各社報道してますが,微妙にニュアンスが違うのが面白い。まずは共同通信。「女性の敗訴」である点が強調されている。
2006年 9月 4日 (月) 15:35
夫の死後、凍結保存されていた精子で体外受精し、男児を産んだ40代の女性が男児(5つ)を夫の子として認知するよう求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷は4日、認知した2審高松高裁判決を破棄、請求を棄却した。女性の逆転敗訴が確定した。
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http://news.goo.ne.jp/news/yomiuri/shakai/20060904/20060904it07-yol.html?C=S
フランス人権宣言に対して,女性の人権宣言を書いたオランプ・ドゥ・グージュが,女性が産んだ子に関して「父親が誰であるかを特定する権利」を主張していたことを思い出してしまいます。(ちなみにグージュは非嫡出子でした。その事実と女性に産まれたことが,彼女の人権意識を養ったのではないかと個人的には思います。)
朝日新聞は,「親子関係が立法で決まっている」点に着目。それで思い出したことを一つ。もう10年くらい前になるかな? 「再婚禁止期間」に産まれた子が自動的に前夫の子と“認定”されてしまうがために,親子関係を修正するため,家裁の調停を受けていた女性と知り合いでした。元夫と新しい彼と彼女の3人が揃って,新しい彼の子どもであることは間違いないと主張しているのに,何も知らない他人がその“事実”をなかなか認めてくれない。その“事実”を認めさせるために,性交の事実について根ほり葉ほり聞かれるのはプライバシー侵害じゃないか!?と彼女が憤っていたのが忘れられません。
2006年 9月 5日 (火) 00:18
夫に先立たれた西日本在住の女性が凍結保存していた精子による体外受精で出産した男児(5)について、夫の子として認知できるかどうかが争われた訴訟の上告審判決が4日、最高裁であった。第二小法廷(中川了滋(りょう・じ)裁判長)は「死後生殖について民法は想定していない。親子関係を認めるかどうかは立法によって解決されるべき問題だ」と述べ、立法がない以上父子関係は認められないとする初めての判断を示し、認知を認めた二審・高松高裁判決を破棄。女性側を敗訴させる判決を言い渡した。
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判決は、死後生殖によって生まれた子が認知されることによって、いまの民法の下でどのような法的メリットを得られるのかを検討。「父から扶養を受けることはあり得ず、父の相続人にもなり得ない」と指摘した。法律上の親子であれば存在するこうした「基本的な法律関係」がないことを踏まえ、「立法がない以上、死後生殖による父子には、法律上の親子関係の形成は認められない」と結論づけた。
第二小法廷は、今回のような例で父子関係を認めるべきかどうかは「生命倫理、子の福祉、社会一般の考え方など多角的な観点から検討を行った上、立法によって解決されるべき問題だ」と法整備の必要性を指摘した。
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4裁判官全員一致の判決。滝井繁男、今井功両裁判官は補足意見で、生殖補助医療により生まれる子に関する法整備を速やかに行うよう求めた。http://news.goo.ne.jp/news/asahi/shakai/20060905/K2006090402990.html?C=S
讀賣の社説は,タイトルを見る限り,「生殖補助医療」への悪影響を懸念し,そのための法整備を推進する雰囲気です。
讀賣新聞
9月5日付・読売社説(2)生殖補助医療の進歩に、どう対処すべきか。最高裁が、新たな法制度の整備を求める一歩踏み込んだ判断を示した。
凍結保存した夫の精子で夫の死後に妊娠、出産しても法律上の父子といえるかどうかが争われた裁判だ。その上告審で判決は「立法によって解決されるべき問題だ」と指摘した。
現在の民法では死後の生殖を想定していないとし、「法律上の親子関係は認められない」と結論付けている。
控訴審の高松高裁は一昨年、血縁上の親子関係があるうえ、夫も生前、この手法に同意していたとして、法律上の父子関係を認めていた。
