リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

WHO (2020) 必要不可欠な保健サービスの維持:COVID-19文脈のための運用ガイダンス

コロナ禍でもエッセンシャルな医療を守っていくために WHOの出したガイダンス

Maintaining essential health services: operational guidance for the COVID-19 context

中絶に関連する箇所を仮訳します。

2.1.4 性と生殖に関する健康サービス
 国際人口開発会議行動計画および北京行動綱領に基づき、SRHサービスおよびリプロダクティブ・ライツへの普遍的アクセスを確保することは、SDGsの主要ターゲット(3.7および5.6)です。エボラ出血熱やジカウイルス感染症の大流行の教訓から、このような大流行時には、性と生殖に関する健康(SRH)サービスへのアクセスが著しく妨げられ、個人、特に女性や女児の力が失われ、予防可能な健康リスクにさらされる可能性があります。必要不可欠なSRHとMNHサービスの利用可能性が低下すると、必要不可欠なケアや緊急ケアを受けられないまま、意図しない妊娠、安全でない中絶、複雑な分娩が何百万件も増えるため、何千人もの母親や新生児の死亡を招きます。これらのサービスが10%減少しただけでも、今後12ヶ月の間に、1500万件の意図しない妊娠、330万件の危険な中絶、29000件の妊産婦死亡が追加されると推定されます(30、31、46)。
 施設ベースのSRHサービスの提供が中断された場合、WHOは、医薬品、診断薬、機器、情報、カウンセリングへのアクセスを確保するために、デジタルヘルスサービス、セルフケア介入、タスクシェアリング、アウトリーチを優先することを推奨します。この優先順位には、避妊、法律で認められている範囲での中絶、HIVヒトパピローマウイルス(HPV)を含む性感染症STI)の予防・治療サービスへのアクセス確保が含まれるべきです。既存のジェンダーと社会的不平等は、パンデミックの状況によって悪化しており、少女や女性は男性や少年とは異なる方法で影響を受けています。女性や女児の感染は、社会規範や介護の役割に対する期待に影響される可能性が高いのです。女性や女児は家庭で圧倒的な数の介護を行い、医療従事者の大半を占めています。全体として、脆弱なグループを保護しないことは、女性や女児をより高い感染リスクにさらし、より広範なCOVID-19への対応を弱体化させることになります。

プログラム・アクティビティ:法の及ぶ限り安全な中絶と中絶後のケア


サービスを安全に提供するための修正法:女性がふだん用いている避妊手段が入手できない場合、他の避妊手段(バリア方式、リズム法、緊急避妊薬を含む)をより容易に利用できるようにすべきである。経口避妊薬や自己注射による避妊薬、緊急避妊薬の処方箋の要件を緩和し、方法に関する明確な情報と副作用に関する相談へのアクセス方法とともに、複数月分の供給品を提供する。薬局やドラッグストアが提供できる避妊法の種類を増やし、数ヶ月分の処方や皮下注射による避妊が可能な場合は自己投与ができるようにする。


活動再開への移行:中絶と中絶後のケアに必要な医薬品と消耗品に関する在庫データを定期的に評価し、通常のサービスが再開された際に在庫切れになる可能性を回避すること。 遠隔医療が効果的であることが証明されている場合、薬物送達のための遠隔医療メカニズムを拡大することを検討する。

豊島区議会:性暴力やセカンドレイプ・差別発言に反対する指針と各議員の意見の表明を求めます。

女性差別撤廃条約を結んだ国だというのに……

性差別を放置してはならない……なんて当たり前のことを「主張」しなければならないこの国が情けない。

反対の声をあげていきましょう!

chng.it

政府もメディアもリプロダクティブ・ライツの根本が分かっていない

「産む支援」だけでは少子化は終わらない

2020年5月30日付の朝日新聞の記事「希望出生率1.8、強気の目標 少子化大綱、実効性カギ」の冒頭を紹介する。

 2025年までの少子化対策の指針となる政府の「少子化社会対策大綱」が29日、閣議決定された。子どもがほしい人の希望がかなった場合に見込める出生率「希望出生率1・8」の実現という安倍政権が掲げる目標も初めて明記したが、これまでも大綱の数値目標は未達のものが多い。経済や雇用の不安から結婚や出産をためらう若い世代に実効性のある支援が届くかは不透明だ。


出産・子育てへの経済支援を重視
 見直しは15年以来5年ぶり。新大綱では19年の出生数が推計で過去最少の86万4千人だったことから「86万(人)ショック」と表現。「少子化という国民共通の困難に真正面から立ち向かう時期に来ている」と危機感を強く打ち出した。


 過去の大綱に比べ、出産や子育てへの経済的な支援に多く触れ、高額な不妊治療は保険適用の拡大を検討すると明記した。パブリックコメントの約4割が不妊治療に関する内容だったため、一歩踏み込んだ。また、子ども1人あたり月1万~1万5千円を配る児童手当も、支給額の引き上げや対象の拡大を念頭に検討するとした。


