リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

優生連のサイト、日本初の「リプロダクティブ権」をめぐる仙台地裁判決とその後の高裁判決について

忘備録

優生連ホームページ


裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

判示事項の要旨
 1 平成29年法律第44号による改正前の民法724条後段の規定は、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効を定めた規定である
2 優生保護法による強制優生手術を受けた原告の国家賠償請求事件において、平成29年法律第44号による改正前の民法724条後段の規定による権利の消滅についての被告国の主張が権利の濫用にあたるとされた事例


仙台地裁判決
平成30(ワ)76  国家賠償請求事件 令和元年5月28日  仙台地方裁判所判決
「リプロダクティブ権」を認めるも「除斥期間」によって賠償は認められなかった。


大阪高裁2022年2月22日
令和3年(ネ)第228号 損害賠償請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所平成30年(ワ)第8619号・平成31年(ワ)第727号)
初めて国に賠償命令が下された判決。

「旧優生保護法の立法行為の違法性」を認め、「したがって、被控訴人は、控訴人らに対し、国家賠償法1条1項に基づき、本件各規定に係る違法な立法行為による権利侵害につき損害賠償義務を負うものというべきである。」とした。

控訴人3名について以下のような理由で慰謝料を認めた。

⑴ 控訴人1及び控訴人2の被害及び慰謝料
 前記2及び3での認定・説示のとおり、控訴人1及び控訴人2は、本人の同意のないまま、それぞれ旧優生保護法12条の申請ないし4条の申請に基づく優生手術を受けさせられ、身体への侵襲を受けた上、生殖機能を不可逆的に喪失したことで、子をもうけるか否かという幸福追求上重要な意思決定の自由を侵害され、子をもうけることによって生命をつなぐという人としての根源的な願いを絶たれたものであり、本件各規定に係る違法な立法行為(前記4)による権利侵害を受けたといえる。
 加えて、控訴人1及び控訴人2の被害は、このような身体への侵襲及び身体的機能の喪失というにとどまらない。すなわち、旧優生保護法は、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを目的とし、本件各規定において、本人の同意なく優生手術の対象となる障害ないし疾患を有する者を特定・列挙するものであるところ、控訴人1及び控訴人2のように本件各規定に基づき優生手術を受けさせられた者は、旧優生保護法の下、一方的に「不良」との認定を受けたに等しいと言わざるを得ない。制定法に基づくこのような非人道的かつ差別的な烙印ともいうべき状態は、控訴人1及び控訴人2の個人の尊厳を著しく損ねるもので、違法な立法行為による権利侵害の一環をなすものであって、そのような権利侵害は、上記のような優生思想に基づく規定を改める優生保護法の一部を改正する法律(平成8年法律第105号)の施行日前日の平成8年9月25日まで継続したものといえる。
 以上のような控訴人1及び控訴人2の生殖機能喪失をはじめとする被害の内容を踏まえると、その精神的苦痛に対する慰謝料はそれぞれ1300万円と認めるのが相当である。
⑵ 控訴人3の被害及び慰謝料
 控訴人3は、控訴人2との婚姻後に、控訴人2がその同意なく優生手術を受けさせられ、生殖機能を不可逆的に喪失したことで、控訴人2との間の子をもうけることができなくなったもので、配偶者との子をもうけるか否かという幸福追求上重要な意思決定の自由を妨げられるなど、控訴人2の生命を害された場合にも比類すべき精神上の苦痛を受けたといえるから、やはり本件各規定に係る違法な立法行為(前記4)によって権利を侵害されたというべきである。
 そして、その精神的苦痛に対する慰謝料は、上記のとおり控訴人2に対する慰謝の措置が別途講じられるべきであることも踏まえ、200万円と認めるのが相当である。
⑶ 弁護士費用
 本件各規定に係る違法な立法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては、控訴人1及び控訴人2については各130万円、控訴人3については20万円と認めるのが相当である。


仙台高裁2023年10月25日
令和5年(ネ)第181号
原告Aに対し3300万円の賠償
原告Bに対し,3850万円の賠償
以下は、Call4が明かにしている判決要旨
仙台高裁判決2023年10月25日

争点
5 本件立法不作為又は本件施策不作為に基づく損害賠償請求権の成否(争点1)
本件防止懈怠行為に基づく損害賠償請求権の成否(争点2)
民法724条後段(除斥期間)の適用の可否(争点3)
損害額(争点4)

リプロダクティブ権については次の判断が示された。

⑷ リプロダクティブ権をめぐる裁判例,学説等の状況旧優生保護法に基づき不妊手術を受けたと主張して損害賠償を求める訴訟が提起された事案は,本件が全国で初めてのものであり,旧優生保護法の本件規定及び本件立法不作為につき憲法違反の問題が生ずるという司法判断は,今までされてこなかった。そして,いわゆるリプロダクティブ・ライツという概念は,性と生殖に関する権利をいうものとして国際的には広く普及しつつあるものの,我が国においては上記のような事情もあり,リプロダクティブ権をめぐる法的議論の蓄積が少なく,上記概念が必ずしも十分に社会に定着しているとはいえない。

このうち、争点2について賠償が認められた。
 厚生大臣は,憲法99条に基づき,憲法を尊重し擁護する義務を負うとともに,厚生省を統括する立場にあったのであるから(国家行政組織法5条1項及び10条参照),違憲な優生手術を行わせないように通達若しくは指導し,又は旧優生20 保護法の改正案を内閣に提出して閣議決定を経て国会にこれを提出するなどして,優生手術を防止する義務を負っていた。それにもかかわらず,当時の各厚生大臣は,昭和23年7月13日(旧優生保護法の制定日)から,原告Aにあっては■■■■■■■までの間,上記義務を怠った。そして,旧優生保護法違憲無効であることは一見して明らかであるから,当時の各厚生大臣には,本件優生手術を防止するための措置を執らなかったことにつき,故意又は過失があったものといえる。
 したがって,当時の各厚生大臣による本件防止懈怠行為は,国家賠償法1条1項の適用上違法となる。