これに対し、同種の訴訟で、東京、大阪の両高裁は認知することを否定しており、高裁により判断が分かれていた。……
http://news.goo.ne.jp/news/yomiuri/editorials/20060905/20060904ig91-yol.html?C=S
とはいえ,いちおうは「子の権利」にも触れている。
讀賣続き
妊娠前に既に父親が生存していない子の出生を、法律上も認めることについては、「本来、子は両親が存在して生まれてくる」「親の意思と自己決定を過大視したもの」と述べている。生まれてくる子の福祉を、強く意識した判断、と言えよう。
http://news.goo.ne.jp/news/yomiuri/editorials/20060905/20060904ig91-yol.html?C=S
だけどそちら以上に,やっぱり生殖補助医療を推進するほうに主眼があるみたいですね。
讀賣続き
注目されるのは、判決が、この問題にとどまらず、生殖補助医療の現状に危惧(きぐ)を表明したことだ。死後生殖だけでなく、他の夫婦の子を代わって宿す代理母、第三者からの精子や卵子の提供、妊娠前と妊娠中の遺伝子診断による妊娠継続の判断技術など、さまざまな手法が普及している。
しかし、何ができて、何が許されないかは、医学界や、個々の医師の自己規制に委ねられている。
判決の補足意見は、これについて「医療行為の名において既成事実が積み重ねられてゆくという事態を放置することはできない」と批判している。
厚生労働省や法務省は、この問題で法整備を検討したことがある。厚労省が2003年にまとめた報告書は、死後の生殖を規制することを含め、生殖補助医療の全般に一応の見解を示している。
だが、理解は広まらず、法制化は頓挫したままだ。最高裁は、こうした行政と立法の姿勢に疑問を呈した。
カップルの10組に1組が生殖補助医療で妊娠、出産する時代といわれる。生まれてくる子のためには、どんな法整備が必要か。政府、国会は本格的に論議を始める必要がある。
http://news.goo.ne.jp/news/yomiuri/editorials/20060905/20060904ig91-yol.html?C=S
まあ妥当な論説かな……とは思う。ただし,最後の1段については,「カップルの10組に1組が不妊だといわれる時代」の間違いではないかと思うのだけど……? それとも,わたしが前に調べたときより,さらに事態は進展しているの?
最後に産経新聞の記事。今回の判決の背景がけっこう分かるので。
2006年 9月 5日 (火) 03:33
……
判決理由の中で中川裁判長は「死後懐胎で生まれた子と死亡した父との間には、親権や扶養、相続といった法律上の基本的な親子関係が生ずる余地がない」と指摘。その上で「親子関係の形成に関する問題は、死亡した者の保存精子を用いる人工生殖に関する生命倫理、生まれてくる子の福祉、社会一般の考え方など多角的観点から検討し、親子関係を認めるか否か、認めるとした場合の要件や効果を定める立法によって解決されるべき問題」と述べ、法整備の必要性を指摘した。
……判決によると、女性の夫は白血病と診断され、骨髄移植手術で放射線を浴びて無精子症になることを懸念して精子を凍結保存。女性は夫が平成11年に病死後、凍結保存した精子で妊娠し、13年に男児を出産した。
女性は嫡出子(結婚した男女の子)として出生届を提出。しかし、民法上は夫婦関係の消滅後、300日以上を経過して生まれた子は嫡出子と認められず不受理となった。家裁に不服申し立てをしたが却下され、最高裁まで争ったが不受理が確定。14年6月、死後認知を求めて提訴した。
1審・松山地裁は、こうした方法で生まれた子を亡くなった父の子とする社会的認識は乏しい−などを理由に訴えを棄却。これに対し2審は、「妊娠時の父の存在を認知の要件とする理由はない」として、認知を認める判決を言い渡していた。
http://news.goo.ne.jp/news/sankei/shakai/20060905/m20060905000.html?C=S
親子関係の法制化だけではなくて,どこまで,どのように生殖補助医療を用いていいのかといったことはもちろん,もし自由化するなら,お金がある人とない人とで,リプロダクションの可能性に違いが出てくることについてどう社会的に対応していくのか……といったことも考えるべきだと思う。