 新型コロナウイルスの感染拡大によって子育て環境の整備の重要性が浮き彫りになったことから、電話やオンラインを活用した保健指導への取り組みや、収束後もテレワークを始めとした柔軟な働き方を推進することも盛り込んだ。


これまでもさんざん言ってきた「出産」「子育て」「不妊治療」の支援だけでは「少子化」は止まらず、出生率も改善しないということを、未だに学習していないとは頭が痛い。


今の科学をもってしても、「産める」のは女性だけである。少子化脱却のためには「女性」が生きやすく産みやすい社会を作ることが肝要である。そのために、今の日本にまず必要なのは「女性差別」と「女性に対する暴力」を徹底的になくすことであり、女性のリプロダクティブ・ライツをまっこうから否定し、女性たちを苦しめる根源になっている刑法堕胎罪と母体保護法の廃止など、抜本的な法の見直しを進めることだ。


そこから先は、多かれ少なかれ、世界各地で示されてきた女性差別撤廃の道のりを辿っていけばいい。日本がすでに採択している北京宣言及び行動綱領や女性差別撤廃条約で示されている道筋に沿った重層的な改革を行っていくのだ――政策に女性の声を反映させるためにクオータ制などのポジティブ・アクションを実施し、ワーク・ライフ・バランスを取りやすい職場環境の整備(男性の働き方改革も含む)を進めるなどの努力はもちろんだ。だが、それ以上に、何よりも「産む」主体である「女性」を本気で尊重する必要がある。「産ませる」ことしか考えていない政策では、女性たちにそっぽを向かれるばかりだろう。


今回の「支援拡大」にも見られるとおり、日本政府の「リプロダクティブ・ライツの保障」は女性自身に決定権を決して与えようとはせず、「産む」方向に誘導しようとするものばかりだ。リプロダクティブ・ライツの根幹は、「産む選択」も「産まない選択」も女性自身に委ねることである。なぜ日本は「産まない選択」を権利として認めようとしないのか?


それが「無理」なのは、日本では「中絶は犯罪」とされているためだ。犯罪を権利として擁護できるはずはない。しかし実際には、日本では「ほぼ自由に」と表現されるほど、合法的な中絶が大量に行われている。ただし、それは母体保護法で「違法性を阻却」されている場合に限られる。では、日本では「母体保護法で違法性阻却される範囲において中絶の権利を認める」と言えるだろうか? 「違法性を阻却」しているのは国家であり、国家によって制限される「人権」というのは、かなり問題がありそうだ。おそらくそこらへんを法学者が本気で議論し始めれば、普遍的人権であるリプロダクティブ・ライツに制限をかけてはならないし、そもそも女性のみが裁かれる自己堕胎を法で定めていること自体が女性差別だという結果になるだろう。少なくとも、世界の議論はそこに落ち着いてきた。


だから日本政府はそうした議論自体をしたがらず、女性差別撤廃委員会に何を言われようとも知らん顔を決め込んできた。中絶の権利について認めるかどうかは宗教的・文化的理由がある国については、それぞれの国に裁量権があるとして、事実上、中絶権の保障に関する国の義務が免除されてきたのを利用しているわけだ。そして、日本以外にそうした「免除」を受けている国々とは、中東を中心としたイスラム圏の国々や女性差別が甚だしいアフリカなどの最貧国がずらりと並んでいる。厳格なキリスト教国のアイルランドは一昨年に「女性の権利としての合法的中絶」が解禁され、かつては日本以上に女性差別が酷いと言われていた韓国も、昨年ついに堕胎罪に違憲判決が下された。


当然だ。自分の意識に反して妊娠してしまうことのある身体を生きている女性たちが、意に反する人生を「第三者に強制」されえない「主体」として生きていくためには、避妊や中絶は必須の医療だからである。逆に言えば、避妊や中絶が安全かつ確実に行える医療が発展した現代だからこそ、女性たちはそうした医療は「自分の裁量で用いるべきもの」だと考えられるようになった。第三者の意図で(妊娠・出産に誘導したい誰かの思惑で)制限されるのは人権侵害だと主張するようになったのは、主張できるようになったからである。


女性たちに、妊娠に関する自己決定と、安全な中絶手段を与えない国、女性たちに中絶の権利を認めていない国は「甚だしい女性差別のある国」なのである。


でもそれはおかしい。日本は女性差別撤廃条約を締結した国ではないか。条約締結国は、条約の理念に即して国内法を変更する義務があるではないか。そして再三、日本は女性差別撤廃委員会から刑法堕胎罪と母体保護法を見直すつもりはないのかと問われてきたということを、いったいどれだけの人が知っているだろう。


女の権利ばかり言うけど、胎児の権利はどうなのだ? 受精の瞬間から命ではないのか?……などと、反論してくる人もいるだろう。しかし、そうした議論は世界では20世紀の半ばから後半にかけてとてつもない規模で行われてきた。日本人よりよっぽど宗教心の篤い国々の人々が、学者が、宗教家が、アクティビストが、激論を交わしてきた。その結果、グローバル規模で築き上げられた合意事項が、女性のリプロダクティブ・ライツなのだ。


