リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

帝王切開で母親の育児ストレスが増加

メディカル・トリビューン:トップ » 医療ニュース » 2023年 » 女性疾患・周産期 » 帝王切開で母親の育児ストレスが増加

帝王切開で母親の育児ストレスが増加|女性疾患・周産期|健康・公衆衛生_小児|医療ニュース|Medical Tribune

帝王切開で母親の育児ストレスが増加
2023年03月07日 05:05
366名の医師が参考になったと回答


 最近、保護者による児童虐待に関する報道が相次いでおり、その一因として育児への不安やストレスが挙げられる。育児ストレスは、親側の要因と子供側の要因に大別されるが、母親の分娩形態が育児ストレスに及ぼす影響は明らかでない。富山大学公衆衛生学講座講師の松村健太氏らは、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に参加した6万5,000人超の母親を対象として、分娩様式と育児ストレスとの関係を検討。その結果、母親の育児ストレスは経腟分娩と比べて帝王切開で有意に強く、特に子供に起因するストレスが寄与していたとEur Psychiatry(2023; 66: e18)に発表した。


母親の疼痛、子供の状態悪化などが影響か
 育児ストレスの増加は、児童虐待のリスク上昇、不適切な育児行動、親のQOL低下、家庭内でのコミュニケーションの悪化、家族と子供の感情的および行動的問題のリスク上昇につながる可能性があり、重大な公衆衛生上の懸念と考えられる。

 帝王切開は、母親の育児ストレスを増大させる可能性が指摘されており、台湾の人口ベースのコホート研究では、産後1年間のストレス症状リスクが経腟分娩に比べ帝王切開で高いことが示されている(発生率比1.4、95%CI 1.02~1.92、Birth 2017 ; 44: 369-376)。

 帝王切開による母親の育児ストレス増加の要因としては、①親側に起因:経腟分娩と比べて長期に痛みが残存、疼痛により育児要求への対処が難しい、②子供側に起因:喘息、肥満、ストレス関連障害など帝王切開との関連が指摘される疾患をはじめとする子供の状態の悪化により育児要求が強まる-ことが考えられる。しかし、いずれの影響が強いのか、あるいは両方が同等に関与しているのかは十分に検討されていない。

 そこで、松村氏らは母親の分娩様式と出産後1.5、2.5、3.5年時の育児ストレスとの関係を明らかにすべく研究を行った。


育児ストレス尺度を3要因に分類して調査
 対象はエコチル調査に参加し、単胎児を出産した母親6万5,235人(平均年齢31.4±4.8歳、妊娠前平均BMI 21.1±3.2)。分娩様式は帝王切開が1万2,049人、経腟分娩が5万3,186人で、帝王切開率は居住地域により14.1~24.9%の幅があった。

 育児ストレスは、19項目から成る日本版育児ストレスインデックス・ショートフォーム(J-PSI-SF)を用いて測定した。母親の育児ストレスを、①子供に起因するストレス(元気過ぎる、手がかかる、注意を維持するのが難しいなど)、②本人に起因するストレス(これまで楽しめていたことが楽しめない、何事もうまくできない、相談できる友人がいないなど)、③配偶者に起因するストレス(手伝ってくれない、子供がいることによって問題が生じているなど)-の3要因に分けて調べた。

 母親の年齢、BMI、分娩歴、在胎週数、妊娠合併症、教育歴、世帯収入、喫煙、飲酒、身体活動、ストレスの多い経験、妊娠への否定的な態度、社会的支援、精神的苦痛などを調整して解析した。その結果、経腟分娩群と比べて帝王切開群はJ-PSI-SFの総合得点が若干ではあるが有意に高かった(図、表)。総合得点の違いには、主に①子供に起因するストレス得点が寄与していた。


図. 分娩様式・要因別に見た調整済み育児ストレス得点の推移


(図、表とも富山大学プレスリリースより)


帝王切開では母児双方の精神的健康に配慮を
 松村氏らは研究の限界として、帝王切開が選択か緊急かは不明、育児ストレスを強く感じた母親が脱落した選択バイアスが存在する可能性、観察研究であるため因果関係は不明-を挙げた。その上で、「大規模調査から、経腟分娩に比べ帝王切開で出産した母親は育児ストレスが有意に強く、特に子供に起因するストレスの寄与が大きかった」と結論。その理由として「帝王切開による出生児は精神疾患との関連が指摘される腸内細菌叢の多様性が低いこと、ストレス反応系の発達には産道を通るという強いストレス経験が重要であり、それを回避したことでストレスにうまく反応できないことが子供の感情や行動に影響している可能性がある」と考察し、「帝王切開後は数年にわたり痛みが続く場合もあるので、母児双方の精神的健康に配慮することが重要だ」と付言している。

(小野寺尊允)