リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

「少子化」 問題のジェンダー分析

人口問題研究 (J. of Population Problems) 56-4 (2000. 12) pp. 38~69 特集:少子化と家族・労働政策 その2

「少子化」 問題のジェンダー分析 目黒依子他2000年

要旨

 少子化現象を女性の社会的役割観や家庭内のジェンダー関係の視点から分析し, 少子化に対する政策的含意, 提言を導き出すのが本研究の目的である1).
 本研究では, 少子化現象が「結婚回避」, 「出産回避」であると位置づけ, [1]社会システム, [2]価値観・意識, [3]結婚・出産・育児コスト感の3つの要因群に注目し, 各種調査データ等を分析, 検討,以下[1]~[3]の結果を得た.
 [1]社会システムとしては, 戦後の企業中心主義と「夫は稼ぎ手, 妻は主婦」という近代家族が一般化し, ジェンダー政策としても専業主婦優遇制度が設けられてきたものの, 女性のライフイベントの多様化, 女性の自立と自己責任を目指す社会の指向, 国際的なリプロダクティブ・ライツの思想など, 従来の枠組みとは不整合な要素が登場している. [2]価値観・意識については, ①1980年代にジェンダー意識の変化がみられるが, 男性の側の変化が小さいため男女差, 世代差が大きい. インタビュー調査などから, ②結婚のメリットは男女ともに減少しているが, 結婚のデメリットはとくに女性にとって大きいと意識されている, ③女性は, 自己犠牲にならないような結婚相手を求めているが, 男性の側には, 結婚相手について, とくにイメージがない, ④出産についても, 女性は自分の仕事に与える影響を心配しているが男性は無頓着, などのギャップが見出だされた. [3]結婚・出産・育児コスト感では, 複数の調査データの分析から, ①家事負担感が大きいと出産意欲は低く,夫の家事・育児参加をはじめとする家庭役割の分担が少ないほど出産意欲が低くなること, などを明らかにした.
 以上に示した少子化現象の要因分析から, とくに, 「結婚・出産・育児コスト感」 の軽減が急務である. そのためには, 「少子化対策」 として以下に示す3つのレベルの政策提言をする.
 第1に出産・医療システムのなかにリプロダクティブ・ライツ及びヘルスの観念を殖えつけ, 女性の生涯健康という観点に立ったシステムに組み直す, また地域の実情に即した育児サポート・システムを整備する,
 第2に 「男性は稼ぎ手, 女性は専業主婦」 という固定的な性役割を前提としたジェンダーシステムを変革する,
 第3に, 学校教育や市民教育を通じて新しいジェンダー意識やリプロダクティブ・ライツ及びヘルスの観念を普及させる, などの施策を推進する必要がある.