だから、大論争になろうとも、わたしは何も恐れない。感情論や根拠のない持論にこだわる少数の人々は別にして、きちんと議論を積み上げていけば、「産む性」を人間として「産まない性」と等しく扱うことを決意するなら、社会的には中絶の権利は与えるべきもの、与えざるをえないものだという結論に落ち着くしかないのだから。


それを認めた時点で、初めて本当の意味での「女たち自身にとって産みやすい社会」に向けての大変革が始まるのではないか。女自身が産みやすいと感じる国は、希望出生率が実現される国であり、おそらく希望出生率そのものが上昇していく国になるだろう。


リプロダクティブ・ライツの根本は、「産む選択」も「産まない選択(安全な中絶)」も等しく保障された上で、「産む産まないは女が決める」ことにある。なぜなら女は「産む機械」ではなく、それぞれに自分の人生を生きている「人間」なのだから。「中絶する女性」と「出産する女性」は別々に存在しているわけではなく、同じ一人の女性が自分の人生過程のどこかで中絶を選んだり、出産を選んだりしているだけなのだ。女性たちを信じ、女性たちが生きやすい社会を整備し、その上で女性たちに「選ばせる」ことで、出生率はプラスに転じる。そこが分かっていない「少子化対策」は失敗する運命にある。

影のパンデミック対策のために財源割り当てを提案

UN Women事務局長の声明の2日後、各国政府等に対応を求めていた

今になって見ました……。UN Womenの事務局長が「影のパンデミック」声明を出したのが4月7日。そのわずか2日後の4月9日に、次の提言が出されていました。

COVID-19と女性・女児に対する暴力

世界中で女性・少女への暴力が増えている問題を指摘した後で、次のような具体的な提言が並んでいます。

上記の問題を踏まえ、政府・国際機関・市民社会を含む社会の全てのセクターに向け、本報告書は以下の措置をとるよう提言しています。
1 COVID-19 に係る国家レベルの対処方針・計画の中で、女性・女児に対する暴力対策のために追加で財源を割り当て、証拠・データに基づいた措置をとること
2 COVID-19が蔓延する中で、暴力にさらされる女性への支援を強化すること
3 暴力の予防や対応に関連する重要な行政サービスの質を向上させ、不処罰を予防すること
4 女性を政策変容・解決手段・復興の中心に置き、女性の声が反映されるようにすること
5 女性・女児特有の影響を把握し、適切な対応に結び付けるために、性別データの収集を進めること

日本では、DVについては支援窓口設置やDV夫を介さずに被害者が特別支援金を受け取れるようにする措置などが取られましたが、それ以外はほとんど何もできていない。DVに該当しないがために放置されている性暴力や性虐待にもしっかり対処すべきです。

まずは実態把握のためのデータ収集が必要ですね。ところが、新型コロナウィルスの検査と同じで、「臭いものにはふた」をして見て見ぬふりをすることが、この国ではあまりにも多いような気がします。

日本政府は技能実習生の権利について何もしていなかったわけではなかった!

追加情報

ベトナム人実習生の「堕胎容疑」問題についてについて、友人から情報提供がありました。

なんと、昨年、こんな注意喚起が行われていたというのです!

妊娠等を理由とした技能実習生に対する不利益取扱いについて(注意喚起)

つまり「妊娠による不利益取り扱い」は厳禁だとされているわけなんですね! それは朗報!!

そうであるなら、そうした方針を守ってなかった実習生取り扱い団体が悪いのか、はたまた知らされていなかったグエンさんの不幸なのか……あるいは、こういう通知をちゃんと周知できていない国の側に問題があるのか……とは思いますが。

外国人技能実習生に対する不利益取り扱いに関する政府の注意喚起

技能実習生に関する政府の取り扱いについて書いたログの情報について、政府の注意喚起内容を引用しておきます。

平成31年3月11日
実習実施者
監理団 体 各位
法務省入国管理局入国在留課
厚生労働省海外人材育成担当参事官室
外 国 人 技 能 実 習 機 構

妊娠等を理由とした技能実習生に対する不利益取扱いについて
(注意喚起)

技能実習制度において、監理団体及び実習実施者は、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に努める責任があります。また、技能実習生に対しては、日本人と同様に日本国の労働関係法令が適用されます。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第103号)第9条においては、「婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止」が規定されています。この規定は、当然ながら技能実習生にも適用されるものであり、婚姻、妊娠、出産等を理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは認められません。

また、技能実習生の私生活の自由を不当に制限することは、外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(平成28年法律第89号)第48条第2項により禁止されています。

このため、このような取扱いを行わないようお願いします。

なお、日本へ入国する前に技能実習生と送出機関の間に交わされた契約において、仮にこのような取扱いを行うことがある旨の内容が含まれている場合でも、それを根拠に我が国の法令に反する取扱いをすることは出来ないことをご承知いただくようお願いします。

併せて、監理団体におかれては、入国後講習の機会等をとらえて技能実習生に対してこれらの法の周知を徹底いただくようお願いします。

参考
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
第九条 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
4 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」
(禁止行為)
第四十八条 (略)
技能実習関係者は、技能実習生の外出その他の私生活の自由を不当に制限してはならない。