんどの臨床試験で妊婦は組織的に除外されているという。……何十年もの間、妊婦はほとんど問題なくワクチンを受けてきたにも関わらず、「生きたウイルスが胎児に感染する理論上のリスクがある」ため、一般に妊娠中は生ウィルスワクチンを接種しないのだという。……
 またもや我々は、男性中心の科学・医学界が女性を置き去りにし、女性の健康を重視することなく後回しにするのを目の当たりにしている。今我々がリアルタイムで目にしているのは、アメリカでは成人女性の命よりも胎児のほうが大切に扱われているという現実だ。
pp.112-3


【ジョージ・】フロイドの死と人種間平等、出産の平等(バース・ジャスティス)運動を結びつけるものは何だろうか。そもそも出産の平等とは何なのか……「女性やトランスジェンダーの人々が妊娠、出産、産後において自らの力を発揮し、自分自身と赤ちゃんのために健全な決定を下すことができる」【こと】……
出産の平等とは、生殖への抑圧に対抗する広範な運動の一部でもある……
特に有色人種の女性、低所得の女性、暴力のサバイバー、移民女性、クィアトランスジェンダーの人々、南半球の発展途上国の女性にとって、否定的な出産体験につながる人種、階級、ジェンダーセクシュアリティの不平等を解体することを目的としている。
「出産の平等を実現するには、地域社会への啓もう活動を行い、医療関係者による虐待や医療介入の乱用に異議を申し立てることが必要です」……「文化的に適切な、女性を第一に考える医療への普遍的アクセスを提唱することも必要です。これには、妊娠するか否かを選択する権利、いつ、どこで、どのように、誰の立ち合い(助産師屋ドゥーラなど……を含む)のもと出産するかを選択する権利、母乳育児支援を受ける権利なども含まれます」
pp.245-5


女性患者として自分の意見を主張するのは、なかなかやっかいですね」……「まともに受けとめてもらうためには、はっきり自己主張する必要があるのでしょう。一方で、あまりに強く主張しすぎると、気難しくて要求の多い患者だと思われるのではないかと心配になることもあります。残念ながら、このような懸念が妥当であることが往々にしてあるのです。だからこそ、医療におけるジェンダーバイアスは、個々の患者さんが上手に自己主張するだけでは解決できない、構造的な問題であることを認識しておくことが大切なのです」
p.292


構造的な人種差別と家父長制を解体するまでの間、女性、特に有色人種の女性は、医師の診察室で自分を守るために何ができるだろうか。……
「自分の体のことなのです」……「医療提供者に自分の健康を完全にお任せするのが理にかなっていた時代もあったかもしれませんが、もはやそんな時代ではありません。私たちは医療チームの一員となる必要があります」
p.297