リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

WHO執行理事会でジェンダー平等をめぐる議論が後退か?NGOが懸念を表明

ヒューライツ大阪 福田和子さんによるレポート

WHO執行理事会でジェンダー平等をめぐる議論が後退か?NGOが懸念を表明

 2024年1月27日、スイス・ジュネーブで、5月開催の世界保健総会(WHA)注での議題を決めるための第154回WHO執行理事会が開催された。
 世界保健総会(World Health Assembly:WHA:WHO総会)とは、WHO(世界保健機関)の最高意思決定機関で、194の全加盟国・地域の代表で構成されている。「WHO執行理事会」は総会の下部機関として、34か国の執行理事から構成される。世界保健総会での決議や政策を有効に促進し、世界保健総会へ助言や提案を行う役割を担っている。

 この執行理事会に出席をしていた、公衆衛生分野におけるジェンダー平等を国際的レベルで推進するWomen in Global Healthは、その報告のニュースレターで「ジェンダー平等と女性・女児の権利に対する遺憾な反論」と題し、議論内容への懸念を表明した。
 主に語られたのは「ジェンダー用語の後退」であった。2023年9月に開催されたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に関するハイレベル会合では、例えば以下のような形で「ジェンダーに対応(gender-responsive)」という言葉を使用する合意があった。

 「最も効果的で、インパクトが高く、質が保証され、人間中心で、ジェンダー・人種・年齢に対応し、障害者を包括し、エビデンスに基づく介入を実施し、ライフコースを通じてすべての、特に、社会的に脆弱、もしくは弱者な立場にある人々の保健上のニーズを満たし、促進、予防、治療、リハビリテーション、緩和ケアのためのあらゆるレベルのケアにおいて、国が定めた質の高い統合医療サービスへの普遍的なアクセスを迅速に確保する。」

 しかし執行理事会において、「ジェンダーに対応(gender-responsive)」から「ジェンダーに敏感(gender-sensitive)」への変更が提案されたのである。

 Women in Global Healthによると、これらの語には以下のような相違がある。
ジェンダーに敏感(gender-sensitive)」は、
ジェンダーの規範、役割、関係がどのように個人の健康リスクと機会を形成するかについて認識はするが、不健康の根本原因であるジェンダーの不平等には積極的に対処しないあり方。
ジェンダーに対応(gender-responsive)」は、
男性、女性、ジェンダーに多様性を持つ人々の不健康と健康リスクを高めるジェンダー不平等を認識するだけでなく、ジェンダー不平等の解消に積極的に取り組むあり方。

 今回挙げられた争点は、2024年後半に討議される予定だが、もしこの後退が実現すれば、Women in Global Healthは「世界的に女性と女児が直面している特有の健康課題への取り組みへの後退であり、また、男性の予防可能な死を引き起こす割合が高い、タバコの使用、自殺、事故、殺人などへの取り組みへの後退でもある」と述べている。

訳注:
世界保健総会(World Health Assembly:WHA)は、WHOの最高意思決定機関で、194の全加盟国・地域の代表で構成される。

 総会の下部機関として、34か国の執行理事から構成される「WHO執行理事会」は、WHO総会での決議や政策を有効に促進し、WHO総会へ助言や提案を行う役割を担っている。

 WHO本部はスイスのジュネーブにあり、最高意思決定機関は、194の全加盟国・地域の代表で構成される「世界保健総会(World Health Assembly:WHA)」である。総会の下部機関として、34か国の執行理事から構成される「WHO執行理事会」は、WHO総会での決議や政策を有効に促進し、WHO総会へ助言や提案を行う役割を担っている。事務局は、事務局長(2017年からはテドロス・アダノム氏、1988年から98年まで中嶋宏氏が事務局長を務めた)をトップとし、6つの地域事務局(米州、アフリカ、南東アジア、欧州、東地中海、西太平洋)があり、世界各地に約150か所のWHO事務所がある。